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米ゴルフ界の2013年は「ルールの年」

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
今年、ルールに悩まされた筆頭はタイガー・ウッズだった(写真/平岡純)

【ウッズとルール】

その年の日本の世相を表す「今年の漢字」というものが、毎年選定されているそうで、2013年の「今年の漢字」は「輪」に決まったのだそうだ。それならば、2013年の米ゴルフ界の世相を表すのは、どんな言葉になるのだろうかと考えた。米国ゆえ、「今年の漢字」というわけにはいかないが、「今年の感じ」を一言で表現するとしたら、「ルールの年」という一言が最適だと私は思う。

なにしろ「ルール」に悩まされ続けた筆頭が、ゴルフ界の王者タイガー・ウッズだった。その始まりは、メジャー4大会の1つである4月のマスターズでの出来事。2日目のラウンド中に池ポチャした後のドロップ処置がルール違反であったことをスコアカード提出後に指摘されたウッズは、本来なら失格になるはずのところだが、失格にはならず2罰打扱いになった。3日目の朝になって、その裁定を下したマスターズ委員会に対しても、自ら失格を申し出なかったウッズに対しても、方々から批判の声が上がり、「グレーな裁定だ」「マスターズが陰った大会になってしまた」「ウッズはルールを熟知していない」等々、大騒動になった。

その出来事がきっかけとなり、以後は事あるごとにウッズのルール上の対応や処置が注目されることになって、次々にウッズのルール騒動が起こった。09年末に勃発したあの不倫騒動以後、ウッズは不調に陥り、王座からも陥落していたが、2013年シーズンは年間5勝を挙げ、世界ランク1位の座に返り咲く復活を見せた。それなのに、その輝かしい復活ぶりや戦績に水を差す形になったのが、年間合計で4度も直面することになってしまったルール騒動だった。

とはいえ、そうした出来事の中でも、自らの存在感や影響力をアピールする形で終わるところが、王者ウッズのすごさだ。彼が直面した今年の4度目のルール騒動は、シーズンエンドのプレーオフシリーズ第3戦、BMW選手権でテレビ中継を見ていた第三者から「ウッズのボールが動いた」と指摘されたことに端を発するルール騒動だった。そして、その大会後、高画質のTV画面を見ていた第三者からボールが動いた等々の指摘があった場合でも、プレー中の選手やキャディらが肉眼では動いたと判断できなかった場合は「後からルール違反に問われない」ことをUSGAとR&Aは新たなルールとして定めた。この新ルール制定にはウッズ効果が大いに働いたと言っていい。

今年、ウッズ効果が見え隠れした新ルール制定は、それ以外にも、もう1つあった。

2011年の全米プロをキーガン・ブラッドリーが制して以来、ロングパターを武器とするメジャーチャンプが次々に生まれ、今年もアダム・スコットが長尺でマスターズを制した。だが、2016年からはロングパターを体の一部に固定しながらストロークするアンカリングがプロゴルフ界で禁止となることが、今年、ついに決まった。

アダム・スコットは長尺で13年マスターズを制した(写真/平岡純)
アダム・スコットは長尺で13年マスターズを制した(写真/平岡純)

ウッズはかねてから「ジュニアゴルファーはプロの真似をする」という理由でロングパター使用にもアンカリングによるストロークにも反対意見を主張し続けてきた。

それゆえ、高画質TV画面に関する新ルール、2016年からアンカリングを禁止する新ルール、どちらの決定もウッズの意向を強く反映したものと言うことができる。

【広義のルール】

だが私は、ルールブックに記載されるゴルフルールのみならず、「規則」や「システム」などを含めた広義の「ルール=決めごと」という意味で、米ゴルフ界の2013年は「ルールの年」だったと思うのだ。

2013年は米ツアーが大幅なシステム変更に初めて踏み出した年となり、いろいろな変化が見られた。シーズンの開幕時期は従来の1月から10月に切り替えられ、2013年シーズンは史上最短の9か月で終了となった。

シード争いの基準は従来の賞金ランクからフェデックスカップランクに変更され、そこで125位以内に入れなかった場合、これまではQスクール(予選会)に逆戻りして一発勝負に挑んでいたが、今年からは下部ツアーと合同で戦うファイナル4戦が新設され、Qスクールは米ツアーではなく下部ツアー(ウエブドットコムツアー)への登竜門に変わった。そして、石川遼はそのファイナル4戦で敗者復活的な活躍を見せ、翌シーズンのシード権を死守した。

石川遼は米ツアー新設のファイナル4戦で14年出場権を死守した(写真/舩越園子)
石川遼は米ツアー新設のファイナル4戦で14年出場権を死守した(写真/舩越園子)

米ツアーのこうしたシステムの変更、変化は、すべて大会スポンサーを募りやすくするためのものだ。スポンサー企業の便宜を図り、露出を増やし、スポンサーに喜んでもらうことで、米ツアーの大会を維持したり増やしたりして、米ツアー全体の存続と発展を図ろうとしているのだ。

米国経済の景気がいいときも悪いときも、米ツアーが常に右肩上がりの成長を続けて来ることができた秘訣は、変化し、進化するためのたゆまぬ努力。その努力ぶりが最も顕著に形となって表われたのが今年だったと言うことができる。

米ツアーのさまざまな変化は未来のための進化だ。新しく決まること、新しく実施されることに対しては必ず賛否両論が巻き起こる。スロープレー撲滅のための全世界的キャンペーンだって、その意図や目的は素晴らしいと誰からも賛同された。が、マスターズで14歳(当時)の中国人少年、関天朗が、全英オープンでは松山英樹が、スロープレーに問われ、罰打を課された際には、「ルールはルール」「罰打は然るべき」と主張する側と、「あれは、やりすぎだ」「人種差別的だ」と批判する側との双方に分かれた。

松山英樹が全英でスロープレーに問われたことは内外に波紋を呼んだ(写真/中島望)
松山英樹が全英でスロープレーに問われたことは内外に波紋を呼んだ(写真/中島望)

しかし、賛否の「否」を新たな進化のための産みの苦しみと受け止め、「否」にひるまないのが米ゴルフ界の良さだ。試行錯誤を繰り返しながらも前進し続ける。

そして、同じようにウッズも前進し続けている。2013年は前述のように年間4度もルール問題に直面し、08年以来のメジャー優勝を挙げることもできなかったが、その一方で、年間5勝、王座への返り咲き、プレーヤー・オブ・ザ・イヤー受賞という功績を上げ、あの不倫騒動からの完全復活を果たすための過渡期の1年をなんとか渡り切った。

「僕たちプロゴルファーは決して平坦ではない場所から球を打つ。時には、風。時には、アドレナリン。僕らは、そのときそのときに変化するいろいろな要素に対処しながら球を打つんだ」

それが世界のトッププロの仕事だとウッズは言う。そう、ウッズも、米ツアーも、さまざまな変化を経験した1年だったけれど、決して平坦ではない道を歩むことこそが、プロゴルファーとプロゴルフ界のあるべき姿。そして、その姿が人々の手本となり、理想となるからこそ、ウッズはスターであり続け、米ツアーは憧れの舞台であり続けるのだろう。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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