新型コロナに新兵器 宇宙飛行士風の「バブルヘルメット」で酸素吸入 イタリアの緊急病棟で
[ロンドン発]新型コロナウイルスの世界的大流行で2万人近い犠牲者を出しているイタリアで「バブルヘルメット」と呼ばれる酸素吸入器が使用されています。
伊北部ロンバルディア州ベルガモにある病院の緊急病棟では新型コロナウイルスによる肺炎の患者にバブルヘルメットをかぶせて酸素吸入しています。
英衛星放送スカイニューズ・テレビが報じた特集でその様子が映し出されました。これまでは気管挿管され人工呼吸器を装着された患者が鎮静薬で眠らされ、うつ伏せにされている姿がほとんどでした。
これに対してバブルヘルメットをかぶせられた患者はスマホをいじったり、周りを見渡したりしているので驚きました。肺炎が重篤化して人工呼吸器を装着するに至っていないことをうかがわせました。
米NBCニューズによると、テキサス州で同じタイプのバブルヘルメットを製造する工場には世界中から注文が殺到しているそうです。費用は162ドル(約1万7500円)未満だそうです。
新型コロナウイルスによる肺炎が進行して血中酸素濃度が下がってくる(息苦しくなってくる)とすぐに酸素を吸入できるかどうかが生死の分かれ目になります。主な呼吸サポート治療の方法は次の通りです。
(1)経鼻カニューレ
(2)リザーバー付マスク、ポリマスク
(3)人工呼吸器(気管挿管)
(4)ECMO(体外式膜型人工肺)
宇宙飛行士のヘルメットを透明のビニールで作ったように見える「バブルヘルメット」は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に苦しむ患者に使用され、肺の気圧を均一化し、フェイスマスクよりも効果的だそうです。
バブルヘルメットは患者の頭全体を囲んで酸素を供給し、首を包み込む柔らかく気密性のある襟で密閉されています。
2016年、シカゴ大学医学部で鼻と口を覆う標準のフェイスマスクの代わりにバブルヘルメットを使用すると、重症患者の呼吸が改善し、気管挿管が不要になったそうです。
人工呼吸器には気管挿管の不快感が強く、鎮静薬が必要になります。長時間使用すると肺がダメージを受けたり、人工呼吸器が原因で肺炎になったりするデメリットがあります。
一方、バブルヘルメットを使用した患者は集中治療室で過ごす時間が短くなり、生存率が向上。1年後、フェイスマスクの患者よりも自宅で過ごせる日数が増えていました。
83人のARDS患者のうち44人にバブルヘルメット、39人にフェイスマスクを使用したところ、バブルヘルメットの患者は、気管挿管を必要とする可能性が3分の1に減少。副作用はほとんどありませんでした。
【気管チューブを挿管】
バブルヘルメットの患者18.2%、フェイスマスクの患者61.5%
【人工呼吸器を使用しない日】
バブルヘルメットの患者28日、フェイスマスクの患者12.5日
【90日目の死亡率】
バブルヘルメットの患者34.1%、フェイスマスクの患者56.4%
バブルヘルメットがフェイスマスクに勝る利点の一つは酸素が漏れにくいことです。これによりバブルヘルメット内の気圧を上げることができ、気道と肺を開いたまま酸素レベルを改善することができるそうです。
顔に触れないため快適で過ごしやすく、患者はテレビを見たり読んだりすることができます。新型コロナウイルス対策としてシカゴ大学医学部とテキサス州の製造元はバブルヘルメットにウイルスフィルターを加えたそうです。
テレビで観ていると、バブルヘルメットをかぶった患者は医師や看護師とコミュニケーションを取るのは少し難しそうです。医師や看護師の防護具が緩いように感じましたが、経鼻カニューレや気管挿管に比べて感染リスクが低いのでしょうか。
新型コロナウイルスに対するワクチンも治療薬もない今、患者は自分の抵抗力で戦うしかありません。血中酸素濃度が下がると抵抗力も弱まり、重症・重篤化が進みます。
バブルヘルメットで肺の気圧を保ち、つぶれかけた肺胞を膨らませて血液の中に酸素を送り込むことができれば、患者を集中治療室(ICU)に運び込まずに回復させることができます。
新型コロナウイルスによる肺炎患者に対する酸素療法はエアロゾルが発生しやすく、密着して作業する医師や看護師は大量のウイルスに曝露されるリスクにさらされています。バブルヘルメットで医療従事者への感染を防ぐことができれば一石二鳥です。
バブルヘルメットの効用についてイタリアの病院やシカゴ大学医学部からの報告を聞きたいところです。
(おわり)