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ヘンリー王子とメーガン妃の王室離脱を阻止しようとした英首相、政治回想録で暴露

木村正人在英国際ジャーナリスト
ジョンソン英首相(当時)とヘンリー公爵(英アフリカ投資サミット)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

■「男らしい激励の言葉」で説得を試みる

[ロンドン発]「政界の道化師」ことボリス・ジョンソン元英首相が欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)やコロナ危機、保守党の内幕を赤裸々に綴った政治回想録「解き放たれた」(筆者仮訳、原題はUnleashed)を出版する(10月10日予定)。

その内容を先取りした英大衆紙デーリー・メール電子版の独占連載が9月27日から始まり、ジョンソン氏がヘンリー公爵(英王位継承順位5位)に「男らしい激励の言葉」をかけ、元米女優メーガン夫人との王室離脱(メグジット)を阻止しようとしたことを明らかにしている。

EU離脱をかけ総選挙に大勝したばかりのジョンソン氏は2020年1月、2人が海外で新たな生活を始めるため英国を離れるのは間違いとヘンリー公爵を説得するよう依頼された。首相官邸とバッキンガム宮殿は公爵を思いとどまらせる可能性がまだ残されていると考えていた。

■「全く見込みのない馬鹿げた仕事だった」

「馬鹿げた仕事だった……ハリー(ヘンリー公爵の愛称)に英国にとどまるよう説得しようとした時のことだ。“男らしい激励の言葉”のようなものだ。全く見込みのないことだった」とジョンソン氏は回想している。

「男らしい激励の言葉」とは1人の男性が別の男性に対して行う男同士の会話、または助言のことを指す。

ジョンソン氏とヘンリー公爵の極秘会談はロンドンのドックランズで開催された英アフリカ投資サミットの際に行われた。ヘンリー公爵は「大きな悲しみだが、妻と王室を離れる他に選択肢はない」という感動的なお別れのスピーチを行った直後のことだった。

ジョンソン氏は2人だけでヘンリー公爵と20分間話し合った。ジョンソン氏は負傷兵士たちのための国際スポーツ大会インビクタス・ゲームを立ち上げたヘンリー公爵の努力と、途上国における女性と少女の教育促進に取り組むメーガン夫人の活動を称えた。

■「2人は“英国公開有限会社”の大きな財産」

ジョンソン氏は2人が“英国公開有限会社”にとって大きな財産であり、素晴らしい活動をしているのに英国を去ってしまうのは本当に残念だと考えていた。「2人きりの会話だった。ハリーに全く折れる気配はなかった」(ジョンソン氏)

ブレグジットを強行したジョンソン氏にもメグジットを止めることはできなかった。極秘会談の翌日、ヘンリー公爵はカナダに飛び、メーガン夫人の長男のアーチーちゃんと再会した。

ジョンソン氏は予告動画で「私がリシ・スナク前首相について本当に思っていること」「土壇場で裏切られた盟友でありライバルだったマイケル・ゴーブ前平準化担当相をしっかりとサイドミラーに映し続けることを学んだ経緯と理由」など保守党の内情も暴露すると宣言している。

ジョンソン氏の政治回想録はEU離脱で英国を大混乱に陥れた張本人の暴露本だけに資料的な客観性は全く期待できないものの、強烈なエゴとエゴとが激突する保守党の政治力学やブレグジットという狂騒の台風の目だった政治家の心中を知る上で非常に興味深い。

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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