【泉南市】常連は知っている 老舗喫茶店の『最強ドライカレー』。51年貫く“洋食屋レベル”の味の秘密
通い詰めないとその美味しさに気づかないメニューというものが存在します。
たとえばそれは、シンプルであればあるほど見過ごされがちなような気も。
「特別なことなんて何もしていませんよ」。
そう語るのは、「喫茶シ・ラン」のマスター 芝野 義幸(しばの よしゆき)さん、御年70歳。
20歳で開業したお店は、今年で51年目を迎えるといいます。
わたしが、「喫茶シ・ラン」の『ドライカレー』を知るきっかけとなったのは、遡ること“結婚前”の話。プロポーズの武器として、なぜか 「泉南市の街案内」を用意していた主人の“グルメ企画”の中に、「喫茶シ・ラン」の『ドライカレー』が入っていたのです。
直訳すると、「『喫茶シ・ラン』の『ドライカレー』が美味しいから、泉南市においで(結婚しよう)」。
その後、まんまと企画の罠にはまり結婚したわたしは、当然のことながら「喫茶シ・ラン」の『ドライカレー』は“想い出の味”となったのです。
若い頃、「喫茶シ・ラン」の常連だった主人。武器として用意できるほどの『最強ドライカレー』とは?
その魅力をたっぷりご紹介します。
せっかくなので主人と一緒に…。
南海本線「樽井」駅から徒歩8分のところにある「喫茶シ・ラン」。
51年もの長い間、わたしたちの街にあることを想うと当たり前のように感じていた光景も感慨深いものがあります。
やわらかな光に包まれた店内に、4人掛けテーブル4卓が空間を確保するようにゆったりと配されています。
店内のあちらこちらにある“レトロな調度品”がとても素敵。
一見、街の純喫茶風の「喫茶シ・ラン」ですが、メニュー表いっぱいに書かれた豊富な“洋食メニュー”に驚きます。
“洋食屋”さながらのメニューレパートリーを70歳のマスターお一人で作るというのですから大したものです。1年前に大病を患ったという奥さんは、現在は不定期でお店の手伝いをされているそうです。
伝統の味は守りつつ、進化し続けているという「喫茶シ・ラン」のメニュー。
たとえば、「オムライスカレー」は、当初、「カレー」と「オムライス」を分けて盛り付けていたそうですが、現在は、カレーの海にオムライスの島がぽっかり浮かんでいるような盛り付け方に変更したのだとか。なんだか可愛いですね。
主人は、“若い方に大人気”とマスターイチオシの「オムライスカレー」を、
わたしは「ドライカレー」を注文しました。
注文と同時にキッチンで調理をはじめるマスターは、 “30年のベテラン”らしく手際がいい。
さほど待つこともなく、お料理が運ばれてきました。
きれいに折られた紙ナプキンにピカピカの銀のスプーンが据えられています。
やはり、ここは“洋食屋”なのだ、と感じます。
そしてこれが『最強ドライカレー』。このドライカレーの美味しさは、「家庭でつくるありがちなドライカレー」の説明なしでは、語れそうにないのでここに記します。
【家庭でつくるありがちなドライカレー】
食べる場所によって味がまばら。濃い、薄い、など。
ライスの粘度に具が巻き込まれる現象が起きるため、ライスの保温効果で野菜がベチャベチャになりがち。コクを出すためにいろいろ入れがち。結果、ライスと野菜が同じような味になり、素材の味を楽しめない。とにかく、もったりしてしまう。
*すべて主観です。すこしでも共感いただけたらうれしい。
具(玉ねぎ、ピーマン、人参、ハム)が生きています。とにかく野菜が甘いんです。そしてシャキシャキ。
「カレー味のライス」×「素材の良さが生きた“具”」の融合が素晴らしい。
それは、はじめから一体化していてはダメなのだと思います。口の中で溶けあわないと。シンプルな料理だからこそ追求したい“素材の味”が際立っています。
「特別なことなんて何もしていない」というマスターの経験(30年)がなせる技なのだと感じます。そして、しっかりスパイシーなカレー味のライスに野菜とハムの旨味がプラスされ、味に奥深さも感じます。噛めば噛むほど野菜の甘みが口いっぱいに広がり、ピリつく舌をやわらげてくれる。どんどん口に運びたいけれど、なくなるのが惜しいからゆっくり食べたい、やっぱりこれは『最強ドライカレー』なのです。
そしてこちらが、マスターイチオシの「オムライスカレー」。
本当だ、カレーの海にオムライスの島が浮かんでいるみたい…。
