多部位でまだ半数に届かず…がん検診の動向をさぐる(2020年公開版)
多種類の傷病の治癒方法の発見や治療法の改善が進むに連れ、相対的に研究進捗の歩みが遅い「がん」の発症率、そしてそれを起因とする死亡率は増加の一途をたどっている。厚生労働省の人口動態統計の最新版によれば、確定数では悪性新生物(がん)を死因とする人が最上位の比率にある。
「がん」に対する最良の手立ては、健康的な身体作りと定期的な検診による早期発見・早期対応にある。がん検診に関しては、早期発見によるリスク軽減効果に関する啓蒙が進んでいることもあり、検診率(受診率)は少しずつではあるが上昇傾向にある。その実情を厚生労働省の「国民生活基礎調査の概況」(※)から確認する。
まずは2019年における受診率。なお検診の指針において胃がん検診は過去2年間の受診率も勘案することとなったため(ただし対象年齢は50~69歳)、2019年調査分以降はその値も示している。また女性特有の2検診が「過去2年間の回答」なのは、両検診が2年おきに行うことを基本としているから。
男性は肺がん検診がもっとも受診率が高く5割超え、女性は乳がん検診がもっとも高く47.4%。女性は子宮がん検診も4割超え。
各部位別の検診率の違いを見ると、男性は肺がん・胃がんが高めで大腸がんは低め、女性は子宮がん・乳がん・肺がんは高めで胃がん・大腸がんは低めと出ている。一方、直近2019年分の人口動態統計月報年計(概数)から「部位別にみた悪性新生物」で死亡率を確認すると、悪性新生物(がん)の場合男性は「肺」「胃」「大腸」、女性は「大腸」「肺」「膵臓(すいぞう)」の順に死因部位率が高い。男女とも高めの死因率の肺がんには強い関心を抱いて検診を行い、また女性は女性特有の子宮がん・乳がんが気になり検診率が高い動きが確認できる。もっとも女性では一番死因部位率の高い大腸がんに関して受診率が低めなのが気になるところ(逆に受診率が低いからこそ、発見が遅れて死因率が高いのかもしれない)。
最後に、直近5回分の「国民生活基礎調査」大調査における各部位のがん検診受診率の推移が次のグラフ。1997年の女性特有のがん検診は「過去1年間」でのみ問い合わせているので、値が少々低いものとなってしまっている。また「胃がん(過去2年間)」は「50~69歳」に対象年齢を限定している。
2010年から2013年にかけて大きく検診率の向上が見られるが、これは各自治体における受診勧奨事業などの効果が表れていると思われる。ただしそれでも複数の部位で検診率は5割、つまり半数に届かず、半分以上ががん検診を直近で受けていない状態にあることに変わりはない。
「がん検診」は確実にがんを見つけられるものではない。とはいえ、がんによるリスクを減らせるもっとも賢明な手立てであることにも違いない。がんは目に見えるものではなく、特定の病状を持つものでもない。仮にがんによる病状を覚えても、他の病気と思い違いしてしまうことも多い。是非とも積極的に、がん検診を受診することをお勧めしたい。
勘違いをしている人もいるが、「がん検診を受けるとがんが発症する」わけではない。あくまでも「がん検診を受けると発症しているがんを確認することができるかもしれない」に過ぎないのだから。
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※国民生活基礎調査
全国の世帯および世帯主を対象とし、各調査票の内容に適した対象を層化無作為抽出方式で選び、2019年6月6日に世帯票・健康票・介護票、同年7月11日に所得票・貯蓄票を配ることで行われたもので、本人記述により後日調査員によって回収され、集計されている(一部は密封回収)。回収の上集計が可能なデータは世帯票・健康票が21万7179世帯分、所得票・貯蓄票が2万2288世帯分、介護票が6295人分。今調査は3年おきに大規模調査、それ以外は簡易調査が行われている。今回年(2019年分)は大規模調査に該当する年であり、世帯票・所得票以外に健康票・介護票・貯蓄票の調査も実施されている。
また1995年分は阪神・淡路大震災の影響で兵庫県の分、2011年分は東日本大震災の影響で岩手県・宮城県・福島県(被災三県)の分、2012年は福島県の分、2016年は熊本地震の影響で熊本県の分はデータが取得されておらず、当然各種結果にも反映されていない。
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