なんと、中国CCTVが安倍首相礼賛報道?
中国の中央テレビ局CCTVが安倍首相を礼賛した。この間まで反安倍であれば、どんなことでも報道していた中国のこの変わりよう。台湾問題と貿易問題でトランプと衝突している中国が安倍首相の声明を利用している。
◆CCTVが安倍首相を取材し礼賛報道
10月24日、中国の中央テレビ局CCTVは国際チャンネルのニュースで、CCTVが取材した際に安倍首相が回答した内容を、礼賛のトーンで伝えた。
それによれば安倍首相はおおむね以下のように述べたとのこと(中国語で伝えたものを日本語に訳しているので、必ずしも完全に一致しているわけではない表現があるかもしれない)。
1.今年は日中平和友好条約締結40周年記念だ。この条約はスタート地点であり、中国と共に祝い、中国の指導者と共に世界の多くの問題、たとえば政治、安全、文化、国民の交流などに関して話し合い、日中両国の関係をさらに発展させ、安定と繁栄の道を歩んでいきたい。
2.日中両国の間には難しい問題も横たわっており、両国が力を合わせてしっかりとコントロールしていく必要があるが、あくまでも安定と友好を重んじていきたい。
3.日中両国の間では300億ドルに上る貿易額があり、分けることのできない緊密な関係にある。中国の経済繁栄は世界にとって貴重なチャンスであり、日本は歓迎する。世界経済発展の中心であるアジアのニーズにとって、中国は大きな意義を持っている。
4.台湾問題に関して、日本は1972年に中国とともに発布した日中共同声明の立場を維持する。
5.貿易に関しては自由・公正のルールに基づく経済協力が重要である。
6.日中両国はWTOなど、多角的な枠組みの中で協力し、日中両国は世界の平和と安全に対して責任を持ち、世界の期待に応えていきたい。
バックに使われている画面も、安倍首相のポジティブな表情を大写しにして、「礼賛」のムードをそれとなく醸し出させて、「何ごとか?」と思わせる違和感を与えた。
これまでは安倍首相の報道となると、憲法改正反対デモなどの際に使われたヒトラーに似せたプラカードを大写しにしたり、沖縄での抗議運動などがクローズアップされることが多かったが、なんとも対照的である。
昨年7月8日のG20ハンブルク・サミットにおける日中両首脳の表情と比べていただきたい。安倍首相が普通の外交儀礼として、常識的に笑顔で握手しようとしたのに対して、習近平国家主席は顔をそむけている。この時点では、まだ「日本の首相に笑顔を見せてはならない!」状況だったのである。
上のリンク先が開かない方は首相官邸ホームページの静止画面のこの写真をご覧になっても、想像がつくものと思われる。
◆トランプ大統領に対抗するため
CCTVのこの報道は、明らかにトランプ政権の対中強硬策に対抗するためであることは、誰の目にも明らかだろう。
中国側は、中国にとって言ってほしいことを安倍首相から引き出している。
たとえば「4」の台湾問題に関しては、これは「一つの中国」原則を守るという意味だが、トランプ政権が「台湾旅行法」や「防衛権限法」などで、事実上「一つの中国」論に疑問を呈しているのに対して、なんとしても安倍首相のこの発言を中国は欲したものと考えられる。
また「5」にある「貿易に関する自由・公正のルール」だが、これはトランプ政権の対中貿易戦略を非難したものであることは容易に想像がつく。
最後の「6」にあるWTO関係だが、中国は最近、アメリカが中国を「非市場経済国」として排除しようとしていることに関して激しい批判を続けており、それに反して安倍首相が「中国排除」のための「毒丸(毒薬)条項」を持ち出したりしていないことを大歓迎し、日本を中国側に取り込もうとしている。そのことの表れであると見るべきだろう。
◆台湾からの悲鳴
習近平は何としても台湾を中国大陸に吸収してしまおうと、激しい外交戦略を展開してきた。
たとえば習近平は台湾が蔡英文政権になってから、それまで台湾と外交関係のあった22ヵ国の内、5ヵ国もの国に台湾と断交させ、中国大陸(中華人民共和国)と国交を結ばせている。蔡英文政権になってから台湾と断交した5ヵ国は「エルサルバドル、サントメ・プリンシペ、パナマ、ドミニカ、ブルキナファソ」だ。すべて習近平が強引にチャイナ・マネーで大陸側に引き寄せてしまった。
2008年5月から2016年5月までの国民党の馬英九政権下で台湾と断交した国がわずか1ヵ国(ガンビア)であることを考えると、わずか2年間において縁を切らせた国のなんと多いことか。
10月20日付のフォーカス台湾は<謝駐日代表、中国の「日本を引き寄せる」戦略に懸念/台湾>というタイトルで台湾の懸念を報道している。台湾は、「日本を引き寄せ、台湾を孤立させる」中国の戦略に悲鳴を上げているのだ。しかし上記「4」は、安倍首相に、その台湾の悲鳴を打ち消させる効果を持っている。
すべて計算され尽くした中国の戦略。
日本はその中国を「手玉に取り」、上に立つことなど可能なのだろうか。
CCTVのニュースを見ながら、「敵ながらアッパレ」と、ため息が出た。