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COP28議長が大炎上「化石燃料の段階的廃止が1.5度を達成する科学的根拠ない」発言で

木村正人在英国際ジャーナリスト
4日の記者会見で釈明に追われるアル=ジャベールCOP28議長(筆者撮影)

■国営石油会社トップも務める議長

[ドバイ発]アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開かれている国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)の初日に「損失と損害」基金を立ち上げ、存在感を示したCOP28議長、スルタン・アル=ジャベールUAE産業・先端技術相が炎上している。

英紙ガーディアンと国際NPO(非営利組織)の調査報道機関「気候報道センター(CCR)」は、アル=ジャベール氏が、世界の平均気温上昇を産業革命前に比べ摂氏1.5度に抑えるのに化石燃料の段階的廃止が必要だと示す「科学的根拠はない」と発言したとスクープした。

それによると、UAE国営石油会社の最高経営責任者(CEO)も務めるアル=ジャベール氏は11月21日に開かれたオンラインイベントで「化石燃料の段階的廃止が1.5度を達成するという科学的根拠もシナリオもない」と話した。

■「化石燃料の役割を含める方法も模索」

アル=ジャベール氏は開会式での議長就任演説で「どのような問題もテーブルから外さないことが不可欠だ。化石燃料の役割を含める方法を模索し、確保しなければならない」と表明し、環境団体の反発を買った。

問題のオンラインイベントでは「世界を洞窟に戻したいのでなければ、持続可能な社会経済発展を可能にする化石燃料の段階的廃止のロードマップを示してほしい」とまで語ったという。この発言はアントニオ・グテーレス国連事務総長の見解と真っ向から対立する。

グテーレス氏はCOP28で「科学は明確だ。1.5度は最終的にすべての化石燃料の燃焼を止めた場合にのみ可能なのだ。削減ではない。軽減でもない。1.5度目標に沿った明確な時間枠で段階的に廃止するのだ」と改めて強調した。

■「科学を尊重するというメッセージを台無しにする試み」

アル・ゴア元米副大統領はロイター通信に「アル=ジャベール氏のことを真剣に考えるべきでない。彼は自分の利益を守り、それを人類文明の存続よりも優先させている」と語った。COP28議長と国営石油会社トップを務める利益相反への批判は強まる一方だ。

アル=ジャベール氏は4日の記者会見で「非常に驚いている。COP28議長国の仕事を台無しにしようと絶え間なく繰り返される試みだ。私たちが繰り返し言っている科学を尊重するというメッセージを台無しにしようとする試みだ」と反論した。

「化石燃料の段階的削減と段階的廃止は不可欠だ。他のエネルギーへの移行は正しく、十分に管理されたものである必要がある」と述べ、「北極星」の1.5度を目指す考えを強調して事態の収拾を図った。

■アル=ジャベール氏の発言を支持する科学者も

英インペリアル・カレッジ・ロンドンのジョエリ・ロゲリ教授(気候科学・政策学)は「アル=ジャベール氏に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新報告書を読むことを強く勧める。この報告書は温暖化を1.5度に抑えるためのさまざまな方法を示している」という。

「世界が貧しくなって洞窟に逆戻りするだろうか。そんなことは絶対に起こり得ない。熱波のため涼を取りに洞窟に逃げ込む以外はね。つい1週間前に発表された研究によれば、極度の貧困をなくすことが世界の排出量に与える影響はごくわずかだ」

しかしアル=ジャベール氏の発言を支持する科学者もいる。

英名門オックスフォード大学のマイルズ・アレン教授(地質システム科学)は「温暖化を1.5度に近づけるためには、化石燃料の使用を減らし、安全で恒久的な二酸化炭素の処理を拡大しなければならない」という。

「温暖化を止めるためには化石燃料の使用を止めなければならないというのは間違いだ。化石燃料から発生する二酸化炭素をすべて地下に廃棄することで、人類は2100年以降も化石燃料を使い続けることになる」

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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