人権そっちのけ カネ、カネ、カネの英国の中国外交
「拝金主義者」と呼ばれる英財務相
英国の最大野党・労働党党首に「時代遅れの社会主義者」コービン氏が選ばれたが、習近平国家主席率いる中国共産党は、市場原理主義者というより「拝金主義者」と英メディアから批判を浴びている保守党のオズボーン財務相が大好きなようだ。
オズボーン財務相はキャメロン首相の懐刀で、5年後の総選挙で保守党が勝てば確実に首相に就任するとみられている実力者。岳父の元運輸相ハウエル上院議員はJR東海と親密で、オズボーン財務相も日本びいきになってくれるという期待感があった。
しかし、甘い期待は完全に裏切られた。中国が主導する国際金融機関「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」への参加を西側陣営からいち早く表明したのは他ならぬ英国。同盟国・米国の逆鱗に触れたものの、首謀者のオズボーン財務相は意に介する様子はない。
それどころか中国ビジネスを急激に加速させている。
オズボーン財務相は9月20~24日の5日間の日程で北京、上海、新疆ウイグル自治区のウルムチ、四川省成都を訪問した。習主席夫妻が10月に国賓として英国を訪れ、バッキンガム宮殿にお泊りする。オズボーン財務相はキャメロン首相の名代として公式な招待状を持ち、訪中した。
中国はレッドカーペットを敷いてオズボーン財務相を大歓迎した。財務相の母は大学で中国語を学び、1970年代に中国で暮らした経験がある。財務相自身、20年前にバスを乗り継いで中国を旅した。娘は学校で中国語を勉強している。親子3代の親中派。しかも英国の中国政策はオズボーン財務相が主導している。
「中国の株暴落は一時的な調整」
上海の証券取引所で、オズボーン財務相は「中国の株式暴落は成長に伴う一時的な調整に過ぎない」と言ってのけた。中国の経済成長は続き、人民元の国際化が進む。ロンドンの金融街シティーを人民元のオフショア市場として発展させる戦略をオズボーン財務相は描く。
オズボーン財務相は同行記者団に中国の人権問題について問われ、「人権は経済と同じように議題に乗せた」と説明した。しかし、中国人民日報の国際版「環球時報」から「彼の中国政策は現実的だ。外国の指導者は人権問題を取り上げて中国と対立しないようにするのが外交上の礼儀だ」とまで持ち上げられた。
保守党のメージャー首相(当時)も労働党のブレア首相(同)もチベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世と首相官邸で会談した。キャメロン首相は3年前、ダライ・ラマ14世と会談したが、首相官邸ではなく、セント・ポール大聖堂。それでも中国側の怒りは収まらなかった。
キャメロン首相がダライ・ラマ14世と会談することはもうない。オズボーン財務相は3年前の会談にも強く反対した。中国の経済力が米国に追いつこうとし、オズボーン財務相の閣内での影響力が格段に増した今、ダライ・ラマ14世と会談するという選択肢は現政権にはない。
「カネ、カネ、カネだ」と吐き捨てるダライ・ラマ14世
オズボーン財務相はAIIB参加で米国の制止を振り切って、中国の期待に応えた。今回の訪中では南シナ海の埋め立て、7月以降、相次ぐ人権活動家や弁護士の拘束・取り調べには完全に口をつぐんだ。
保守系の週刊誌ザ・スペクテイターによると、ダライ・ラマ14世は「カネ、カネ、カネだ。それがすべてだ。モラルはどこに行ったのか」と英国の対応を嘆いたという。
英国では「三跪九叩頭(さんききゅうこうとう)の礼」のことを「Kowtow」という。9回、手や額を地面につけて礼を尽くす追従的な動作やふるまいを指す。清朝の皇帝に「叩頭の礼」を求められた英国使節が拒否したことから、そのまま英語になって残っている。スペクテイター誌はカネ欲しさに中国に叩頭するキャメロン首相とオズボーン財務相の風刺画を掲載した。
ロンドンとバーミンガムを結ぶ高速鉄道HS2第1フェーズの7契約(118億ポンド相当)に参加するようオズボーン財務相は中国企業に促した。英南西部のヒンクリー・ポイント原発の開発事業(250億ポンド)のうち20億ポンドについて中国と契約することを確認した。英国にとって中国は今や6番目の輸出先だ。
「中国の13億人が英保守党のサポーターだ」
「訪中での私のメッセージは英国は中国から離れるのはではなく、中国に向かって走り出すべきだということだ」「英国は都合の良いときだけの友だちではなく、中国の長い友だちだ」
オズボーン財務相はさらに、労働党のコービン党首を誕生させた3ポンド支払えば登録サポーターになれる同党の党首選の仕組みを皮肉って、こう言ってのけた。「中国には13億人の有権者がいる。われわれは中国の13億人を保守党の登録サポーターとして獲得することができるかもしれない」
(おわり)