CAは女の鑑? コロナが浮き彫りにしたジェンダー意識
新型コロナウイルスの感染拡大により欠航が相次ぎ休業中の客室乗務員(CA)に対し、医療現場で使う防護服の縫製を要請するとの報道がされた。するとたちまちネット上を中心に「時代錯誤も甚だしい」「女性差別なのではないか」など批判の声が上がった。
確かに、女性なら、CAならみな裁縫ができて当然と言わんばかりの無茶な要請である。4月7日の会見で安倍総理は「欠航が相次ぐエアラインの皆さんは、医療現場に必要なガウンの縫製を手伝いたいと申し出てくださいました」と述べており、西村康稔経済再生担当相も8日に出演したBSフジの番組で「CAさんたちも手伝うという申し出があった」と述べている。
https://www.asahi.com/articles/ASN493QMQN49ULFA00H.html
総動員で国民服を縫った戦時下のように、お国の一大事には女性の裁縫力が必要とされるのだろうか。
当時は裁縫=女の嗜みというよりも、むしろ女性が身につけるべき必須能力とされており、裁縫ができない女に価値はないとでも言わんばかりの勢いであった。国民服の縫い方を示した教本には、巻頭に「女はいくら読み書き算術の道にすぐれていようとも、裁縫ができなければ話にならない」という趣旨のことが滔々と書かれている。
だが、今や男子も家庭科が必修となり、かつて女性の仕事とされていた裁縫や料理もジェンダーレスに行われる時代である。そんな時代に性別役割分業の極みとも言えるこの要請はいったい何を考えているのだろうか。
ANAのCAたちが本当に手伝うと自発的に申し出たのかどうかは定かではないが、
今回の件は、接客や保安要員としてのCAの専門能力を無視しており失礼なだけでなく、縫製を生業としている人々にも大変失礼だ。ネット上では憤りを覚える人々の「#縫製業なめんな」というツイートがさかんに行われている。
そもそも防護服や医療現場に必要なガウンを縫うには高い技術力が必要であるという。専門性が最も問われる作業なのではないだろうか。どこから「CAさんに防護服」という発想が生れてくるのか。
やはりいまだにCAが女の鑑だと思われているからではないだろうか。女性に求められていたものを具現化した職業がCAだとこの時代においても考えられているからではないだろうか。
制服一つとってもそうだろう。ようやく今年の4月からヒールなしの靴やパンツスタイルが制服として認められたとはいえ、今までは業務遂行上不都合があっても、ヒールのあるパンプスやスカートを纏うのがCAの「常識」とされてきた。エアホステスから始まり、スチュワーデスを経てCAと呼ばれるようになっても、そういうものだと思われてきたのだ。
そんな「女らしいCAさん」なら、裁縫もきっと得意に違いない。まだまだCAは女の鑑であるとエラいおじさんたちは考えているようだ。だからこそ、「CAさんからも手伝うという申し出があった」という発言がすんなり出てくるのだろう。
皮肉なことに、4月からパンツスタイルの制服を採用し始めたのはJALであった。ANAグループの制服はまだスカートのみである。もしかしたら、今回の要請にはそんなことも関係しているのかもしれない。
いずれにせよ、コロナ禍は、いまだ社会に根強くの残っている「CAは女の鑑」というジェンダー意識を思わぬ形で浮き彫りにしたのである。