Yahoo!ニュース

「世界で最も若者の声を聞かない国」も来年からは新成人だけでなく18歳から選挙権の新時代に

高橋亮平日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事

昨年から中央大学で特任准教授となり、大学でアクティブラーニングのプログラムとして、民間企業からのミッションを解決するビジネスプロジェクトという授業などを体験している。

この国の経済をはじめとした成長戦略を考えれば、次の時代を担う若者をどれだけ主戦力として活用していけるかは、非常に重要な課題である様に思う。

大学では、授業と共に、学生たちがベンチャーやスタートアップなど起業するプラットフォームとなる仕組みを創り、今月から学生の起業を始めていく。こうした経済に向けた若者たちを活躍させる仕組みももちろんだが、同時に、若者たちを社会の当事者として、より幅広い分野でも活躍してもらわなければならないのではないだろうか。

成人の日、全国各地で成人式が行われた様子が、メディアなどでも取り上げられているが、当事者である若者自身も、これからの時代を担っていくのは自分たちなのだという自覚を持って貰いたいとも思う一方で、自分自身も大学生、高校生、中学生、小学生と5人の親という立場からも、もっと彼らが活躍する事のできる場、彼らの声を反映する仕組みを作っていかなければないと感じる。

成人の日を迎えた中、この国で若者がもっと活躍していける社会を創っていくためにはどうすればいいのかと考えていきたい。

事だった。

成人の日を迎えると、これまで同時に言われてきたのが、「20歳になると選挙権を得る」という日本では、成人とともに20歳で選挙権を得るというのは、非常に当たり前の事として捉えられる事が多いが、実は世界で20歳になるまで選挙権が与えられないという国はほとんどない。

世界189ヵ国中87.8%の国ではすでに選挙権が18歳から与えられており、G8では日本以外のすべての国で、OECD34ヵ国でも日本と韓国以外のすべての国で18歳に選挙権が保障されている。韓国すら2005年に公職選挙法を改正し選挙権を19歳に引き下げた。若者の声を聞くという意味では、この国は、明らかに発展途上国と言えるのだ。

こんな「世界で最も若者の声を聞かない国」とも言える様なこの国も、来年からは新成人だけでなく18歳から選挙権を得る事になる。

昨年、解散直線の11月19日にこの「18歳選挙権法案」が提出された。解散のため廃案になったが、今月から行われる通常国会で再提出されると共に、できるだけ速やかに成立まで導き、2016年夏に行われる参議院議員選挙からは、18歳から選挙に参加する事になる。

「18歳選挙権」の実現は、単にこれまで選挙権のなかった18歳、19歳の約240万人が有権者になるというだけでなく、この国の民主主義の仕組みが進歩していくための、大きなキッカケになると期待する。

欧州各国では、選挙権はさらに18歳から16歳への引き下げへの動きが広がっている。オーストリアでは、国政・地方選挙で選挙権年齢を16歳に引き下げているほか、ドイツ・スイス・ノルウェーでは、特定の州・市町村選挙で選挙権年齢を16歳に引き下げられている。また、英国・スウェーデン・デンマークでは、選挙権年齢の16歳への引き下げを議論といった動きが起こっている。スコットランドの独立に関する住民投票においても、16歳から投票が行われた。

こうした選挙権年齢の引き下げは、投票率にも影響する。

16・17歳に投票権が保障されるドイツ・オーストリア・ノルウェーでは、16・17歳の投票率が、18・19歳の投票率を、また、10代の投票率が20代前半のそれを上回る。

こうした背景には、親との同居率や学校教育等があるとの研究結果もあり、日本においても、大学生になると親元を離れる学生も多い事を考えると、親元にいる間に、また高校における主権者(憲法)教育との関係性を持った形で選挙権を保障する事には、大きな可能性があると考えられる。

一方で、選挙権年齢を引き下げれば全てが解決するというほど単純なものではない。

「18歳選挙権」へとようやく若者の声を聞くという側面でも、世界標準に向けて一歩前に進んだのだが、今後さらにこの国の仕組みを若者を活用する国へと、世界の標準、さらには先端へと進みていくためのヒントを幾つか紹介しておきたいと思う。

