Yahoo!ニュース

王毅外相「日本は“心の病”を治せ!」――中国こそ歴史を直視せよ

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
「日本は“心の病”を治せ」と、記者会見で日本の歴史認識を批難する王毅外相(写真:ロイター/アフロ)

王毅外相は「日本は“心の病”を治せ!」と日本の歴史認識を批難したが、中国こそ自国の真実を直視すべきだ。先般対談をした亡命漫画家ラージャオ氏は、「日本はなぜ中国共産党の嘘を指摘しないのか」と疑念を呈した。

◆日本は“心病”(心の病)を治せ!――王毅外相、記者会見で

王毅外相は3月8日に行われた記者会見で、日本の記者からの「今年は日中国交正常化45周年だが、日中間の歴史問題を乗り越えるために何か良い方法はあるか?」という質問に対して、おおむね以下のように答えた。中国共産党の機関紙「人民日報」の電子版「人民網」が伝えた。

――今年はたしかに中日国交正常化45周年記念だが、同時に“盧溝橋事件”80周年の年でもある。一つは平和への道であり、もう一つは戦争と対抗への道だ。80年前、日本は全面的に中国を侵略し、中国やアジア各国の人民に甚大な災難をもたらし、最終的に日本自身が失敗の深淵への道をたどることとなった。45年前に日本の指導者は(日中国交正常化をして)歴史を反省したはずだが、しかしこんにちに至るもなお、日本には歴史の逆行をもくろむ者がいる。われわれは日本との関係を改善したいが、そのためには日本がまず“心病”(心の病)を治さなければならない。そして中国が絶え間なく発展振興している事実を、理性的に受け入れなければならない。(ここまで引用)

なんという傲慢さ。

中国共産党自身が自らの歴史の真相を隠蔽していることを、国際社会がいつまでも知らずにいるとでも、思っているのだろうか?

◆中国共産党の歴史の真相を隠蔽している中国

拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』にも詳述したように日中戦争(抗日戦争)中、中共軍を率いる毛沢東は、中共軍が日本軍とまともに戦うことを許さず、中共スパイに指示して、蒋介石が率いる国民党軍の軍事情報を日本側外務省系列(の岩井公館)に高く売りつけ、日本軍が国民党軍兵士をやっつけやすい状況を創り出していた。国民党軍の軍事情報は、1936年末に起こした西安事変により1937年に入ってから始まった国共合作によって入手できた。

1937年7月7日に盧溝橋事件が起きて日中戦争が本格化すると、同年8月、毛沢東は洛川(らくせん)会議を開いて、「中共軍の兵力の10%しか抗日のために使ってはならない。70%は中共軍拡大のために使い、残りの20%だけ、国民党軍と妥協するために(あたかも国民党軍と合作しているかのごとく装うために)使え」と命令している。

この70%の中には、岩井公館からせしめた高額の情報提供料(日本国民の血税:外務省機密費)によって中共軍を強大化させる資金が入っている。この資金は武器購入以外に、主として民衆を中共側に惹きつけるための(虚偽の)思想宣伝費に使われた。中国共産党というのは「(偽の)宣伝」によって拡大してきたようなものだ。そして昔から「宣伝力」だけは、実に巧みだ。

この「70%、20%、10%」という割合は、「七二一方針」という専門用語として固定化されているほどで、中国語のWikipediaにも載っている。「七」は「70%」、「二」は「20%」、「一」は「10%」の意味である。中国語では「七分」「二分」「一分」と表現することが多い。

その死により天安門事件を惹起した胡耀邦・元総書記は、改革開放(1978年12月)後、真実を語ってもいい時代が来たと思ったのか、1979年2月にスピーチの中で「もし中国人民がわれわれ(中国共産党)の歴史の真相を知ったならば、人民は必ず立ち上がり、我が政府(中共政府)を転覆させるだろう」と言ったことがある。そのスピーチを目の前で聞いていた当時の文学青年・辛●年(しんこうねん。●はサンズイに景と頁)氏(アメリカ在住)は、その証言者の一人だ。

胡耀邦・元総書記が語った「われわれの歴史の真相」とは、まさに筆者が『毛沢東  日本軍と共謀した男』に書いたことであり、その中にはこの「七二一方針」が含まれている。 

◆習近平政権指示――中共の歴史的過ちを語ってはならない

習近平政権が誕生してから言論弾圧が激しくなったことは、今さら言うまでもないが、2013年に出された「七不講(チー・ブージャーン)」(七つの語ってはならないこと)の中には、「中国共産党の歴史的過ちを語ってはならない」というのがある。

