不動産を売却する際に考えたいこと~旧統一教会が多摩で取得した土地を見て不動産鑑定士・税理士が考えた
過日、旧統一教会が東京都多摩市で用地〔以下、「件の土地」と表現〕を取得したものの、多摩市が懸念を表している点が記事となっていました。
このような話は、まずは現地を見ないと始まりません。
ということで、行ってみることにしました。
■登記はどうなっている
まず、定石として、該当物件の登記をあげます。
法務局の公図や建物図面から推察するに、土地については6,324.59平米ありますが3筆に分かれており、いずれの筆も令和4年4月28日付で「世界平和統一家庭連合」に移転登記がなされています。つまり、旧統一教会は古い建物がある状態で、この物件を買ったことになります。
建物は2筆あり、一方は事務所、もう一方は倉庫車庫とあり、同様に移転登記がなされています。
従前の所有者はお菓子屋さんのようでした。
■前面道路の固定資産税路線価はどうなっている?
件の物件の前面道路の直近の固定資産税路線価は107,000円/平米です。本来は不整形等の個別補正がかかるので誤差がありますが、概算で固定資産税評価額を計算すると、107,000円/平米×6,324.59平米→約6.76億円。
住宅ではない宅地の固定資産税課税標準額は概ね固定資産税評価額の6~7がけ程度ですので、約4.0~4.7億円程度となります。
多摩市の固定資産税・都市計画税の税率は1.4%、0.2%のため両方合計で1.6%です。仮に固定資産税課税標準額を4.5億円と想定すると、4.5億円×1.6%→7,200,000円/年程度が令和5年の固定資産税・都市計画税の額が生じていると思われます。
多摩市の固定資産税担当に確認した限りでは、宗教法人の非課税はその年の1月1 日時点で「宗教の用に供している」ことが要件ですので、現状では課税はされていると思われます。
ただ、仮に宗教法人の施設ができたら、非課税になる結果、概ね前述程度の税収が失われるという話になりそうです。
■現地に行ってみた
令和5年11月4日、京王線沿線在住の筆者は、夕方に新横浜で約束があったのですが、京王線~横浜線ルートで行くと件の土地の最寄り駅の京王永山に立ち寄れますので、立ち寄ることにしました。
京王永山駅からバスで傾斜地がやや目立つ住宅地の中を20分ほど揺られて着いたバス停から10分程度歩くと、件の土地が見えてきました。
いわゆる多摩ニュータウンの住宅地は「南多摩尾根幹線道路」という太い道路までで終わっており、その先は森林状の傾斜地です。このため、件の土地付近は車道の自動車は別として、歩行者等の往来はほとんどはありません。ただ、件の土地の隣に国士舘大学のキャンパスがあります。
件の土地を幹線道路の歩道から至近距離で観察すると、この日は土曜のため作業はお休みでしたが、前述の登記された、前所有者のお菓子屋さんが使っていた建物は解体作業中のようでした。
それより感じたのは、報道もなされていましたが国士舘大学が危惧を抱いているとの点です。
現地に来てよくわかりましたが、大学の主たる入口は件の土地とはやや離れていますけれど、歩行者等の往来が乏しい点もあいまって、個人的には不気味に感じました。そして、これでは宗教を望まない学生を取り込まれかねないと危機感を覚えるのは無理からぬことと思いました。
■都市計画~制度そのものを考える時期ではないか
件の土地は都市計画上の用途地域が「第二種住居地域」とされています。用途地域とは、「その範囲で建築してよい建物の用途」を規制するものですが、「第二種住居地域」では神社・寺院・教会等は建築可能です。
ただ、いわば「多くの国民に危機感を感じさせる宗教法人」が出現したのも事実。住宅系の用途地域について、神社・寺院・教会等の建築規制を考えてもよい時期が来たのでは…と感じました。
■別の角度から~一定以上の価値の土地に非課税なのは勿体ない
個人的に思った点として、別の見方をしたいと思います。
旧統一教会の本部がある渋谷区松濤もそうですが、地価の高い地域や一定規模以上の土地について、宗教法人等の非課税の適用対象の所有者が出現すると、その税収分だけ自治体は損することとなります。
本件でも、多摩市が7,200,000円/年程度、損するという話です。
個人的には、「うーん、どうなんだろう」という感があります。
例えば松濤の場合は、地価が都内でも有数の立地であるため、不動産需要は十分にあり、通常の所有者は一定の税額を負担し、但しそれに見合う効用を得ます。
しかし、「何も高額な土地にある必要がない非課税の恩恵を受ける法人」が高額な土地に所有権を得て非課税の恩恵を受けるのは、国土の有効活用から何か違う気がしました。
宗教法人に限らず、既存の土地は別としてこれから非課税の恩恵を受ける法人が土地を取得する場合、固定資産税評価額が一定水準以下の場合に限定する方が合理的では…とも思います。
そして、人気のある高価な土地は納税する代わりに高い効用を得る所有者に委ねるべきであろうと。
■売却に際しての注意点
本件で筆者がもっとも強く感じたのは、「不動産売却時の作法」についてです。
お菓子屋さんは悪気はなかったのだと思いますが、件の土地の売却先が旧統一教会であったため、印象としては「素晴らしくはない」との感はぬぐえないと思います。
勿論、「この不動産を売ってしまえば、もうオレには関係ない」というのも一つの考え方でしょう。ただ、長年、その土地を平穏に利用し続けられたのは、少なからず、ご近所の方が「悪いヤツではなかった」面はあるのです。
また、仮に買主の実態を知らなかったとしても、例えば反社会勢力関連団体に売却しようものなら、コンプライアンス面で後日、社会的な批判にさらされる危険もなくはないのです。
逆に、社会的貢献が高い個人や法人に売却したとしたら、後日、売却した方も社会的に貢献したとして、何らかの形でプラスがある可能性もなくはないです。
何より、その後の気持ちの問題もあるでしょう。
ですので、筆者は提唱します。
「不動産を売却する際は、売却先が適切な先かを判断の上で、売却すべき」と。
現場からは以上です。