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習近平長期政権に向けた改憲の狙いは?――中国政府高官を単独取材

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
終身制を目指す<紅い皇帝>習近平(写真:ロイター/アフロ)

 2月25日、中共中央委員会は憲法にある国家主席の任期に関する制限を撤廃する提案を全人代に提出することを決定した。習近平が長期政権を目指す狙いはどこにあるのかを中国政府高官に聞いた。

◆新華社が改憲内容を発表

 中国政府の通信社「新華社」および中国共産党の機関紙「人民日報」は、それぞれ2月25日の電子版で「中国共産党中央委員会の憲法の部分的改正に関する建議」(以下、建議)を発表した。

 昨年10月の第19回党大会で中国共産党の党規約冒頭に「習近平新時代の中国の特色ある社会主義国家」を明記することが決まったが、中華人民共和国憲法の冒頭にも、同様の習近平思想を盛り込む改正案は早くから検討されていた。

 しかしそういった機械的なことではなく、建議では最も肝心な憲法第七十九条にある「中華人民共和国国家主席、副主席は全国人民代表大会の毎期の任期と同じく、連続して二期を越えることは出来ない」という文言を削除すると決めたのである。

 筆者はこれまで何度も、もし習近平が第三期も続投しようとするならば、憲法第七十九条を改正しなければならないと書いてきた。たとえば2016年10月25日付けコラム<習近平の「三期続投」はあるのか? (「習・李 権力闘争説」を検証するPart3)>などで詳細に論じている。

 まさにこの七十九条の任期の制限をバッサリ削除すると建議することを中共中央は決定したのだ。

 建議する先は3月5日から開催される全人代(全国人民代表大会)。立法機関だ。そこで審議し投票により賛否を問う。もちろん可決することは最初から分かっている。

 となれば、いよいよ習近平の第三期続投どころか、彼が欲すれば永遠に国家主席の座に就いていることができるようになる。党規約にも中央軍事委員会規約にも「任期に関する制限」はない。

 したがって習近平は、「中国共産党中央委員会総書記、中央軍事委員会主席、国家主席」の最高職位に「望むなら生きている間、死ぬまで」就任していることができるということになるのだ。

◆習近平の目的は何か――中国政府高官を単独取材

 これでは毛沢東と同じ、個人崇拝による完全な独裁政権が始まるだけだ。トウ小平は改革開放に当たり、二度と再び文化大革命のようなことが起きてはならないとして憲法を改正し、「国家主席に任期を設けた」のである。中共中央政治局常務委員に「70歳」という年齢制限を設けたのも、そのためだ。党大会が開催されるその年にピッタリ70歳という人はなかなかいないので、「七上八下」(67歳なら現役可、68歳なら引退)という不文律を設けて守らせてきた。

 第19回党大会でこの不文律を守りはしたものの、任期自身を撤廃してしまうのでは、不文律など無きに等しい。これも2022年の党大会では破ることになるだろう。

 そこまでする習近平の目的は何なのか――。

 確認しなくとも分かってはいるが、それでもこれは巨大な変化であり、中国の分岐点だ。日本にも影響してくる。

 できるだけ中国の真意に迫りたい。そこで、中国政府高官に真意を聞いた。

 以下、Qは筆者、Aは中国政府高官である。「個人的見解」として回答してくれた。質問したのは2月25日、深夜。( )内は筆者の注。

Q:中共中央は遂に憲法七十九条にある任期制限の文言を削除することを全人代に建議すると決めたようだが、これでは独裁政権になってしまうではないか?

A:一人が永遠に最高指導者の地位にあったら、すなわち「独裁」ということになるとでも言うのか?

Q:当然だ。習近平が、死ぬまで権力の座に就いていられるようにする目的は何か?彼は権勢欲が強いのか?

A:政権の最高指導者に権威がなかったら、その政権は終わる。そもそも中国共産党は永遠に執政権を求め続けるだろう。

Q:中国共産党は一党支配体制を永遠に続けたいと思っているということか?

