日本共産党の「TikTok」アカウント開設と脊髄反射的反応によるイメージ政治招来の懸念
日本共産党が短編動画共有サイト「TikTok」にアカウントを開設したことがちょっとした話題になっている。
共産、TikTok開設 支持拡大へ発信強化:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42837570T20C19A3000000/
日本共産党が「TikTok」進出 初投稿は志位委員長のピアノ(東スポWeb)- Yahoo!ニュース
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190319-00000028-tospoweb-ent
共産党がTikTok公式アカウント開設 国政政党では初- SANSPO.COM
https://www.sanspo.com/geino/news/20190324/pol19032405000002-n1.html
2015年秋に当時の主要政党の広報などに取材して執筆した拙著『情報武装する政治』(KADOKAWA)などでも紹介したが、日本共産党は広報やプロモーションにかなり熱心な政党だ。共産党は政党助成制度について異議を唱え、受け取りを拒否している。
資金的なハンディキャップを有するだけに、やり方次第で比較的低コストでも効果的な宣伝広報が可能なネットの活用において、かなり創意工夫を凝らし、試行錯誤を続けている。この間、若者向けの広報誌から伝統の政党色である赤色を減らしてカジュアル化してみたり、ネット活用も2013年の公職選挙法改正に伴うインターネット選挙運動の解禁でさらに本格化した。
政党の広報、キャンペーンという点では、歴史的な蓄積もあり、自民党、公明党に並んで注目すべき存在だ。ちなみにTikTokほどの話題にはなっていない印象だが、YouTuber化にも取り組んでいる。
共産党の小池書記局長が「YouTuber」に 登録者数は...
効果のほどは現状定かではないが、新しい手法を試している様子がうかがえる。
こうしたTikTokの活用は政党の広報、将来的には選挙運動での活用においてどのような影響があるのだろうか。TikTokの他に最近では政党や候補者の選挙運動、政治活動におけるInstagram活用も活発になっている。2018年の自民党総裁選では安倍陣営、石破陣営ともにInstagramのアカウントを開設したが、これは自民党総裁選におけるはじめての出来事だった。
非テキスト系SNSが本格活用された初めての自民党総裁選と憲法改正国民投票運動(西田亮介)- Y!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/byline/ryosukenishida/20180924-00097607/
総理の投稿動画から考える、政治の「インスタ活用」への不安と懸念
もちろん直接結果に影響したとは思わないが、少なくとも大文字の政治はその利活用に強い関心を示している。事実、これらのSNSは、従来、政治(広報)が苦手としてきた女性や若年世代を中心に普及している。投票年齢も満20歳以上から満18歳以上に引き下げられただけに、現在は試行錯誤段階だが積極的に活用してアテンションだけでも獲得したいと考えるのはごく自然なことだ。実際、下記の共産党TikTokの投稿をスクリーンショットしたTwitterの動画は、2019/03/25時点で26.4万回再生されている(投稿のRTは2487件、いいねは5915回)。これはあくまでコピーしたものに過ぎないから、この投稿は一定程度、ネットで話題になったといえそうだ。
InstagramやTikTokでは、従来のSNSと異なり、コミュニケーションの中心がテキスト(文字情報)から加工された静止画、映像、音声中心に変わりつつある。テキストを中心にしたコミュニケーションより脊髄反射的反応を誘発しやすく、様々な活用の仕方が考えられる。諸外国に目を向けてみると、米大統領選挙におけるロシアの手によるとされるフェイクニュースの流通はInstagramなども相当程度注力されたと報じられている。
SNSに大量投稿しトランプ氏を支援--ロシアによる選挙干渉の実態が報告書に
筆者はこれまでの著書で、ネット技術の高度化等に政治が過剰適応し、理性よりもそのイメージを重要視し、その状況を積極的に活用する様を「イメージ政治」と呼んできた(『情報武装する政治』(KADOKAWA)、『メディアと自民党』(角川新書))が、13年の公職選挙法改正に伴うネット選挙運動の解禁は政党優位の制度設計になっていることもあって、政治キャンペーンの高度化を招来した。
平成ネット政治史:/11止 信頼性低く、影響は微小? 得た力を未来のために=逢坂巌- 毎日新聞
SNS利用に伴う短文での政治コミュニケーションは議論を深めるよりも、断片化や分断化に貢献しているように見受けられる。InstagramやTikTokといった非テキスト系SNSの政治利用が活発化していく先も、脊髄反射的反応を基軸にする政治であるなら問題だ。理性的な利用や市民の公共性に資するような利活用が可能か、もし課題が大きいのであれば、規制の必要性も排除できない。最近は沈静化したが、憲法改正の国民投票における国民投票運動での利活用も当然ありうる。2019年は12年に1度、統一地方選挙と参院選が実施される「亥年選挙」の選挙イヤーだけに今後の動向を注視したい。