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米国中学「民族憎悪や差別を消し去る」願いを込めたホロコーストの「消しゴムプロジェクト」目標600万個

佐藤仁学術研究員・著述家
スプルース中学校の「消しゴムプロジェクト」(ボストン・ヘラルド提供)

「憎しみを消し去って、寛容を書きたい」現在15万個超

アメリカのメイン州のスプルース中学校では、2年前から消しゴムを集めている。アメリカでは州によってホロコースト教育が導入されており、この消しゴムはホロコースト教育の授業をきっかけに生徒たちが集めたり、米国内から寄付されたもので、現在156,000もあり「消しゴムプロジェクト」と呼ばれている。このプロジェクトは生徒たちのイニシアティブによって開始され、消しゴムは「民族憎悪や人種差別を消し去る」という願いを込めて集めている。生徒の1人は「憎しみを消し去って、寛容を書きたい」語っている。

ナチスドイツによる600万人以上のユダヤ人やロマらを殺害した、いわゆるホロコースト。高校での消しゴム収集の目標は600万個とのこと。ホロコースト教育の授業を担当する教員は「ホロコーストを子供たちが学習することがとても重要です。なぜならホロコーストを経験した生存者たちの高齢化が進み亡くなってしまうだけでなく、ホロコーストは他の人が信じていることに対して寛容がない時に起きてしまうような巨大な悪事だからです。今回のプロジェクトは生徒たちが自主的に始めました。ホロコーストの経験や記憶が次世代につながることを期待しています」と語っている。

ホロコースト教育と記憶のデジタル化

日本ではあまり馴染みがないが、欧米や中東では今でも反ユダヤ主義が根強い。そして2021年5月にイスラエルとハマスの武力衝突が勃発すると、ますますユダヤ人への風当たりが強くなってきており、ホロコースト教育の重要性が訴えられてる。また高齢のホロコースト生存者らが積極的に当時の体験や記憶を語ることによって、民族憎悪や人種差別を煽らないように努めている。欧米やイスラエルではホロコースト教育が進められており、そこではホロコーストの歴史だけでなく、現在の人種差別やヘイトスピーチを起こさせないようにする内容になっている。欧米の大学やイスラエルの国立ホロコースト博物館のヤド・バシェムでは「ホロコースト教育」や「反ユダヤ学(Antisemitism Study)」などホロコースト教育に向けた講義も提供している。

戦後70年以上が経過しホロコースト生存者らの高齢化も進み、多くの人が他界してしまった。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。またホロコーストの犠牲者の遺品やメモ、生存者らが所有していたホロコースト時代の物の多くは、家族らがホロコースト博物館などに寄付している。

また新型コロナウィルス感染拡大によるロックダウンで多くの博物館が閉鎖されてしまってからは展示物のデジタル化が加速されており、バーチャルツアーで世界中の人が閲覧できるようになっている。欧米では主要都市のほとんどにホロコースト博物館があり、ホロコーストに関する様々な物品が展示されている。そして、それらの多くはデジタル化されて世界中からオンラインで閲覧が可能であり、研究者やホロコースト教育に活用されている。いわゆる記憶のデジタル化の一環であり、後世にホロコーストの歴史を伝えることに貢献している。

このようにデジタル化されたコンテンツの充実化によってホロコースト教育の環境は整備されてきている。そしてメイン州の中学校のようにホロコースト教育の授業を受けて、このような「消しゴムプロジェクト」のアクションにつなげている。現代の民族憎悪や人種差別を消し去ることは決して簡単ではないが、着実に次世代にホロコーストの歴史を継承していることがうかがえる。

▼メイン州の中学校での「消しゴムプロジェクト」を報じる現地メディアのニュース

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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