A:そうだ。国家主席であるか否かは、あまり重要ではない。毛沢東は十年ほどしか国家主席ではなかった。しかし中共中央主席(現在の中共中央総書記)として絶対的な力を発揮して、終身、執政権を握ってきた。

Q:劉少奇が国家主席になったため、毛沢東は国家主席の職位は要らないとして撤廃していたから、例外ではないか?

A:例外とも言えるが、もともと中共政権においては中共中央総書記が実権を握っていた。国家主席の座など、実は飾りに等しい。あとは中央軍事委員会の主席であれば、国家主席の座など無くても国家は回っていくのだ。トウ小平を見てほしい。彼は国家主席にも中共中央総書記にさえなったことがない。ただ軍事委員会を掌握していただけだ。それでも絶大な力を持ち、改革開放を進めていった。国家主席なんて、飾りの職位だよ。

Q:それでも今般憲法を改正して、国家主席の任期制限を撤廃するのだから、それなりの目的があるはずだ。

A:形の上で整えただけで、中共中央総書記と中央軍事委員会書記になっていさえすれば、全権は握れる。

Q:それでも政府を掌握することは必要なはずだ。そうでなかったら、中国人民だって、「合法的な手続きなしに、一つの党によって政府が独占された」と思うのではないか?

A:それは全くその通りだ。だから正常な手続きとして憲法を改正するのは、むしろ法治を重んじていることになる。

Q:聞こえはいいが、任期を設けたのは毛沢東の独裁により、文化大革命などの悲劇が起き、中国が壊滅的な打撃を受けたからで、現在の常委(チャイナ・セブン)にも習近平に抑えを掛ける人物はいない。となれば、毛沢東の愚は繰り返さないとしても、やはり独裁になるのは確かだ。中国にとって、いかなるメリットもないではないか。

A:いや、メリットはある。残念ながら中共政権における腐敗は底なしだ。これを喰い止めるには絶大な権力が必要で、一般党員や党幹部が「恐れを抱く存在」が必要だ。

Q:では、腐敗を撲滅して、一党支配体制を何としても維持しなければならないために憲法を改正するということになるのか?

A:そうだ、その通りだ。

Q:しかし、中国共産党の一党支配体制を終わらせれば、特権階級が無くなるので腐敗も無くなるのではないのか?

A:それは否定しない。しかし人民は中国が「富強」になることを望んでいる。もし習近平に中国を「富強」の道へと導く力があれば、人民は習近平を支持するだろう。しかしもし、個人や特定の利益集団のために人民や国家の利益に損害を与えるようなことがあれば、必ず人民は立ち上がって革命を起こし、そのような政府と執政党を転覆させ、国家が崩壊する道へと突き進むことになる。

Q:今の人民にそこまでの気概があるだろうか?そもそも転覆運動のわずかな兆しでも見つけると、すぐに逮捕してその芽を摘んでしまっているではないか。

A:いや、人民は、そこまでバカではない。私自身、党員でもあるが、人民の一人でもある。本気で転覆させようと思えば実行できる。要は、ひとことで言うなら、腐敗を撲滅させるために最高指導者は絶大な権力を握っている必要があり、中共による一党支配体制を維持するためには、腐敗を撲滅する必要がある。そうでないと中国は「社会主義国家」という名称を返上しなければならないことになる。

Q:では、中国が民主化して西側諸国の価値観を導入しないようにするための布石だということなのか?

A:そうだ。その通りだ。

Q:中国の現状は、とても「社会主義国家」とは思えないが、それを本気で「社会主義国家」にしていこうというのが、「習近平新時代の中国の特色ある社会主義国家」の理念の一つと考えているのか?

A:まさに、その通りだ。

 以上だ。良い結果を招くとはとても思えないが、一応、中国政府側の「個人的見解」をご紹介した。長文になったので、説明は省く。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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