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中国、香港デモ参加者大量逮捕の手に出るか

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
香港「逃亡犯条例」改正巡り170万人が大規模デモ(写真:ロイター/アフロ)

 18日、デモが平和裏に進行したのは北京の罠に嵌るまいと判断したからか。中国中央テレビ局CCTVは「法と正義の名において審判を下す」という旨の報道をした。これが何を意味するのか中国政府元高官に聞いた。

◆香港、平和裏に170万人がデモ参加

 8月18日、香港では主催者側発表で170万人がデモに参加した。デモは市街地を行進する許可は得られなかったものの、ヴィクトリア・パークでの集会は香港警察から認められた。しかし参加者が多くて他の地域に溢れ、結局はデモ行進となったのだが、雨の中行進する参加者は平和裏に抗議の意思を表明することを貫いている。

 これまでデモ参加者と警察との間で激しい衝突が繰り返されてきたことを思うと、その大きな変化に驚かされる。

 8月15日付のコラム「変装香港デモ隊が暴力を煽る――テロ指定をしたい北京」に書いたように、北京政府は何としても香港の抗議デモに対して「テロ行為だ」というレッテルを貼りたくてならなかった。そうすれば軍を出動させても国際社会の非難を浴びなくて済むだろうと計算していたからだ。

 そのために変装警察官まで出動させたことを香港警察は認めている(8月12日の香港警務処のトウ炳強・副処長による記者会見で)。

 但し、暴力行為を煽るためではなく、あくまでも「おとり捜査」のためだと弁明しているが、変装者を潜り込ませて暴力を煽った事実はデモ参加者たちの間では共通認識となっていたに違いない。

 筆者自身は15日のコラムの最後に「香港の若者たちが、どうかこの策謀にはまらないよう願うばかりだ」と祈るような気持ちで書いたのだが、18日のデモでは、まるでその祈りが届いたかのように平和裏にデモを進めてくれたことに安堵し、深い感慨を覚えた。

◆法と正義の審判を下す

 ところがその日、中国の中央テレビ局CCTVは「反暴力の主流世論には逆らえない」という番組を繰り返し報道した。

 その番組は概ね以下のように述べている。

 ――香港の一部の過激派が暴徒となって香港の社会秩序を破壊し尽くしたが、(デモに参加していない)香港の一般市民は過激派の暴挙を許さない。連日来、産業界や商業金融界、あるいは教育界や芸術界の関係者などが声を上げ始め、「反暴力の主流世論」を明確に打ち出し始めた。香港社会の善良な英知が、もはや黙っていることはなく、暴力に対して「ノー」と叫び始めたのである。反暴力は広大な香港同胞の願いであるだけでなく、14億の中国人の一致した願いだ。暴徒たちの末路はもう見えている。あなた方を待っているのは「法と正義の審判」のみであることを思い知らなければならない。

 この最後のフレーズには「秋の蝉の鳴き声、夕暮れに沈む陽」という、南宋の詩人・趙彦端の作品からの一節が引用されているが、これは「秋の蝉の命は短い」=「一日がまもなく終わる」=「(香港の)暴徒らの先はない、そろそろ終わるんだよ」ということを言おうとしている。

◆首謀者を逮捕して終わらせる

 この報道の中で最も気になったのは最後にある「法と正義の審判」という言葉だった。

 そこで中国政府の元高官に、これは具体的に何を指すのかを聞いてみた。

 すると「逮捕です!主たるデモ首謀者たちを全て逮捕するのです」という回答が即座に戻ってきた。

 「15日に国務院新聞弁公室が何を発表したか、ご存じでしょう?」と念を押された。

 もちろん知っている。知っているだけでなく、これは何かをやるためのシグナルだなと思いながら、その動向を注意深く観察していた。

 8月15日、国務院新聞弁公室は中国政府のために話をすることのできる法律家8名を集めてブリーフィングを行った。香港のデモを法律的にどのように位置づけるかに関する見解を述べさせたのである。タイトルは「如何にして香港の覆面暴徒に対応するか:フランスに学べ」だ。

 その中の一人がフランスの「黄色いベスト運動」を例にとって説明したのが印象的だった。

 「黄色いベスト運動」は2018年11月から始まり、今年6月まで約半年間にわたって続いたフランス政府への抗議運動である。この運動はもともと燃料価格高騰と燃料税引き上げが口火となっていたが、やがて広範な政府あるいは政治への不信運動と広がっていった。黒シャツ、黒マスク集団が暴力的事件を起こしたことから、 「反暴動防止法」が成立し、「(顔を隠しながら)公秩序を乱す行為」などを禁止し、違反する場合は最大1年の監禁と15000ユーロの罰金が課せられるようになった。「だから中国が同等のことを実行しても法的合法性がある」ことを、中国の法律家たちは強調している。つまり、北京政府が何らかの措置をしたところで、それは国際社会から非難されるべきものではないと言いたかったようだ。

 8月16日の「中国新聞網」は「香港問題の唯一の解決方法は法治の軌道に戻ることだと専門家が指摘」として、法に基づいて裁くことを主張し、又もや「香港の過激暴力行為はテロの兆しであり、それを摘み取るには法に基づくしかない」と強調している。

 しかし、香港のデモを解決する唯一の道は「テロ指定」を目指して「軍を介入させること」でもなければ「デモ首謀者を大量逮捕すること」でもない。唯一の解決方法は「逃亡犯条例」の改正案を撤廃して、林鄭月娥行政長官が辞任することではないのか――。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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