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エリザベス英女王(96)の体調急変、王族が静養先のバルモラル城に集まる

木村正人在英国際ジャーナリスト
バルモラル城で新旧、両首相に引見したエリザベス女王(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

[ロンドン発]2日前に静養先の英スコットランド・バルモラル城で交代する首相ボリス・ジョンソン、リズ・トラス両氏に引見したばかりのエリザベス女王(96)が体調を崩し、医師に見守られていると、バッキンガム宮殿(英王室)が8日、異例の声明を出した。

チャールズ皇太子、カミラ夫人、ウィリアム王子、王室を離脱したヘンリー公爵、メーガン夫人もバルモラル城に向かった。

声明によると「今朝、医師が女王の健康を心配し、女王を監視下に置いた」という。英BBC放送の王室担当記者は「王室が女王の健康についてコメントすることを控えている時に声明が発表されたことや王族がバルモラル城に集まっているという事実は、女王の状態がこれまでにないほど深刻なことを物語っている」と解説した。

エリザベス女王は今年2月、在位70年(プラチナ・ジュビリー)を迎えた。エリザベス女王の祖父、ジョージ5世(在位1910~36年)の伝記を著した英バッキンガム大学のジェーン・リドリー教授は「英国でプラチナ・ジュビリーを迎えた君主はいない」という。女王は1952年、父の国王ジョージ6世の崩御に伴い、25歳という若さで即位した。

2015年、ビクトリア女王(在位1837~1901年)を抜き、英史上最長在位の君主に。第二次大戦に勝利したものの、ヒトラーとの戦いに疲弊した大英帝国は崩壊。エリザベス女王は英国民とともに苦難を乗り越えてきた。しかしチャールズ皇太子とダイアナ元皇太子妃のダブル不倫、離婚、元妃の交通事故死で英王室人気はどん底に落ちる。

国民の気持ちは王室から離れてしまうが、エリザベス女王は若きトニー・ブレア首相(当時)のアドバイスに耳を傾け、「閉ざされた王室」を開くことで危機を乗り切る。21世紀、順風満帆に見えた王室に不穏な空気が漂い始めたのはヘンリー公爵と離婚歴のある元米人気女優メーガン夫人の結婚だった。

王室に馴染めないメーガン夫人はヘンリー公爵を連れて20年1月、王室を離脱。昨年3月、米人気司会者オプラ・ウィンフリー氏の独占インタビューに対し2人は、生まれてくる長男アーチーちゃんの「肌の色」に向けられた王族の偏見を告発。女王が溺愛する次男アンドルー王子の未成年者性交疑惑が明るみに出て、王室は再び傷だらけになった。

21年4月、73年半、連れ添ったフィリップ殿下を亡くしてから、女王の衰えが目立つようになった。今月6日、本来ならバッキンガム宮殿でジョンソン、トラス両氏を迎えなければならなかったが、7月から静養するバルモラル城で引見。その際は、学生時代に王室廃止を議論したこともあるトラス氏にも笑顔を浮かべて対応した。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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