【JAZZ】成長を課すジレンマを見事に解消した奥田弦『ボナペティ!』
10歳でデビューを果たし、史上最年少のプロ・ジャズ・ピアニストとして注目された奥田弦が、3年ぶりにリリースしたセカンド・アルバム(2014年10月発売)。
中学生になったジャズ・ピアニストに求められるのは、大人顔負けのプレイでも、子どもなのにこんな曲も知っているの的な意外性でもなく、改めてジャズ・ピアニストとして成立しているのかという、ある意味で音楽学校を卒業した成人よりも厳しい周囲の目があることを痛いほど感じていたはずなのが、ほかの誰でもない奥田弦本人だったに違いない。
だから、“最年少プロ・ジャズ・ピアニスト”がヴァージョン・アップできたことを示さなければいけない“ジレンマ”をどう解消するのかが本作の大きなテーマだったことは想像に難くない。
では、どんなテーマで彼はそれを解消しようとしたのかーー。
“弾ける”と“生み出す”の違いと可能性
本作を聴いて感じたのは、それは“ジャズを弾けるピアニスト”から“ジャズを生み出すプレイヤー”へ脱却しようという積極策だったのではないかというもの。
彼は、2011年のデビュー作『奥田弦』でもオリジナル曲を収録して“弾ける”だけのピアニストではないことを示そうとしていた感がある。本作では、前作が12曲中3曲だったオリジナルを15曲中8曲と大幅に増やし、さらにその意欲を強めたように見える。
彼が注目されるきっかけとして、“小学生なのにジャズが弾ける”ことは大きかっただろう。そうであるならば、本作ではより“ジャズが弾ける”ことを前面に押し出す内容ーーたとえばスタンダード曲集や映画のテーマ曲をジャズ・アレンジした企画もののようなアプローチになったとしても不思議ではない。しかし本作は180度と言っていいほど、それらとは違っている。
奥田弦にとってジャズは、“弾ける”ことを示すためのツールではなく、自己の裡に湧いた世界を外部と共有するための“変換プロセス”なのだ。
ジャズ(という表層的なイメージ)をリスナーと共有するためにピアノを弾くのではないことを知っているからこそ、奥田弦のプレイはデビュー当時の9歳であっても12歳の本作であっても、アクロバティックで無機質な器用さとは一線を画する“説得力”があるのだ。
さて、この跡彼は思春期をどのようにジャズへと昇華させていくだろうか……楽しみだ。