互いに話をしてもいけなければ、特に教育機関で「絶対に教えてはならない」ということになっている。そのため大学の教室には、いくつもの監視カメラがあり、教師が何を語ったかをチェックするようになっているという。

もし、中国共産党が「知られては困ること」をしていなければ、何も「中国共産党の歴史的過ちを語ってはならない」などという「禁止令」を発布する必要はなく、監視カメラで教員を監視する必要もないだろう。

「知られては困る、建国の根幹に関わる嘘」を抱え込みながら、「中国共産党が如何に偉大で」「抗日戦争時代、いかに勇猛果敢に日本軍と戦ったか」「だからこそ、中華人民共和国が誕生したのだ」などという虚偽の思想宣伝を強化しているからこそ、ますます言論弾圧を強化しなければならなくなっていくのである。

筆者のかつての教え子たち(元中国人留学生)の多くは、すでに中国の大学の教授クラスになっているが、彼らもまた監視の中にあり、絶対に中共政権に批判的なことや懐疑的なことを言うことはできない。もちろん文化大革命とか天安門事件などに触れてはならず、ましていわんや、抗日戦争中に中共軍が日本軍と結託していたなどということなど、おくびにも出してはならない。即刻、逮捕投獄されるだろう。経済学の授業で「国家資本主義」という言葉を使ってしまった元教え子は辞職に追い込まれた。このように、ついうっかり言った者でも拘束されるし、真実を語りたい者は逮捕投獄を覚悟するか、投獄を逃れて海外に逃亡して、海外で発信するしかないのである。

◆ラージャオ氏:日本はなぜ「中国こそ歴史を直視しろ!」と、主張しないのですか?

先般、『マンガで読む 嘘つき中国共産党』の作者・辣椒(ラージャオ)氏と月刊『Hanada』(2017年5月号。3月25日発売)で雑誌対談をした。彼はわざわざ逃亡するために日本に来たわけではないが、日本滞在中に「帰国したら逮捕される」という情況に追い込まれ、「逃亡」を選んだ者の一人だ。

ラージャオ氏は現在の習近平政権である中国共産党が嘘をついていることを風刺マンガに描いて逮捕されそうになっており、中国のネットユーザーに「売国奴」と罵倒されているようだ。ネットユーザーと言っても、いわゆる中国政府のためにコメントを書く「五毛党」たちなのだが、実は拙著『毛沢東 日本軍と共謀した男』の中国語版(2016年6月、ニューヨークのMirror Media Group)が出版されても、これを罵倒する五毛党たちのコメントが案外少ない。

この現象に関して、ラージャオ氏は「遠藤先生の本は中国共産党の核心をついているので中国政府も批判できない。批判したらますます真実が暴かれてしまうから、中国共産党も見て見ぬふりをしているのですよ」と分析した上で、以下のような疑問をぶつけてきた。

――私はいま日本の重要性がますます高まっていると思っています。これまで日本は常に中国から「お前らは歴史を歪曲している」と言われ続け、実際は歪曲などしていないにも拘わらず萎縮してしまい非常に肩身の狭い思いをしてきた。

なぜ日本は「中国よ、お前たちこそ歴史を歪曲しているではないか」と言わないのか不思議で仕方がないのです。遠藤先生がおっしゃったように国家の成立から嘘をついている。そして中華人民共和国が誕生して以降も、国の正統性を維持するために何千万人という自国民を死に追いやってきました。「中国こそ、歴史を直視しろ!」と日本が言ってくれることで犠牲となった中国人民を弔うことができ、いま大陸で生活している中国人民も救うことができるのです。

日中友好を唱える人達にも、それこそが真の日中友好ではないですか、と言いたい。

言論統制下に置かれた中国人民では、なかなか行動することは難しいのが実態です。だから僭越ながら私は安倍総理にお願いしたいのです。どうか、中国人民のためにも中国に対して真実を発信し続けてください、中国人民を救ってください、と。(ここまで引用)

たしかに――。

中国人民は自分からは叫びにくい。中国人民が叫んでこそ説得力があるという側面はあるが、国内で叫べば逮捕投獄される。虐げられている中国人民に手を差し伸べてあげることこそ、真の“友情”であり“思いやり”であり、“国際的責任”でさえあるという側面も見落としてはなるまい。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

遠藤誉の最近の記事