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フィル・ミケルソン、シニアのデビュー戦で完全優勝がもたらすもの

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
「old」と言われてばかりだったミケルソン。「young」と言われて大喜び!?(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 50歳になったばかりのフィル・ミケルソンが米シニアのデビュー戦でいきなり優勝したことは、往年のファンにとっても、明るい話題が枯渇するこのご時世においても、うれしいニュースだ。

 チャールズ・シュワッブ・シリーズ・アット・オザーク・ナショナルを2位に4打差で圧勝。3日間リードを維持した堂々の完全優勝。

 この勝利には、いろいろな意味と意義があるのだと思う。

【「もう年だから、、、」】

 一昨年、そして昨年、シニア入りの年齢が秒読み段階を迎えつつあったころ、ミケルソンは複雑な胸の内をしばしば明かしていた。「やっぱり自分はそろそろ年齢的には限界なのだろうか?」という意味合いのことを、ことあるごと口にしていた。

 そう思うのも無理はない。昨今の米ツアーはコリン・モリカワのように22歳でツアー初優勝を挙げ、23歳で、しかもメジャー挑戦わずか2度目で堂々優勝する世界となりつつある。

 モリカワのみならず、マシュー・ウルフ、ビクター・ホブランドなど、2019年プロ転向組はエリート揃いの「クラス・オブ・2019」と呼ばれ始め、大きな注目を集めている。

 その中で48歳、49歳、そして50歳という年齢になれば、自分はすっかり「too old」と感じられてもおかしくはない。いや、そう感じて当然であろう。

 タイガー・ウッズなどは35歳ごろから「僕はもう年だから」というフレーズを冗談交じりに口にし始め、40歳を過ぎたころからは大真面目に繰り返すようになった。

 そう、この10年ぐらいで米ツアーの若年化は一気に加速した。だから、40歳代になると、年齢的に衰えたように感じてしまう。

 それは、止めようがない流れであり、有能な若者たちの台頭はむしろ朗報であり、衰えを感じる年齢が早まることは、ある意味、仕方のないことなのだろう。

 だが、それを聞かされるゴルフファンにしてみれば、選手たちが40歳代で「もう年だ、すっかり年だ」を強調すると、「えっ?40代で年なら、自分はどうなる?」と思ってしまうこともあるはず。

「ゴルフは何歳になっても楽しめるスポーツのはずなのに、、、、」

「暗い顔をしてほしくない、、、、」

 そんなふうに感じていたゴルフファンも少なくなかったと思う。

【自信と笑顔を取り戻す】

 そんな中、ミケルソンがチャンピオンズツアーのデビュー戦で優勝し、再び笑顔を輝かせたことは、「やっぱりゴルフは、何歳でも楽しめる」ことを再認識させてくれた。

 なにより「なるほど」と頷かされたのは、ミケルソンのこの言葉を聞いたときだった。

「『キミはまだ若いから』なんて言われたのは久しぶりだった。だから、とてもうれしかった。これからビッグなメジャー大会がある。全米オープン、マスターズに備えるためにも、これは最善な道だと思う」

 米ツアーで若者たちと伍して戦うことももちろん必要だが、そこで無理や無茶をして、勝てない日々を続けたり、情けない思いを味わい続けたりするより、「最も若い」という有利な立場でシニアの大会に挑み、「youngest」を最大の武器として戦い、堂々勝利して自信を取り戻す。

 その自信と健全なメンタル面と笑顔を引っ提げてこれからやってくるメジャー大会、全米オープンやマスターズに挑めば、結果は自ずと異なるのではないか。

 ミケルソンは、自分自身の新たな歩み方、今こその歩み方を見つけたわけで、それが嬉しいと喜ぶ姿は、眺めていても嬉しくなる。

 見る人をハッピーにすることは、プロアスリートの役割。ミケルソンの優勝は、大勢の人々をハッピーにしてくれた。

【変則大会、ビッグな賞金】

 シニアのデビュー戦で「youngest」を武器にして優勝したのは、ミケルソンが史上20人目だ。

 アーノルド・パーマーもジャック・ニクラスもゲーリー・プレーヤーも、みなシニアのデビュー戦を制覇した。

 科学的なトレーニング方法や栄養学的分析に基づく食事方法などが広まっている近年は、チャンピオンズツアーのデビュー戦を制するケースは格段に増え、トム・レーマンもトム・パーツァーも、ジェフ・マガートやミゲル・アンヘル・ヒメネスも、みなデビュー優勝を飾っている。

 ミケルソンは7月のフェデックス・セント・ジュード招待で優勝争いにも絡んだほどだから、肉体的な衰えは、昔の50歳よりは少ないはずだ。

 タイガー・ウッズも「フィルのあの飛距離はビッグ・アドバンテージになる。(チャンピオンズツアーで)出る試合すべてで優勝できるよね」と絶賛している。

 しかし、やっぱりミケルソン本人にしてみれば、加齢との戦いや苦労、心労はいろいろあった。そして、今回の勝利で失いかけていた自信を取り戻すことができた。

 その笑顔を見たとき、とても幸せな気持ちになったファンがどれほど大勢いたことか。それが、彼の優勝の最大の意義だ。

 そして、もう1つ付け加えると、米チャンピオンズツアーがコロナ禍の中で試合開催のために力を尽くしていることも、ミケルソンのこの優勝をもたらした1つの要因だった。

 同大会は、コロナ禍で大会数が激減してしまっている中で、米ツアーがなんとか開催まで持っていったもので、8月24日から26日の月火水の3日間という変則大会だった。

 決勝は週末。優勝が決まるのはサンデー・アフタヌーン。それはゴルフの大会の「常識」みたいなものだが、今は、そんな常識を破ってでも、壊してでも、選手たちの戦う機会と場を創出することが第一。

 そんな米ツアーの姿勢があったからこそ、ミケルソンが笑顔を取り戻すことができた。

 さらにもう1つ付け加えると、シニアとはいえ、優勝賞金は45万ドル。5000万円近い金額を稼ぐことができる。

 その意味も、やっぱり大きいと私は思う。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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