新たな記録に迫る劇場版「鬼滅の刃」無限列車編、なぜ「千と千尋」との勝ち負けで語られてしまうのか
公開から数々の記録を打ち立ててきた劇場版「鬼滅の刃」無限列車編が、いよいよ歴代興行収入の最高記録更新に迫り、本日発表されるであろうこの週末の興行結果へと大きな注目が集まっています。
そんな中、最近になってよく話題にされているのが、日本の歴代興行収入の最高記録を持つ映画「千と千尋の神隠し」と本作が、まるで勝った負けたの競争をしているかのようなニュースです。
確かに、記録の抜いた抜かれるには現在多くの注目が集まっていますが、それに対する個人の感想や作品の好みに関する論争に焦点を当てて、作品の優劣を争っているかのように報じられてしまうことには、戸惑っている人も多いと思います。
一体何故、両作品に対してこのような言い回しがされてしまうのか、表現への是非を問うのではなく、その根本的な理由を考えてみます。
◆種目ではなく選手と捉えられている?
大きな理由として、両作品が同じ“アニメ・アニメーション”というカテゴリでもあるからか、“同じ土俵・同じルールの下に競い合う選手同士”のように思われてしまっていることがあるように思います。
だからこそ、分かりやすい結果としての興行成績から作品そのものの優劣が比較されたり、そうした際によく挙げられる入場特典の有無といった“異なる条件”が、まるでルール違反であるかのように語られたりしているのではないでしょうか。
しかし実際はご存知の通り、いくら同じ“アニメ・アニメーション”と分類されるとはいえ、両作品は興行条件の違いだけでなく、そもそも内容もファン層も、作品展開も製作状況も、観客が好きなポイントもそれぞれにしかない魅力も、全く違います。
それは“同じ土俵・同じルールの下に競い合う選手同士”どころか、いわば“フィールドもルールも全く異なる種目同士”のようなもので、それらを並列して比較することは、『サッカーよりバスケの方が面白い』『なんでテニスの方が面白いのに野球の方が人気なんだ』といった答えのない論争をするようなものなのです。
そうした話題も、個人的な議論や会話で盛り上がるのは分かりますが、第三者が取り上げて広く公表するものなのかというと…少し疑問でもあります。
興行成績を発端に、両作品の優劣や勝つ負けるといった観点からの報道がなされるたびに、決して少なくないネガティブな反応が両作品ファンから起きるのも、そうしたちょっとピントがずれているような感覚が引っ掛かってのこともあるのではないでしょうか。
それぞれの作品にかける想いがあるからこそ、ファンや作品関係者はこれから起きるであろうおよそ20年ぶりの歴代記録更新には様々な感想を抱くと思いますし、それに対する議論や発言も活発に行われると思います。
それは同時にナイーブな話題でもありますので、第三者が取り上げる際に、伝わりやすい表現とはいえ、勝った負けたや作品の優劣に関するお話に持っていってしまうのは、実はとても危険なことなのかもしれません。
◆入場特典とリピート鑑賞の関係性
同じ話題から、劇場版作品への入場特典の有無や同じ映画のリピート鑑賞についても注目が集まっていますが、昨今のアニメ映画では週替わりの入場特典、特別興行(4DXなど)に伴う入場特典の配布は「鬼滅」に限らずほとんどの作品で行われています。
もちろんそうした施策には、リピート鑑賞の動機としての機能も少なからず含まれているはずですが、正直それはきっかけのひとつに過ぎません。
当たり前ではありますが、本当に好きな作品でしたら、たとえ特典が無かったとしても、ファンは何回、何十回でも映画館へ足を運びますし、入場特典には、そうして何度も同じ作品をみてくれる観客への、製作陣からの感謝の気持ちといった要素も多分に含まれていると思うのです。
現在のようにアニメ映画のリピート鑑賞が特に活発になってきたのは、特に2016年以降のことだと思います。
もし「鬼滅」と「千と千尋」の興行背景の違いを挙げるとしたら、入場特典の有無ではなく、ひとつはそうした世間の鑑賞習慣の変化の方が、深く関わっているのかもしれません。
※歴代記録更新に関する記述を「およそ10年ぶり」から「およそ20年ぶり」に修正いたしました。(2020年12月30日)