「性別は非公表です」杉並区の新人議員が「慣例」にしたがわない理由とは?
昨年4月の統一地方選挙で「女性議員が半数以上になった」と話題を呼んだ東京都の杉並区議会。だが、48人の区議の中に1人だけ、「性別非公表」の議員がいる。ジェンダー平等をテーマに活動する山名奏子(かなこ)議員だ。
米国の大学院でアメリカ史と女性史を学び、女性支援のNPO法人を立ち上げた後、れいわ新選組の公認で杉並区議選(定数48)に立候補。69人の候補者のうち、上から3番目の票数を獲得して初当選した。
杉並区は、区議の過半数が女性であるだけでなく、区長も議長も女性で、区政に関わる者の「性別」が注目を集めている。そんな中、なぜ「性別非公表」なのか。山名議員にその真意を聞いた。
「報道のあり方が変わったらいいな」
ーーなぜ「性別は非公表」としているのでしょうか。
山名:選挙に立候補するとき、マスコミ向けに作成する資料に、性別や年齢を書く欄があるんですね。就職活動のときの履歴書にも同じような欄がありましたが、私は以前から、そういうものを書く必要があるのかと疑問に思っていました。
現在は、企業が「男性しか採用しない」とか「女性しか採用しない」というのは基本的に違法です。そのため、意識的にそんな採用をする企業はだいぶ減っていると思いますが、履歴書に性別が書かれていれば、無意識のうちにバイアスがかかってしまう。そこで、人を判断するときに性別が機能しない仕組みを作ったほうがいいのではないかと考えていました。
選挙に出るのは「公の立場」になるということなので、いままでおかしいと感じていたことを問題提起してみようと思ったんです。これは本当に小さな運動ですが、私が「性別非公表」を実践することによって、公の立場でそういうことをしている人がいると世間に広がったり、「性別の表示が本当に必要なのか」と人々が考えるきっかけになったらいいな、と。
ーー有権者の中には「候補者の性別」を知りたい人もいるのでは?
山名:実際には、性別を知りたい人もいます。個人的に性別を知りたい人にまで絶対教えたくない、というわけではないんですよ。私が「性別非公表」としている意図を理解したうえで、それでも知りたいという人には、個別に教えるようにしています。
私が自分のスタンスとして考えているのは、「性別を表示するのが当たり前だ」というマスコミの報道のあり方が変わったらいいなということです。その側面が一番大きいですね。
ーーメディアに対するメッセージという意味があるんですね。
山名:その人の「属性」によって何かを判断するのが当たり前だという社会に対して、本当にそうなのかなと疑問を投げかけたいんです。
杉並区議会は「パリテ議会」になったのか?
ーー昨年4月の杉並区議選では、女性議員が過半数になったことについて「パリテ(同等)議会が実現した」と話題になりました。候補者が女性かどうかは、有権者にとって必要な情報ではないかと思うのですが、どうでしょうか。
山名:投票者の側が「男性か女性か」という視点だけで判断して、「女性に入れたい」または「男性に入れたい」ということであれば、男女ともにたくさんの候補がいるので、そちらを選んでいただければいいと思います。 本当に性別だけが判断の材料になるのであれば、ですが。
ーーそこは割り切って考えている、と。
山名:「杉並区議会はパリテを達成した」と言われていますが、本来のパリテ(フランス語で「同等・同量」という意味)というのは、男女だけの話ではないんです。障がい者の比率もそうだし、人種の比率もそうです。そういったところまで「パリテ」が達成されているのかといえば、まだ達成されていないと思うんですよね。
ーー真の意味での「パリテ議会」はまだ実現していない、と。ただ、そうだとしても、杉並区議会は女性が男性よりもやや多い状況で、全国的に珍しい「男女比パリテ」の議会になりました。これについては、良かったと思いますか。
山名:そうですね。政治の世界で女性の数が圧倒的に少ないというのが、日本のジェンダーギャップの最も大きな課題の1つなので、そこは改善しなければいけない点です。杉並区の場合、人口は女性のほうが少し多いので、今回の選挙でようやく、区民の戸籍上の男女比と議員の男女比がほぼ同じになったと言えるでしょうね。
ーー他の地方議会の男女比も「パリテ」になっていくべきでしょうか。
山名:議会は「代表制民主主義」の場だと言われます。議会に社会の代表者が送り込まれ、それぞれの住民の声を代弁するのであれば、人口比が当然、反映されるべきでしょう。
何のバイアスも何の格差もない社会ならば人口比が議会に反映されるはずなのに、反映されていない。そういう状況にあることが問題です。
それは男女もそうだし、性的マイノリティもそうです。いろいろな属性の部分がちゃんと議会に反映されていないのは、代表制民主主義として不均衡な状態だと思います。
選挙制度は「男性ベース」で作られている
ーー内閣府の男女共同参画局の資料によると、2021年12月の時点で、杉並区のような特別区議会の女性比率は約31%、市議会の女性比率は約17%、町村議会は約12%となっています。増加傾向にあるものの、まだまだ低い数値と言えます。しかし、女性議員の比率を増やすためには、その前提として、より多くの女性が選挙に立候補する必要がありますよね。
山名:その通りなんですが、女性に向かって「立候補したほうがいい」とはっきり言えない事情があります。それは、選挙制度や政治家の働き方が、圧倒的に男性ベースで作られているからです。
家事や育児や介護の負担の多くがいまも女性にのしかかっている状況の中で、それをこなしながら選挙に勝って、議員として活動するというのは、相当にハードなことだと言えます。
ーーそうだとすると、山名さんが区議として活動する中で、女性の政治家がもっと働きやすいように変えていく、というのも目標の一つなんでしょうか。
山名:そうですね。「政治家だからこういうスタイルが当たり前」とか、「選挙だからこういうスタイルが当たり前」というのをそのまま飲み込むのではなく、「本当にそうなのかな」と考えながら、新しいモデルを模索していきたいですね。
ーーちなみに、山名さんは性別だけでなく、年齢も非公表ですよね? こちらは新聞報道でバッチリ、年齢が出てしまっていますが・・・
山名:年齢を非公表としている理由は、性別と全く同じです。政治家は若ければいいというわけではないですし、年をとっているからいいというわけでもない。その人の考え方や価値観で判断してくださいという意図ですね。