映画「天気の子」で味わう逆・聖地巡礼体験
※物語の核心に触れるネタバレはありませんが、気にされる方はご注意ください。
「聖地巡礼」という言葉を流行語大賞にした「君の名は。」の公開から3年、新海誠監督の最新作「天気の子」がいよいよ公開されました。
前作でも話題になった美しい景色の描写は今作でも勿論健在で、物語が始まるきっかけとなる代々木の廃ビルや東京にたどり着いたばかりの主人公・帆高が彷徨う新宿歌舞伎町、ヒロインの陽菜が暮らす田端やクライマックスに向けて印象的に描かれる池袋など、作中で描かれた都内各所への聖地巡礼が夏休みにかけて頻繁に行われるだろうことは容易に想像ができます。
しかしその一方で、今作にはこれまでに「聖地巡礼」が行われてきた作品とは少し違った側面があるようにも感じました。
それは、見る人によっては映画を鑑賞すること自体がまるで聖地巡礼をしているかのような、逆・聖地巡礼体験ができるということです。
アニメやマンガの聖地巡礼では、作品で見た景色が、現実で同じ景色を見ることで思い起こされるというのが一般的です。
しかしこの「天気の子」では、作中で描かれる東京があまりにも”生々しい”ために、現実で見知った景色が、映画で同じ景色を見ることで思い起こされるという、通常の聖地巡礼とは逆転した現象が起こりうると思うのです。
原因として考えられるのは、本来ならばアニメ化される際に省略されるはずの景観の“ノイズ”が、本作ではあえて忠実に描かれていることだと思います。
例えば、印象的な歌で有名な某宣伝トラックや店舗の固有名詞が分かる看板、誰もが知っているファーストフード店の店構えなど、本来リアルすぎると逆に気になって鑑賞の妨げにもなりうる景観の“ノイズ”をあえて省略しないことで、普段都内を歩いていると無意識のうちに目や耳に入ってくる光景や環境音まで忠実に再現された生々しい東京がスクリーンの中に描かれているのです。
前作の「君の名は。」では、単なる風景ではなく、まるでその場所の空気や光まで目に見えるかのような美しい東京や飛騨高山の描写が話題になりましたが、今回の「天気の子」では景色を美しく描くだけでなく、リアルな景観の“ノイズ”もあえて描きだすことで、現実の東京が“雰囲気”ごと切り取られて映画の中で再現されているように感じました。
映画を鑑賞すること自体がまるで聖地巡礼をしているかのような、逆・聖地巡礼が体験できるのも恐らくそのためだと思います。
既に舞台地を訪れたことがある人に限った話にはなってしまいますが、一度でも新宿や代々木、池袋を訪れたり、山手線で田端駅を通り過ぎたことがある人ならばきっと同じ感覚を味わえることでしょう。
もしもこれから作品を見るという方は、機会があれば作品鑑賞後だけでなく、鑑賞前に都内を練り歩いてから、“映画内で逆・聖地巡礼をしてみる”というのも面白いかもしれません。