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非テキスト系SNSが本格活用された初めての自民党総裁選と憲法改正国民投票運動

西田亮介社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 2018年の自民党総裁選は、安倍氏の勝利で幕を下ろした。あまり話題になっていないが、今回の自民党総裁選はソーシャルメディア、なかでも非テキスト系SNSが本格活用された初めての自民党総裁選だった。安倍、石破両陣営の活用方法を簡潔に振り返りつつ、日に日に現実味を帯びる憲法改正の是非を問う国民投票運動との関係を考えてみたい。

 前回、自民党総裁選が戦われたのは2012年のことである。当時も候補者の討論会が動画配信されたりはしたものの、公職選挙法改正に伴うインターネット選挙運動の解禁以前のことでもあり、政治の広報ツールとしてソーシャルメディアが十分に活用されていたとはいえない。周知のとおり、2013年のインターネット選挙運動の解禁によって、候補者も政党も本格的に選挙運動にソーシャルメディアを活用するようになった。ちなみに後で取り上げるInstagramの日本語版が登場したのは2014年のことだ。

 そもそも6年前にはまだまだソーシャルメディアやSNSは社会インフラとして広く認知されていたとはいえなかった。たとえば総務省情報通信政策研究所の「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によれば、2012年の代表的SNS6種類のいずれかを利用していた人は調査対象の41.4%にとどまっていた。2016年には70%を超えているから、随分な変化である。

代表的SNSの利用率の推移(全体)。総務省「平成29年版 情報通信白書」より引用。
代表的SNSの利用率の推移(全体)。総務省「平成29年版 情報通信白書」より引用。

 こうした状況の変化もあって、今回の自民党総裁選では立候補した安倍、石破両陣営ともにソーシャルメディアを意識した選挙運動を展開した。なかでも動画やInstagramなど、いわゆるテキストが主役ではないSNS、非テキスト系SNSを本格運用していた点が共通する。だが、運用の仕方には両陣営のあいだにいろいろと違いがあって、比較してみると参考になる。以下が両者のInstagramのアカウントだ。

安倍氏Instagram

https://www.instagram.com/shinzoabe/?hl=ja

石破氏Instagram

https://www.instagram.com/ishibashigeru/?hl=ja

 

 動画や写真をTwitterやFacebook、Instagramなどで使いまわしているという意味では両者の使い方はよく似ている。石破氏は47都道府県別の動画メッセージを用意したことが業界では話題になったがInstagramにも転載されている。ちなみに、フォロワー数は本稿執筆時点で安倍氏が約18万8000人、石破氏が5658人と大きな開きがあった。

 また安倍氏の動画はよく編集されている。事実上の総裁選出馬宣言とされる下記の投稿が象徴的だ。

https://www.instagram.com/p/Bm-6hi3Ho42/?hl=ja&taken-by=shinzoabe 

安倍氏Instagramより引用
安倍氏Instagramより引用

 安倍氏のこの投稿は2分弱の長さに、効果音や字幕を活用しながら、これまでの実績、主張のイメージが集約されている。細かい点だが、スマートフォン対応で縦長画面に最適化してある点にも注意したい。かなり細部まで作り込まれていることがわかる。恐らくはプロのPRパーソンの仕事である。

 それに対して、石破氏の動画はどうか。石破氏の投稿は概ね5分以上10分程度のものが中心で、安倍氏の動画投稿と比べると長い。Instagramは携帯で使われることが多いが、携帯で政治の動画を10分も見続けるだろうか。やや疑問が残る。また効果音や字幕は使われておらず、石破氏が滔々と語りかけるのみである。例えば以下の茨城県のものは11分ほどの長さがあり、政策説明の投稿も同様である。画面サイズのスマートフォン対応はしていない。こちらは手弁当か、ソーシャルメディア対応が十分になされていない業者のクオリティといったところだろうか。

https://www.instagram.com/p/BnsrG5yB_FK/?hl=ja&taken-by=ishibashigeru

石破氏instagramより引用
石破氏instagramより引用

 もちろんInstagramを使ったプロモーションという意味では安倍氏のほうが格段に現代的な手法を取り入れているが、このような手法はすぐに模倣可能であり、自民党総裁選という選挙の性質を考えてみてもこれらの活用の仕方がそれほど結果に影響したということもないだろう。

 しかしこの間、憲法改正の発議が現実味を帯びてきている。いうまでもなく、安倍氏も石破氏も憲法改正論者だ(石破氏は急ぐ必要はないというのが今回の総裁選の主張でもあったが)。憲法改正の発議後の、公職選挙法よりも規制が乏しく米大統領選的なメディアを駆使した総力戦的様相も考えられる国民投票の過程では、当然のことながら自民党総裁続投が決まった安倍氏が用いたのと同等かさらに改善されたオンライン・キャンペーン手法が用いられる可能性は十分ありうるだろう。

 ただでさえ、ネット上のキャンペーンは過熱しやすく、直近の沖縄知事選はじめ近年国内外で問題視されている。さらに非テキスト系SNSの場合、文字というそれでも一瞬は解釈を必要とする理性の道具ではなく、映像や効果音、刺激的なテロップが主役になりやすい。脊髄反射や雰囲気による選択の誘発という課題がある。

 最近ではネット言説に対する第三国の介入や意図的な分断についても指摘されている(シャープパワー)。そのような刺激と脊髄反射が誘発されやすい環境で憲法改正の是非が選ばれるとするなら問題だといわざるをえない。マスコミCMの量的規制も行われないことになっただけに尚更だ。

改憲の賛否呼びかけるCM、量的規制せず 民放連が決定:朝日新聞デジタル

https://www.asahi.com/articles/ASL9N56FJL9NUCLV00Q.html

 我々の社会に脊髄反射的反応を防ぐ仕掛けが十分に用意されているかと問われるといささか心許ないだけに、憲法改正がいっそう具体化する前に今から慎重に備えておくべき主題に思える。

社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

博士(政策・メディア)。専門は社会学。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授、東京工業大学准教授等を経て2024年日本大学に着任。『メディアと自民党』『情報武装する政治』『コロナ危機の社会学』『ネット選挙』『無業社会』(工藤啓氏と共著)など著書多数。省庁、地方自治体、業界団体等で広報関係の有識者会議等を構成。偽情報対策や放送政策も詳しい。10年以上各種コメンテーターを務める。

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