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「光宙」(ピカチュウ)も認められる!?~戸籍氏名に「読み仮名」が付く可能性も

竹内豊行政書士
戸籍に「振り仮名」が加わるかもしれません。(写真:イメージマート)

法務相の諮問機関である法制審議会は、昨日17日に、戸籍氏名に読み仮名を記することを柱とする戸籍法改正の中間試案をまとめました。戸籍氏名については戸籍を持つ全国民が対象になります。そこで、戸籍氏名の読み仮名の現状と、読み仮名が議論される背景、今後の議論の展開について考えてみることにしましょう。

命名の自由が認められている~氏名の読み仮名の法律はない

戸籍法は、父母その他を出生届出義務者と規定しており(戸籍法52・56条)、事実上、この義務者が命名したものが、その子の名となっています。そして、現在、氏名の読み仮名に関する法律の定めはありません。

また、日本語には、ひらがな、カタカナがあり、漢字については常用漢字表(2136字)と人名用漢字表(863字)の合計2999字であれば、自由に組み合わせて使えます。さらに、戸籍の名の欄には漢字の読み方が記載されず、出生届に「よみかた」があるだけです。しかも、その「よみかた」には制限がないため、難解な読み方や、いわゆるキラキラネームを付けることができるのです。このように、現状では事実上、命名の自由が認められています。

読み仮名を戸籍に記する議論の背景

では、なぜ今、戸籍に読み仮名を記することが議論されるのでしょうか。その背景には行政のデジタル化があります。氏名をデータベース化して給付金などを支給するには、登録名を仮名にした方が効率的でご入力の危険性が低くなります。また、マイナンバーカードの海外利用を拡充するにはローマ字入力が求められます。そのためには、読み仮名に法的根拠を持たせる必要があるということです。

読み仮名の「3つ」の案

そこで、法制審議会は試案として次の3つを示しています。

第1案 規定を設けず公序良俗や権利に反しない限り認める。

公序良俗とは、民法第90条で、ある行為が法律の明文に反しない場合であっても、その行為が社会的妥当性をもたないものである場合、これに対して法律的効果を与えないという規定をいいます。

第2案 漢字の慣用的な読み方か字義(その熟語を構成する一つひとつの漢字の意義)との関連性があれば認める

第3案 字義との関連に加え、パスポートに記載済みなど既に社会的に通用していれば認める

これらの案を踏まえると、認められる可能性が高い読み仮名と、逆に低い読み仮名は次のようなものが考えられます。

認められる可能性が高い事例

次のようないわゆる「キラキラネーム」と呼ばれる個性的な名前や読み仮名

「大空」→「すかい」

「光宙」→「ぴかちゅう」

認められない可能性が高い事例

次のような漢字の慣用的な読み方か字義との関連性が認められない

「太郎」→「じろう」

「高」→「ひくし」

今後の予定

近く意見募集(パブリックコメント)を始め、2023年2月頃までに最終答案を出し、法務省が答申を受けて23年の通常国会に法案を提出する見通しです。

「命名の自由」と「行政のデジタル化」のバランスがカギ

以上ご覧いただいたように、現状は、命名の自由によって、親は子に公序良俗に反しない範囲で、原則自由に名前を付けることができます。今回の試案によれば、子の命名に一定の規制がかかることにもなります。命名の自由と行政のデジタル化の推進という2つをどのようにバランスよく配慮できるのかが今後の議論のカギになるのではないでしょうか。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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