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W杯予選は佳境。本田圭佑は日本代表に必要ないのか?

小宮良之スポーツライター・小説家
日本代表でピッチに立つ本田圭佑(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

2010年南アフリカワールドカップでベスト16になったときから、日本代表の不動のエースとしてプレーしてきた男がいる。際だったパーソナリティは、下降線に入りつつあった日本サッカーを力強く牽引してきた。ときに貴重なゴールを奪い、苦境においてこそ頼もしい存在だった。

しかし、エースの座は危うくなっている。

「もはや招集するべきではない」

そんな声も聞かれる。

本田圭佑は、もはや日本代表に必要ないのか?

ハリルホジッチにとって、欠かせない本田

3月23,28日、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督率いる日本代表は、ロシアワールドカップアジア最終予選(UAE、タイ戦)に挑む。日本はグループ2位も勝ち点1差に4チーム。W杯出場に向け、予断を許さない(2位までが自動的に本大会出場で、3位はプレーオフ)。

それだけに、(3月16日に発表される)メンバー選考には注目が集まる。

なかでも、エース本田を招集するべきなのか?

その必要、不要論が分かれている。

「試合勘が不足。そもそも、出場していない選手を選ぶべきではない。競争原理に反する」

その指摘は理性から発しているだけに、説得力があるだろう。

本田は所属するACミランで不遇を過ごし、今シーズンの出場時間はわずか120分間弱、1試合半分にすら満たない。最近の代表戦でも、かつては失わなかったようなボールを失い、判断が遅れる場面もあった。練習と試合はまるで別のモノ。緊迫の90分をどこまで戦いきれるのか。体力的な問題も出てくるかもしれない。それよりも、所属チームで実績を上げている選手を使うべき、という意見は真っ当である。

「しかし、経験や実力は本物だ。ここぞという場面で頼りになるのでは」

そんな声もまだまだ根強い。

11月のサウジアラビア戦、本田は後半から出場。ミスもあったものの、左サイドに流れると長友佑都と抜群の連係を見せ、決勝点の起点となった。長友を引き出すテンポは卓抜としたものがあり、一流の域を見せた。前半に出場した久保裕也のほうが動きの量は多かったが、本田は効率的で理知的だった。

なによりエースたる所以か、本田は得点の気運を漂わせるのだ。

ハリルホジッチはサイドに得点力の高い選手を積極的に配する。アシストよりもゴールを求めるというのか。小林悠(川崎フロンターレ)、武藤嘉紀(マインツ)、久保裕也(ヘント)らストライカー的性格の選手を好むのも、その理由だろう。

そして、ハリル政権で最多得点者となっているのが、右FW(もしくは右MF)の本田なのだ。

さらに言えば、本田はオーストラリア戦で1トップに抜擢されている。前線にパワーを注入、守備ではフタをし、カウンターではうまくスペースを創り出し、戦術的センスも改めて証明。決定機を逃す場面もあったが、最もゴールを予感させる選手であったことも間違いない。

ハリルホジッチは本田のポテンシャルを買っている。アウエーで負けられない一戦となるUAE戦は、いかなる布陣を組むべきか、と迷うところだろう。あるいは、オーストラリア戦のような本田1トップになることもあり得る。同じく所属クラブで不遇の香川真司との連係も考慮した場合(清武は故障明けで、ようやく11日の試合に復帰したばかり。メンバーに入ってもスタメンは厳しいのでは)、指揮官が本田を選択する可能性はむしろ高い。

「本田が試合に出ていないことは心配だが、彼を上回る選手が日本にいるのか?」

ハリルホジッチは主張し続けているように、現状のチームデザインでは、本田は欠かせない選手になっている。

結論としては、ハリルJAPANには本田が必要なのだろう。

しかしながら、という逆接の接続詞がそこにはつきまとう。

本田は今年に入ってから、アディショナルタイムに1試合登場したのみだ。

不安要素は尽きない。

ハリルホジッチが博打を打つとすれば、布陣や攻撃の構造を変更したときだろう。例えばサイドに齋藤学や乾貴士などパスの供給源となるような選手を配置し、ゴールを仕留められるツートップを起用する形。その場合、本田を右サイドで起用する意味はない。ACミランでサブに甘んじているように、崩しやスピードでは齋藤や乾に及ばないだろう。また、ストライカーとしても岡崎慎司や小林悠のほうが計算も立つ。久保裕也のように、ベルギーで鋭気を見せているストライカーもいる。

しかし、いざ決戦で、ハリルホジッチがその賭けに出るとは思えない。

3月10日のユベントス戦も、本田はベンチ外で、たったの1分もピッチに立っていない。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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