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かぜに薬が効かない理由 医師の視点

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
かぜの特効薬は、よく休養をとることです(写真:アフロ)

 1月に入り冬本番の寒さになってくるにつれ、かぜを引く人もちらほら出てきました。かぜを引くと病院や薬局で薬を手にする人が増えますが、そもそもかぜ薬ではかぜは治りません。かぜの治し方について、医師の立場から説明します。

かぜってどんな病気?

 かぜは、簡単に言えば「のどと鼻の病気」です。のどと鼻にウイルスという悪いものが住み着いて増え、のどを痛くしたり鼻水をたくさん出したりするものです。つまりかぜの原因はウイルスです。

 このウイルスというものはとても小さく、目で見ることはできません。大きさとしては、ウイルスを1000個くらい横に並べると髪の毛の太さになるくらいです。そしてかぜの原因となるウイルスは実にたくさんあります。

市販されているかぜ薬とは?

 薬局で売られているかぜ薬や、病院にかかったときに出されるかぜ薬は、多くがいたみ止めと熱さましです。他には鼻水が止まるものやたんが出やすくなるもの、せきを止める作用のものもあります。

 これらは、かぜによるつらい症状(のどの痛み、高い熱、鼻水、たん、せきなど)を少し軽くすることには役立ちます。しかしかぜを根本的に治す力はありません。飲んでいけない訳ではありませんし、医者の私も飲むことはあります。しかし、これを飲んでかぜの治りが早くなることはほぼないと思った方がいいでしょう。

 その薬を飲んだらかぜが翌日には治るような根本的に治す特効薬があるとしたら、それは先ほどのウイルスをやっつける薬です。しかし、かぜのウイルスをやっつける薬は開発されていません。

なぜ特効薬はないのか?

 なぜ特効薬はないのでしょうか。その理由はおそらくこういう理由です。

・特効薬がなくても数日で多くの人が治るから

・かぜの原因になるウイルスの種類が多すぎて、飲んだ人の原因のウイルスを特定してやっつけられないから

 なお、他の病気の原因となるウイルスをやっつける薬は開発され売られているものもあります。その代表例がタミフル(厳密にはウイルスの増殖をさせない)などのインフルエンザの薬です。

ではどうすればいい?

 残念ながらかぜの特効薬はありません。ではかぜにかかってしまったらどうすれば良いのでしょうか。

 一番大切なことは、

自宅でゆっくり療養をすること

です。身も蓋もありませんが、栄養と水分をよく摂り、仕事や学校は休んでしっかり休養を取ることをおすすめします。

 なお、「かぜの時にビタミンCを多くとるといい」という説がありますが、研究結果によるとちょっと早めに治るかもしれない程度です。詳しくはこの記事(「ビタミンCでカゼは防げる? ウワサの真相を調べてみた」市川衛 2017. 1)をご参照ください。

こんなときは病院へ

 しかし、「かぜだと思っていたらかぜではなかった」という可能性があります。中には重い病気(髄膜炎や心筋炎、急性喉頭蓋炎など)もありますから、こんな人やこんなときは病院を受診するようにしましょう。なお、これは20歳以上の大人についての話です。

<こんな人>

・65歳以上の高齢者

・もともと他に病気を持ち通院している人(特に糖尿病や免疫が弱くなる病気)

・家族や職場の同僚など近くにインフルエンザにかかった人がいる人

<こんなとき>

・調子が悪くなって3日経っても良くならないとき

・のどが異常に痛くてつばが飲み込めないとき

・39度以上の熱が続くとき

・息が苦しいとき

・黄色いたんが出るとき

・頭が割れるように痛いとき

・普段見ている家族が見て、いつもと明らかに違う様子だと思ったとき

(参考 かぜ症候群とその周辺疾患 ~かぜ症候群を極める~富井 啓介ら. 日内会誌 97 : 190~199,2008)

 なお、これ以外でもかぜではない病気のことはあります。悩んだら受診をするようにしましょう。

一番有効なのは予防

 いままでお話ししてきたように、なってしまったら特効薬もないかぜ。ですから、一番有効なのは「かぜにかからないようにすること」です。予防することです。

 かぜを予防するためには、

・手洗い

・十分な栄養と休養

をおすすめします。これらをやったからと言ってかぜが100%防げる訳ではありませんが、多少の効果はあるでしょう。

 また、かぜをひいた人が職場や家にいる場合、マスクをつけてもらいましょう。そうすることでウイルスが飛び散ることを少し防げます。寒い冬はまだまだ続きます。皆様、どうか体調にお気をつけてお過ごし下さい。

(参考)

日本呼吸器学会ホームページ

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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