ラニーニャ現象の犯人は、オーストラリアの森林火災か
歌手エルトン・ジョン、女優ニコール・キッドマン、テニスのジョコビッチ選手と、世界のセレブリティが次々に支援金を送った森林火災がありました。2019年から2020年にかけて起きた、オーストラリア東部の火災、通称「ブラック・サマー」です。
記録的な暑さと乾燥から森林火災が多発し、燃えた面積は国土の2%に上りました。死者は34人、コアラなど30億匹の動物が犠牲になりました。
10日(水)、この火災が地球全体に思わぬ影響を与えていたことが明らかになりました。Science Advancesに発表された米国大気研究センターらの研究によると、「ブラック・サマーがラニーニャ現象を引き起こした」可能性があるようです。
でも一体どんなからくりで、森林火災がラニーニャ現象を誘発したというのでしょうか。
ラニーニャ現象とは
ラニーニャとは、太平洋東部の赤道付近の海水温がいつもより下がる現象をいいます。この海水温の変化は世界の天候にも影響して、日本では猛暑・寒冬になる傾向があります。
今年初めに終息したラニーニャ現象は、とりわけ珍しいものでした。まず、2020年から連続3年間も続いたこと。これほど寿命の長いラニーニャ現象は、過去に3例しかありません。
そのうえ、研究者の予想に反して発生したことです。通常の兆候が見られなかったために、学者たちの意表をついて起きたようなのです。
煙エアロゾルが海を冷やす
発表された論文をまとめるとこうなります。
結論: 2020年から起きたラニーニャは、オーストラリアの森林火災から出た煙の粒子(エアロゾル)によって引き起こされた可能性がある。
理由: 空を舞ったエアロゾルが、西風に乗って太平洋の南東部に運ばれ、それが雲の核となった。雲ができて太陽光を反射させ、結果、海水温が下がった。それが大気の流れを変え、赤道付近(ラニーニャ発生の指標となる海域)の海水温を下げた。
研究者たちは、エアロゾルが大気に放出されていたのは数か月間だったにもかかわらず、長期にわたって世界の天候に影響したかもしれないことに驚いたそうです。
自然の"バランス機能"
そもそもブラック・サマーの一因は、当時発生していたエルニーニョ現象が、極端な少雨と高温をもたらしたことにあります。
その後一転してラニーニャ現象が起きると、今度は雨が止まないという真逆の問題に見舞われることになりました。
おかげで干上がっていた畑が潤い、農作物が実ったのはいいのですが、豊作すぎるほどの豊作で、ネズミが指数関数的に増え、収穫物が食い荒らされるという思わぬ問題も起こりました。
エルニーニョ現象が森林火災を悪化させ、その煙がラニーニャ現象を引き起こした。
自然のサイクルとそのバランス機能に、あらためて驚かされます。