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パンデミックが女性や少女に対する暴力や殺人フェミサイドを拡大している コロナと女性(4)

木村正人在英国際ジャーナリスト
2020年 女性に対する暴力撤廃の国際デー(写真:ロイター/アフロ)

都市封鎖で家庭内殺人が倍増した

[ロンドン発]この春、新型コロナウイルスの第1波でロックダウン(都市封鎖)が英全土で実施された最初の3週間で家庭内暴力による殺人が例年より倍増。ヘルプラインへの相談件数も49%増えたそうです。男性によって殺された女性は14人と例年の7人より倍増していました。

「新型コロナウイルスが、女性を支配したり、虐待したり、暴力を振るったりしたことのない男性を殺人者に変身させるわけではありません」。8年前からイギリスで女性の殺人被害者数をカウントしている市民活動フェミサイド調査のカレン・インガラ・スミスさんは指摘しています。

都市封鎖は普段から家庭内暴力の被害を受けている女性から逃げ場を失う一方で、男性が暴発するのを抑制する機会をなくしているとスミスさんは分析しています。パンデミックによる経済的な困難やストレスも家庭内の不和を拡大し、男性の暴発リスクを膨張させています。

英国家統計局(ONS)によると、今年3~6月に報告された犯罪の約5分の1が家庭内暴力。昨年同時期に比べて7%もアップしました。過去10年間で殺害された女性の62%が主に自宅でパートナーか元パートナーに殺されていました。

「新型コロナウイルスは“フェミサイド(女性や少女を標的にした男性による殺人)のパンデミック”とジェンダーに基づく暴力に影を落としている」。国連・女性に対する暴力に関する特別報告者ドゥブラフカ・シモノビッチ氏は11月23日、フェミサイドを監視して防止する国家イニシアチブの確立を求めました。

「新型コロナウイルスが猛威を振るう中、殺人と暴力の増加は世界中で女性と少女の命を奪っている」とシモノビッチ氏は警戒を呼びかけています。

「1時間に6人の女性が男性によって殺されている」

フェミサイド・ウォッチ・イニシアチブなどによると、パートナーが関与する殺人犠牲者のうち80%以上が女性。アントニオ・グテーレス国連事務総長も女性に対する暴力を防止する積極的な行動を求めています。

世界経済フォーラム(WEF)は「女性に対する暴力撤廃の国際デー」の今月25日「世界全体で1時間に6人の女性が男性によって殺されている」と警鐘を鳴らしました。その半数以上が自分の家族やパートナーの男性によって殺されています。

国連の最新統計によると、世界中で毎日137人の女性が自分の家族やパートナーによって殺されています。年間合計5万人の女性が信頼できるはずの人たちによって殺害されているそうです。女性と少女に対する暴力はそれぞれの国の文化に深く根差しているため、あまり表に出ることはありません。

今年のWEF男女格差指数によると、パートナーによる肉体的・性的な暴力に苦しめられている女性の割合は中東・北アフリカが最も高く45%。南アジア38%、北米32%、サブサハラ・アフリカ31%、南米・カリブ諸国27%、東アジア・太平洋23%、西欧22%、東欧・中央アジア19%となっています。

「女性の早死の主な原因は男性による暴力」と前出のスミスさんはWEFに語っています。

先のエントリーでも紹介したように、日本の新型コロナウイルス感染症対策本部に「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」が提出した資料でも家庭内暴力の相談件数は今年5~6月、前年同期比の約1.6倍に増えています。

出所)内閣府男女共同参画局
出所)内閣府男女共同参画局

性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの相談件数も今年4~9月の累計で前年同期比の15.5%増となり、予期せぬ妊娠の増加が懸念されています。

同

コロナ危機で女性や少女4億6900万人が「極度の貧困」に

コロナ危機で国連女性機関が無給の家庭内労働の家事や育児、介護について38カ国について調査しました。

コロナ前でもすでに女性は男性より約3倍多い時間を無給労働に費やしていました。コロナ危機で女性も男性も無給労働に費やす時間は増えたものの、女性の負担が一段と大きくなっていました。

今年末までに世界の女性や少女の13%、すなわち4億6900万人が「極度の貧困」に陥るとみられています。コロナ危機で無給労働が増えたと感じている女性と男性はいったい、どれぐらいの割合なのでしょう。

出所)国連女性機関の報告書をもとに筆者作成
出所)国連女性機関の報告書をもとに筆者作成

パンデミックが始まって以来、無給の家庭内労働に費やす時間が増えたという回答は女性が60%だったのに対し、男性は54%にとどまりました。

少なくとも3種類の無給の家庭内労働が増えたと回答した女性は28%、男性は16%でした。

コロナ危機の最中、育児に費やしている時間の国際比較は下のグラフの通りです。日本では週に女性が育児に費やす時間は29時間、男性は19.1時間となっています。

画像

育児に費やす時間は女性がコロナ危機前の週平均26時間から31時間に増えたのに対して、男性は20時間から24時間に増加。平均すると増加幅は女性が5.2時間、男性は3.5時間でした。

「ほとんどの国で女性が育児に週30時間以上を費やしている。フルタイムで1週間働く平均労働時間とほぼ同じだ」と報告書は指摘しています。

コロナ危機で女性の離職者が増えましたが、無給の家庭内労働が増えたことが一因とみられています。格差を広げるコロナ危機は家庭内暴力・殺人や無給の家庭内労働、女性の貧困などの問題を一段と大きくしています。日本でも政府が民間団体と連携して対策を立てることが急務になっています。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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