見るからに美味しそうな深くて濃いチョコ―レート色の「カレールー」は、マスターの完全オリジナル。
缶やレトルトのカレールーを使うことが多いという“喫茶店のカレー”らしからぬ風貌に、洋食にかけるマスターの意気込みを感じます。
「スパイスを調合して、玉ねぎを飴色に炒めるところから作っています」とマスター。一口食べるとその濃厚な味わいに、一流の洋食屋にあっても決して引けを取らない美味しさを感じ、今日ばかりはこのカレーが「泉南市」にとどまっていることを惜しいと感じました(もっと羽ばたいてほしいという意味で)。どれほど煮込んでいるのだろう…。結局、どちらも美味しいので主人とシェアして食べることに。
まるで百貨店のレストランでいただくようなカレーと、ぴっちり巻かれたきれいなオムライスには、意外な秘話がありました。
「昔、『高島屋大食堂』で働いていて、その時にカレーの仕込み方と、オムライスの巻き方を教わったんですよ」とマスター。
やっぱり!百貨店の洋食屋仕込みの味だ。「高島屋大食堂」のビーフカレーと言えば、昭和40年代に食堂の看板メニューとして人気を博した幻のカレー。復刻版のレトルトカレーが発売されるなど、往時を懐かしむ昭和世代が多いことでも有名です。
ずっと「洋食屋みたい…」と感じていたわたしの直感は間違っていなかったのです。
なんだか『最強ドライカレー』の美味しさの裏もとれた気分。
食後にオーダーした珈琲の抽出方法は、今では珍しい「サイフォン式」です。
「まるで実験室みたい…」とよろこぶわたしに、「これしか知らない」とマスター。
珈琲の香りに包まれながら、ポコポコと湧き上がるお湯を眺めます。
サイフォンで淹れる珈琲は、抽出過程を楽しめるほか、味がブレにくいなどの特徴があるそうです。
お湯と浮き上がった珈琲粉を、竹べらで攪拌(かくはん)します。味の美味しさが決まる大切な作業です。
サイフォン式の珈琲は、珈琲粉に一定量のお湯を浸してじっくりと抽出する「浸漬(しんし)法」を使って淹れていきます。その仕組みから、余分な粉が溶けださず、すっきり、やわらかな口当たりの珈琲に仕上がるそうです。
自然の湧水で淹れた珈琲のような、澄んだ味わい。すっきり、やわらかな口当たりです。
昭和47年の創業当時からずっと“洋食屋レベル”の味を貫き、守り続けている芝野さん。
「喫茶シ・ラン」の屋号は、当時、「喫茶 芝蘭(しらん)」だったそう。
芝野さんの「芝」に「蘭」で「芝蘭(しらん)」。知人の方が辞書を引いて名付けてくれたのだとか。「目上の人を敬うという意味があるそうですよ」と奥さんが教えてくださいました。
「『芝蘭(しらん)』が『SHIRAN』になり、現在は『シ・ラン』です 笑。時代の流れと共に屋号も変化してきました」とにっこり。
マスターの背中を見て育った息子さんもカフェのオーナーをされていて、北堀江と浜寺公園に店をお持ちだそう。
グランノットコーヒーロースターズ
大阪府大阪市西区北堀江1丁目23-4 長野ビル102
BATON coffee&pastries
大阪府堺市西区浜寺公園町2丁202 1F
「喫茶シ・ラン」同様、珈琲愛が伝わるお店です。こちらも要チェックですよ。
取材中、お客さんが途絶えることがなかった「喫茶シ・ラン」。
常連さんにも支えられている、とマスターはいいます。
「さっき、この席にいらしたお客さん、おいくつだと思います? 91歳ですよ!もうね、お互い安否確認しているようなものなんです 笑」。
茶目っ気たっぷりのマスター。最後にこんな話しもしてくれました。
「長く続けていればなんとかなるんです」と。
“特別なこと”をつい引き出そうとしてしまいがちな取材も、この日ばかりは続けることの大切さや、経験から生まれる感性のなせる技を見せられた気がします。
プロポーズ成功のカギとなり、家庭でつくるありがちな其れとは格段に違う
「喫茶シ・ラン」の『最強ドライカレー』。
“洋食屋レベル”のその味を、みなさんもぜひご賞味ください。
【基本情報】
店名:「喫茶シ・ラン」
住所:泉南市樽井5丁目1-22
Tel:072-483-9768
営業時間:8:00~18:00
*営業時間は異なる場合があります。
定休日:日曜
駐車場:あり 店舗斜め前の「やぐら部屋前」に3台駐車可
*店舗横の駐車場には、駐車はご遠慮ください。
取材協力 「喫茶シ・ラン」マスター 芝野 義幸様
*記事内容は取材当時のものです。