「必ずがんを叩きのめそう」先輩・北斗晶からの手紙
〈熱闘あり笑いあり 奇跡のように幸福な一夜〉
昨年末、乳がんステージIVを告白した女子プロレスラー亜利弥`が1月8日、東京・新木場1stRINGで自主興行『亜利弥’デビュー20周年記念大会To Live~Wonderful Friends~』を開催した。
「お祭り騒ぎのような大会を開いて、同じステージIVのがんと闘う人たちに『試合までやっちゃうなんてバカだねえ』と笑ってもらい、元気になってもらいたい」
亜利弥`の願いそのまま、団体の枠を超えて集結した総勢30名の男女プロレスラーによる全6試合は、熱闘と笑いの連続となった。
この日、会場に駆けつけたファンや関係者約500名にとっては、奇跡のように幸福な大会だった。亜利弥`本人はなおさらだろう。
「彼女が(がんを)乗り越えることを信じている」と試合後語った恩師のジャガー横田はじめ、出場レスラー全員が体を張って亜利弥`にメッセージを送っていることが、彼らの闘いぶりから伝わった。それだけではない。運営スタッフが亜利弥`にも内緒で、数々のサプライズを用意していたのだ。
〈大先輩のレジェンドから贈られたサプライズ〉
メインの6人タッグ入場の際、サプライズゲストとして登場したのは女子プロレス界のレジェンド、長与千種。「花(を贈る)よりも自分がやりたかったことです」とマイクで語った長与は、先に入場していた大仁田厚と2人でロープを上げ、入場してきた亜利弥`をリングに招き入れた。
「一度はやってみたかった」と自ら志願した初挑戦のデスマッチでは、有刺鉄線ボードに叩きつけられながらもドロップキックやローリングクレイドルを繰り出し、渾身の闘いを見せた亜利弥`。見事、3カウントを奪い、試合後のセレモニーが始まると、懐かしい同期や仲間が続々とリングに上がり、デビュー20周年を祝福した。
セレモニーの最後に、大先輩の堀田祐美子が1通の手紙を代読した。堀田と同期である北斗晶からのものだった。
「連絡を取りたいけれど、一部温存手術の私と北斗さんでは違う思いが絶対にあるはず。かける言葉が見つからない」と、コンタクトをずっとためらってきた亜利弥`にとって、北斗からのメッセージはこれ以上ないほどのサプライズだった。
亜利弥`選手様
はじめまして、北斗晶です。
先日、大きな病気を背負いながらリングに上がり続け、闘うあなたの存在を堀田祐美子選手から教えてもらい、正直、心が締めつけられました。どんな思いでリングに上がり続けているのでしょうか。大好きなプロレスをしている時が、もしかしたら一番幸せなのかもしれませんね。
私は長年思い続けていたことがあります。
プロレスラーは強さよりも、やられても、やられても立ち上がる、その凄さを見せられるのが最高のプロレスラーだと。これは人生においてもそうではないでしょうか。
やられても、やられても立ち上がる、そんな亜利弥`選手の姿を、応援してくれるファンの皆様や、支えてくれる先輩、同期、後輩、家族、仲間……たくさんみんなに見せてあげてください。
リングの前に立つのは対戦相手です。でも、亜利弥`選手の本当の敵は、体の中の癌ですよ。そちらもプロレス同様に必ず叩きのめしてください。私も必ず癌を叩きのめします。
頑張れ亜利弥`選手! 陰ながら応援させていただきます。
2016年1月8日 北斗晶
言葉にならず立ちつくす亜利弥`に、リングの端でメッセージを聞いていた大仁田が歩み寄り、彼女を叱る。
「おい亜利弥`、なんでお前に泣かされなきゃいけないんだ、オレが」
大仁田から激励代わりにペットボトルの水をかけられた亜利弥`は、マイクで感謝と決意を伝えた。
「今日は本当に胸いっぱいのプロレスができました。本当にありがとうございました。絶対、帰ってきます」
小学校時代のクラスメートという縁で今大会をサポートし、メインで共に闘った田中将斗は試合後、語った。
「今回は20周年。彼女が25周年をやりますよという時まで、僕は引退しない。その時また、同じリングで闘いたい」
節目と決意の大会で、亜利弥`はまた新しい目標を見つけた。