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英国 ワクチン接種会場を「強制収容所」と書き換え「ナチスのカギ十字」と「911は嘘」の落書き

佐藤仁学術研究員・著述家
(ホロコースト教育財団提供)

根強い反ユダヤ主義と陰謀論

英国のホロコースト教育財団の職員が、英国で新型コロナウィルスのワクチン接種会場が落書きされていたことを発見してツイッターで報告していた。

英語で「Covid 19 Vaccinacion Center」と書かれていた看板に「19」を消して「911 LIES」(9/11は嘘だった)、「Vaccinacion Center」を「EXTERMINATION Center」(絶滅収容所)と書きかえていた。さらにナチスドイツのシンボルだったカギ十字が3つ落書きされていた。

「911 LIES」(9/11は嘘だった)とは、2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロで、イスラム過激派テロリスト集団アルカイダによって行われた。だが欧米では「911はイスラム過激派ではなくてユダヤによる陰謀だ」というユダヤ陰謀論もSNSに多く投稿されている。

また「EXTERMINATION Center」(絶滅収容所)とナチスのカギ十字は、明らかにナチスドイツが第二次世界大戦時にユダヤ人600万人を殺害したホロコーストの際に、ユダヤ人らが強制的に収容されてガス室や銃殺などで処刑された絶滅収容所のことを指している。

ホロコーストとナチスによく例えられる新型コロナウィルス政策

欧米では今だに反ユダヤ主義が根強く、ユダヤ人は差別されやすい。そして新型コロナウィルス感染拡大防止のために欧米ではロックダウンが行われたり、自由な外出ができずに不自由な暮らしを強いられていた人が多かった。また誰もがワクチン接種を希望していないが、政府からワクチン接種を強制されることに反対している人も多い。

そのようなロックダウンによる外出の禁止や制限で自由を奪われている状況、政府からの強制を第二次大戦時のナチスドイツに迫害、差別されていたユダヤ人の状況、いわゆるホロコーストに例えられることが多い。

そして欧米では新型コロナウィルスでのパンデミックでの不自由な状況をホロコーストに例えると、当時のユダヤ人の悲惨な境遇や生活とは異なると、いつもネットが炎上している。高齢のホロコースト生存者らも当時のユダヤ人の状況と現在の新型コロナウィルスのロックダウンの状況は異なると訴えている。だが、それでも欧米では「ロックダウンで外出が制限され、不自由な生活=ホロコースト時代のユダヤ人がゲットーに閉じ込められて迫害された不自由な生活」「政府からの強制=ナチスドイツの政策」というイメージを持つ人が多い。

英国のホロコースト教育財団はこの落書きに対して「明らかに悪意があって、攻撃的で反ユダヤ主義です。ホロコーストで犠牲になった方々を思い出していただきたいです。このような悪意ある行動はユダヤ人を傷つけます。実際に偏見ではありません。ただの間違っています」とコメントしている。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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