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AI診断で皮膚がん早期発見?最新研究が明かす課題と可能性

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

【AIによる皮膚がん診断の現状】

近年、医療分野でのAI活用が進んでいますが、皮膚科領域でも注目を集めています。

アメリカのニューヨーク大学とラトガース大学の研究チームが、AIを使った皮膚がん診断に関する最新の研究結果を発表しました。この研究では、2000年から2023年にかけて発表された232の研究論文を分析し、AIによる皮膚がん診断の現状と課題を明らかにしています。

研究対象となった皮膚がんは、基底細胞がん、有棘細胞がん、そして最も危険とされる悪性黒色腫(メラノーマ)です。これらの皮膚がんは、早期発見・早期治療が重要であり、AIによる診断支援への期待が高まっています。

【AIの診断精度と課題】

AIによる皮膚がん診断の精度はどの程度なのでしょうか?研究結果によると、全体的な精度は90%、感度(がんを見逃さない能力)は87%、特異度(健康な皮膚をがんと誤診しない能力)は91%と、かなり高い数値を示しています。

しかし、これらの数値には注意が必要です。研究によって報告される指標がばらばらで、一貫性に欠けるのです。また、外部での検証が不十分な点も大きな課題となっています。

さらに、AIの診断精度は皮膚がんの種類によっても異なります。悪性黒色腫の診断精度は比較的高いものの、有棘細胞がんの診断は難しいことがわかりました。

AIによる皮膚がん診断は確かに期待できる技術ですが、現時点では完全に信頼できるものではありません。むしろ、皮膚科医の診断を補助する道具として活用するべきでしょう。患者さんも、AIの診断結果だけを過信せず、必ず専門医の診察を受けることが大切です。

【多様性とデータの課題】

AIの学習に使用される画像データにも課題があります。研究チームが確認した61万枚以上の皮膚病理画像のうち、実際にAIの学習に利用可能だったのはわずか10.5%でした。

さらに深刻な問題は、データの多様性の不足です。肌の色の違いを示すフィッツパトリック皮膚タイプについて言及している研究はわずか1.3%で、有色人種の皮膚画像はたった3.2%しか含まれていませんでした。

これは日本人を含むアジア人の皮膚がん診断にも影響を与える可能性があります。日本人の皮膚は欧米人とは異なる特徴を持つため、欧米人のデータが中心のAIでは、正確な診断が難しいかもしれません。

また、皮膚科医の関与が少ないことも問題として挙げられています。AIの開発に皮膚科医が参加している研究はわずか12.9%でした。医療現場の知識や経験を活かしたAI開発が求められています。

AIによる皮膚がん診断は、まだ発展途上の技術です。しかし、その可能性は非常に大きいものがあります。今後、データの多様性を高め、専門家同士が協力を深めることで、より精度の高い診断支援ツールになることが期待されます。

皆さんも、気になるほくろやシミがあれば、まずは皮膚科を受診しましょう。そして、将来的にはAIが皮膚科医の診断をサポートし、より早期に、より正確に皮膚がんを発見できるようになるかもしれません。

参考文献:

Jairath N, Pahalyants V, Shah R, Weed J, Carucci JA, Criscito M. Artificial intelligence in dermatology: a systematic review of its applications in melanoma and keratinocyte carcinoma diagnosis. Dermatol Surg. Published online May 9, 2024. doi:10.1097/DSS.0000000000004223

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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