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今季からMLBが認定した新球種スイーパーは大谷翔平にとって投球の核をなす絶対的変化球だった?!

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
MLB公式サイトによれば今季大谷選手が投じた約5割がスイーパーだ(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【投手として開幕から無双状態の大谷選手】

 シーズン開幕から二刀流として快進撃を続けている大谷翔平選手だが、特に投手としての安定感がずば抜けている。

 すでに報じられているように、現地時間4月11日に行われたナショナルズ戦に今シーズン3度目の登板に臨んだ大谷選手は、7回を投げ1安打無失点6奪三振の快投を演じ、チームの連敗を阻止するとともに今シーズン2勝目を挙げている。

 ここまで3試合に登板し、現時点で防御率(0.47)、投球回数(19.0)、奪三振数(24)は、いずれもMLBトップ5にランクイン。二刀流として毎試合フル出場を続ける中で(同12日のナショナルズ戦を休養のため初の欠場)、他チームの主力先発投手に匹敵する成績を残していること自体、驚異というほかない。

【このまま中5日登板を続ければサイヤング賞が射程圏に】

 昨シーズン終盤も中5日登板を続けながら圧巻の投球を披露していたが、今シーズンもその流れを引き継ぐかのような安定感を持続している。

 それを裏づけるように、今回のナショナルズ戦を含めると10試合連続で2失点以下に抑えるという球団新記録を樹立(これまではノーラン・ライアン氏の9試合連続)。さらに7試合連続で「5イニング以上+3安打以下」を達成し、2021年にジェイコブ・デグロム投手が樹立したMLB最長記録にあと1まで迫っている。

 ちなみに後者の記録はマウンドが現在の距離に定まった1893年以降のもので、次回登板で再びMLBの歴史に名前を刻むような快挙を成し遂げようとしている。

 すでにフィル・ネビン監督が公言しているように、今シーズンの大谷選手は中5日登板が基本路線となっている。このまま順調に登板を重ねていけば、自身初の年間30試合登板をクリアできる。そうなれば登板数でも他の主力先発投手と肩を並べられるので、問題なくサイヤング賞の有力候補として考慮されるようになるだろう。

【今シーズンからMLBが認定した新球種スイーパー】

 ところで、今シーズンの大谷選手に新たな球種が加わっているのをご存知だろうか。

 昨シーズン後半戦からシンカーを投げ始め、投球の幅を広げることに成功していることは知れ渡っていることだが、今回はそれほど認識されていないのではないだろうか。

 それもそのはずだ。大谷選手が新たな球種を投げ始めたというよりも、MLBが今シーズンから新たに球種を認定し、大谷選手がその新球種の使い手だったということだからだ。

 その球種こそスイーパーと呼ばれるもので、今シーズンの大谷選手の投球の核になっている球種だ。

【今シーズン大谷選手が投げる約5割がスイーパー】

 ということで、MLB公式サイトに掲載されている大谷選手の今シーズンの球種別投球比率をチェックしてみたい。

 4シームファストボール(いわゆる真っ直ぐ)が24.0%で、以下スプリットフィンガー(いわゆるフォーク)8.4%、シンカー7.8%、カッター6.1%、カーブ2.4%、スライダー2.4%が続き、最も使用頻度の高い球種がスイーパーの49.0%となっている。

 この内訳を見て、スライダーが2.4%しかないことに疑問を持った方がおられるに違いない。大谷選手は昨シーズンからかなりスライダーを多投する傾向が強くなっているからだ。

 つまりスイーパーとはこれまでスライダーと表現されてきた球種であり、今シーズンからMLBがそれを別々に分けて表記し始めているのだ。

【従来のスライダーの握りと異なりより水平移動が大きい】

 SNS上でMLB投手らの投球をデータ解析している「ピッチング・ニンジャ」によれば、スイーパーについて以下のように定義している。

 1)球種自体は新しいものではなく、2023年時点でMLBが正式に認定したもの。

 2)スライダーのカテゴリーに分類されるもので、従来のスライダーよりも水平方向の動きがより大きいもの。

 3)一般的に従来のスライダーとは違う握りを用い、ボールの動きも異なるもの。

 如何だろう。TV画面からでは投手の握りまで確認することはできないが、ボールの動き方である程度スライダーとスイーパーの判別ができる。とりあえずピッチング・ニンジャによるスイーパー解説動画(英語版)を添付しておくので、興味がある方はチェックしてほしい。

 ちなみにエンジェルスの試合中継を担当する「バリースポーツ・ウェスト」では、すでにスライダーとスイーパーを別々に表現するとともに、前述のナショナルズ戦ではデータを紹介し、大谷選手のスライダーとスイーパーの違いを比較している(写真参照)。

大谷翔平選手のスライダーとスイーパーを比較するバリースポーツ・ウェスト(エンジェルス対ナショナルズ戦中継画面を引用)
大谷翔平選手のスライダーとスイーパーを比較するバリースポーツ・ウェスト(エンジェルス対ナショナルズ戦中継画面を引用)

【スイーパーはデータ解析野球から生まれた副産物】

 なぜMLBが今シーズンになってスライダーとスイーパーを別物扱いにしたかと言えば、ピッチング・ニンジャが指摘するように、投手たちが従来のスライダーとは違う握りを用い、スライダーとは別意識で投げるようになっているからだと考えられる。

 その背景にあるのが、昨今MLBで主流になっているデータ解析野球ではないだろうか。

 例えば今年2月に実施された侍ジャパンの宮崎合宿でも、ダルビッシュ有投手がブルペン投球を行う度に、トラックマン(弾道測定器)を用い、回転軸や回転数をチェックしながらピッチングしている姿を記憶されている方も多いはずだ。

 現在ではそうした測定器を駆使しながら、投手、コーチ、アナリストが一緒になって、如何に質の良い変化球を投げられるかを試行錯誤しており、変化球が以前とは比較にならないくらい複雑化している。

 そうした時代的なニーズに合わせ、MLBはスライダーという大きな括りのままにせずスイーパーという新たな球種を認定することになったと考えて良いだろう。

 今後大谷選手を表現する際は、「スライダーの使い手」ではなく「スイーパーの使い手」というフレーズが相応しいのではないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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