世界と向き合い14人が日本代表へ。パラ水泳春季記録会閉幕。
トップスイマーの顔ぶれ
世界選手権への派遣記録をかけた「パラ水泳春季記録会」が3月3日(日)静岡県富士水泳場で閉幕。派遣標準タイムをきった以下14人が日本代表に選出された。世界選手権の開催については当初の開催地が政治的事情により変更となり、場所や日程の詳細が決まらない中での異例の代表選考会だった。
<日本代表に選出された選手>
視覚障害/木村敬一、鈴木孝幸、石浦智美、肢体不自由/辻内彩野、成田真由美、富田宇宙、中村智太郎、山田拓朗、知的障害/田中康大、東海林大、中島啓智、山口尚秀、北野安美紗、芹澤美希香
木村敬一
前回リオパラリンピックで日本人最高の4つのメダル(銀2・銅2)を獲得した木村敬一(全盲/東京ガス)は、練習拠点をアメリカに置いて世界視野で取り組むトップ・スイマーである。今回出場4種目全てで派遣標準を突破、得意とする100メートルバタフライは自身のアジア記録を更新した。
リオで金メダルを目指し苦しい戦いに投じた結果として金メダルに届かなかった。そんな木村がもう一度世界を目指すミックスゾーンで、次のように話していた。
「リオで経験したことは、パラリンピック本番で自分の実力以上を出すということ、最高のパフォーマンスが出せるかが重要で、自国開催のプレッシャーは自分にも想像がつかない。出来るだけ早めに引っ張っておきたい。ベストを出すつもりできています」
富田宇宙
S13からのクラス転向で同じクラスとなった木村敬一を追って成長する富田宇宙(日体大大学院)。出場3種目すべてで派遣標準タイムを切り、世界パラ水泳日本代表の主力選手として選出された。前回メキシコでの世界選手権代表にも選出されたが、大地震により大会が延期され日本からは出場を見送ったため、今回が初めての世界デビューとなる。
「腰を高い位置に抵抗を少なくしつつ水をかく。健常者と同じフォームで効率がいい泳ぎができるが、コースロープをたどりにくくなる。視覚障害者の泳ぎはコースロープを辿る。(怪我の)リスクを避け安全にしながら(ムダな距離を)蛇行せず泳ぎたい。木村くんはフォームが悪くても出力が高いため短い距離では速く泳げる。自分は長い距離を泳ぐ」と、富田は木村とは違う泳ぎを模索して頂点を目指す。
中島啓智と東海林大
知的障害は、注目の二人が競い合う2レース。200メートル個人メドレーS14と100メートルバタフライS14で、中島啓智(あいおいニッセイ)と東海林大(三菱商事)が共に派遣標準を突破した。
「前半から突っ込んだ泳ぎで後半もそのまま泳ぎます。隣(東海林)が追い越そうとしてくるのでペースを保つようにしています」と話す、リオパラリンピック銅メダリストの中島は、100メートル背泳ぎでも派遣標準記録を突破し強さをみせた。
100メートルバタフライで世界記録、200メートル個人メドレーで日本記録を持ち実力面で期待される東海林は、リオ選考会で仲間たちに水を開けられる失敗を乗り越え、昨年のアジアパラでも優勝した。
「5種目にチャレンジしたかった。合宿でも5種目のために準備した。とにかく、チャレンジするからには前向きにしたい」と自分の意思でやり遂げていることをアピールした。また、「ライバル」「勝負」という表現を避け、リオメンバーは仲間であり、共に泳ぎを楽しみたいと話していた。
新たな顔ぶれ
新たな戦力として視覚障害の石浦智美(全盲/伊藤忠丸紅鉄鋼)とパラスイム転向1年、スピーディーに環境を変えてパラ水泳に取り組む辻内彩野(弱視/OSSO南砂)が50メートル自由形S13で派遣標準を突破、代表チームに加わった。辻内は100メートル平泳ぎS13でも日本記録を更新した。
一方で、昨年のアジアパラで多くのメダルを取り期待が高まっていた若手・次世代を担う選手たちのほとんどが個人/リレーいずれの派遣標準記録にも届かず、代表チーム選考から外れる結果となった。
世界と戦える集団にしたい
この夏に控える世界選手権は2020東京パラリンピックの前哨戦として戦う最後のチャンスとなる。それを踏まえ、今回の派遣標準記録(国際大会への派遣をする際の目安となる記録)は世界ランク上位となるタイムを念頭に設定された。
これまでは自己ベストに近い泳ぎをすれば「次につながる泳ぎ」と考えたが、このレースを機に、派遣標準タイムを基準とした世界のレベルと日本選手の実力に向き合い、選手をふるいにかけた。
「甘い設定をして国際経験を積むという方法もあるが、それはすでに十分やってきました。東京に向けて戦う集団にしたいので、この形にしていきます」と、世界と向き合う姿勢を重ねて伝えてくれた。
新世代組、リレーの標準タイムに届かず落選
今回初めて「リレー要員」を選出する目的で、東京パラの種目にない100メートル自由形でのチームの合計記録が「リレー派遣標準記録」として設けられた。これが、最後の砦となっていたように思われる。
知的障害の北野安美紗が個人では突破できなかった派遣標準をリレー標準タイムで突破して「リレー要員」として日本代表に選ばれた。身体障害はアジアパラでメダルをとり期待されていたが男女ともに突破することができなかった。
峰村監督が「本来入ってくるべき若手選手」を救う策として、リレー標準タイムを設けたのではないだろうか。
女子では、一ノ瀬メイ(右前腕欠損/近畿大学 )、宇津木美都(右前腕欠損 /京都文教高等学校)、そして監督が自ら育ててきた池あいり(左足機能障害 /日体大)、小池さくら(両下肢機能全廃/日体大桜華高校)たちだろう。4人全員が選考を逃した。
小池さくら
1日目のメイン種目400メートル自由形S6でふるわなかった小池は、この1年急成長を続けた100メートル平泳ぎS6でアジア記録(小池の自己ベスト)を上回る1分46秒13に設定された派遣標準タイムに挑んだ。同日エントリーしていた100メートル自由形S6を棄権して大勝負に立ち向かったが、ベストを更新することさえできなかった。
男子は、昨年のアジアパラで強豪中国、コリア合同チームから優勝を勝ち取った男子フリーリレーは、山田拓朗(左前腕欠損/NTTドコモ)をリーダーに、久保大樹(両手指・両足首機能障害 /KBSクボタ)、窪田幸太(左上肢機能全廃 /日体大)、萩原虎太郎(右肩関節機能全廃/千葉ミラクルズ)は、惜しくもリレー派遣標準(4分4秒)にわずかに届かず3人が代表選考を逃した。
久保、窪田は自己ベスト、日本記録も更新し良い泳ぎを見せたが、S9、S8クラスなど世界でも選手の人数が多くMQSが高く設定されている。クラスにより参加人数が多い場合、競技の難易度は高くなる。
「(若手に対して)今後然るべき対策が必要」と、峰村監督は話していた。どのような対策が取れるだろうか。
東京開催が決定(2013年9月)以来6年、前回リオパラリンピック(2016年)から3年、選手たちはついに本番前の夏を迎えようとしている。
<参考>