中国人民銀行の金保有高、7カ月連続で増加中
中国人民銀行(中央銀行)は6月も外貨準備の金保有量を増やした。5月末から10.3トン増加して1,926.6トンになっている。中国人民銀行は昨年12月、2016年10月を最後に停止していた金購入の再開に踏み切ったが、その後は7カ月連続で金保有量を増やした格好になる。7カ月累計で84.0トンもの購入を行っていることからは、外貨準備の戦略的な見直しが行われていることが窺える。
こうした動きの背景にあるとみられるのが、米中対立の激化である。米中関係は貿易摩擦に留まらず、ハイテク業界の覇権争いにまで舞台を広げており、中国側の視点ではドルに依存するリスクが高まっている。6月29日の米中首脳会談では通商協議の再開が決まったものの、最終合意にたどり着くことが可能なのかは、先行きが見通せない状況が続いている。
中国は官民合計で4月末時点に1兆1,130億ドルの米国債を保有しているが、これは1年前の1兆1,819億ドルから大きく減少している。その間に外貨準備高が大きく落ち込んでいる訳ではなく、米国債を売却した資金は金など他の資産に振り向けられることになる。その動きが、5月、6月と続いている可能性が高いのだ。
ドルは国際基軸通貨として高い信頼性を有しているが、あくまでも通貨としての信頼性は米政府に依存しており、その価値は普遍的なものではない。米国と対立している国にとっては、ドル(米国債)への依存は極めてリスクが高く、ドルに代わる通貨性のある資産が模索されることになる。一時期はユーロ、円、更には豪ドルかカナダドルといったドル以外の通貨も注目されていたが、近年はより伝統的な通貨といえる金に対する関心が高まっている。
金本位制が過去の遺物となった以上、もはや金は金属の一種に過ぎないといった見方もある。しかし、発行体の存在しない金は信用リスクとは無縁であり、いつでもドルやユーロ、円などと交換できる高い流動性を有していることが高く評価されており、各国中央銀行は依然として大量の金を保有している。そして中国人民銀行も、ドル売却の受け皿として金に対する関心を急激に高めている。
米国の債務が膨張する中、米財務省は中国の米国債売却に神経をとがらせている。中国側としては米国債売却が米国に対する強力な交渉カードの一つになり得る。また、ドル依存度を更に引き下げるのであれば、国際貿易などの場でドル決済を人民元決済にシフトすることが望まれるが、金保有量の積み増しは人民元に対する信頼性の向上にも寄与することになる。1)米国のけん制、2)ドル依存度の引き下げ、3)人民元の信頼性向上など、中国人民銀行にとって米国債を売却して金を購入することには一石二鳥にも一石三鳥にもなる政策になる。
そして、同じく米国と対立するロシアなども積極的に金保有高を増やしている。昨年に世界の中央銀行はブレトン・ウッズ体制崩壊後で最大規模の金購入を行ったが、今年は1~5月期で既に264.6トンを購入しており、昨年の同じ時期の167.8トンの1.6倍の規模に達している。中央銀行の金保有意欲の高まりは、需給の観点から金価格を下支えすることになりそうだ。金の鉱山生産高は年間でわずか3,502.8トン(2018年実績)であり、中央銀行の金購入の動きは、それが100トン規模の変動でも極めて大きな需給インパクトを発生させることになる。