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リスクは国債にあり

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 20日付の日経新聞によると、インドネシアやミャンマーなどの中銀は政府が発行した国債を直接引受ける「財政ファイナンス」を認め、政府の国債増発を下支えするそうである。

 財政ファイナンスは財政規律を失わせ、ハイパーインフレなどをもたらす恐れがあるためとして、日米欧の主な国では禁じられている。

 ユーロ圏では「欧州連合の機能に関する条約」の第123条で禁止され、米国でも連邦準備法により連邦準備銀行は国債を市場から購入する(引受は行わない)ことが定められている。

 日本でも財政法第5条によって日本銀行における国債の引受は、原則として禁止されている。

 これは中央銀行がいったん国債の引受によって政府への資金供与を始めると、その国の政府の財政節度を失わせ、ひいては中央銀行通貨の増発に歯止めが掛からなくなり、悪性のインフレーションを引き起こすおそれがあるからと日銀のサイトでは説明されている。

 英国では禁じられてはいないが、イングランド銀行は国債を直接引受けるのではなく、ECBやFRB、日銀と同様に市場から国債を買い入れている。

 これに対して、インドネシアでは中央銀行が5月までに国債計22.8兆ルピア(約1640億円)を直接購入したと表明。フィリピン中銀も3月、3カ月で政府が買い戻す条件付きで、国債直接引受けの方針を決め、ャンマーは中銀の国債直接引受けを拡大すると日経は報じている。

 新型コロナウイルスの世界的な感染拡大による経済活動の停止状態により、経済は大きな打撃を被っている。これに対しては直接、財政が支援せざるを得ない。米国も英国やユーロ圏、さらには日本でも大規模な経済対策が実施され、その財源は国債の増発によって賄われている。

 確かに今は非常時であることに変わりなく、必要な対策ではある。しかし、このまま国債の増発が続けられ、中央銀行による買入、もしくは直接引き受けが大規模に行われ続けるとなれば、いずれ国債そのものへの信用度が低下する恐れがある。

 大規模な国債の増発に対し、日米欧の債券市場は特に動意を示すことはなく、中央銀行のゼロもしくはマイナス金利政策もあり、国債の利回りは極めて低位、もしくはマイナスの状態にある。

 しかし、このような非常時の対応が国債利回りが落ち着いているからと言って今後も永遠に続けられるわけではない。財政規律に疑問が生じれば、長らく築いてきた信用が一気に崩れる恐れがある。

 新型コロナウイルスの感染拡大とそれを阻止するための経済活動の自粛は、戦後最大規模の経済への打撃となりつつある。そのなかにあって株価は予想以上にしっかりしており、一時波乱のあった原油先物も落ち着きつつある。国債利回りも低位で安定してはいる。しかし、このなかにあって、じわりじわりと潜在リスクを高めているのは実は国債ではないかと思う。そのリスクを顕在化させないよう、財政規律

をしっかり守っていくことも求められよう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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