一つ目に、政治教育がある。

政治教育の仕組みが最も整っている国の一つであるドイツには、国レベルの連邦政治教育センターが設置されているほか、各州にも州政治教育センターが存在する。

日本においても「18歳選挙権」の導入と共に、これまで以上に、政治へのリテラシーや判断能力、論理的思考など、有権者として政治に関わるための教育が重要になってくる。

その多くは、高校などの教育現場がその主体となる事になるが、一方で、これまでこうした政治に関わる教育は、現場で避けてきた部分もあり、公的、それが難しくても客観的な立場からこうした政治教育のプログラムや、政治教育現場で活用できる教材などを提供する仕組みが重要になってくる。

また、政治教育といっても、知識としてのものだけではなく、10代の若者たちが、自らが社会の当事者である事を自覚し、主体的に社会に関わる仕組みを創っていく事も重要になる。

その際に必要なのが、自らが関わる問題については、自ら考え、変革していくという体験であり、GHQがこの国に民主主義を根ざすために作ったとされる生徒会などは、政治教育のプログラムとしても大きな可能性がある。

二つ目に、選挙に関わらず、直接参画など多様な形で若者が参画する仕組みについてだ。

若者参画が最も進むスウェーデンには、若者世代の利益団体組織として、LSU(若者協議会)と言われるものが存在する。

UMCAなどの組織や環境 NPO、生徒会の全国組織など若者に関わる団体が属する傘組織であり、スウェーデンでは、若者に関わる政策を実施する際には、その前に、この組織を通じて、若者側と調整しなければいけない事になっている。

数年前、スウェーデンを視察した際に、このLSUの代表者は23歳の女性だったが、彼女がこの若者団体の代表として政府と議論する際には、政府側は大臣が対応し、事務的な詰めの作業を行う際には会の事務局長に対して、政府側は日本でいう事務次官が対応すると話していた。

彼らは20代前半、メンバーによっては10代で、こうした現場で政治に発言すると共に、国連やEUなどの国際会議においても、各国の首脳などを前に若者を取り巻く現状やその解決策について演説するとの事だった。

今年、視察したドイツにおいては、こうした参画の仕組みやトレーニングは、子どもの頃から実践されていた。

幼少の頃から成長に合わせた場が用意されており、地域の公園の計画やまちづくりなどに、彼らが参加し、意見が反映される仕組みができていた。

また、近年は、新たな仕組みの一つとして、インターネットを活用した若者参画の仕組みについても様々な取り組みが始まっている。

国内においても、この国の未来の担い手の声をどうより反映していくのか、また、どう幅広い声を吸い上げていくのかという事については、真剣に考えていく必要がある。

三つ目は、被選挙権についてだ。

国政選挙権を16歳に引き下げたオーストリアでは、被選挙権についても18歳まで引き下げた。すでにアメリカでは、2001年にペンシルバニア州マウントカーボン町に18歳の大学生町長が誕生し、2005年にはミシガン州ヒルズデール市に18歳の高校生市長が誕生している。

こうした事から考えれば、この国の政治参加の仕組みについても、若者が自らの代表者を政界に送り込む事で、声を反映していくという事も重要になる。

日本国憲法では、15条3項で「公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する」とされており、保障されている普通選挙を投票権のみならず、立候補権も含めたものである考えれば、むしろ20歳で被選挙権が保障されていない事は、憲法に抵触する可能性すらあるのではないかと考える。

選挙権の年齢についても、EUを中心に進む16歳へのさらなる引き下げもそうだが、今後は同時にこの被選挙権年齢の引き下げについても検討していく必要があるのではないだろうか。

この国で考えていかなければならない、こうした若者の参画の問題について、より幅広い人たちに共有いただければと思い、代表を務めるNPO法人Rightsで若者参画の最先進国の一つであるドイツで行った視察調査の報告書を準備しようとクラウドファンディングをはじめた。こうしたものにも是非、関心を持ってもらえればと思う。

https://readyfor.jp/projects/Rights_Germany

成人の日を契機に、10代、20代の若者たちにも、是非、この国の課題や、自分たち世代を取り巻く状況を共有し、声を上げてもらえるキッカケになればと期待する。

日本政治教育センター代表理事・メルカリ経営戦略室政策企画参事

元 中央大学特任准教授。一般社団法人生徒会活動支援協会理事長、神奈川県DX推進アドバイザー、事業創造大学院大学国際公共政策研究所研究員。26歳で市川市議、全国若手市議会議員の会会長、34歳で松戸市部長職、東京財団研究員、千葉市アドバイザー、内閣府事業の有識者委員、NPO法人万年野党事務局長、株式会社政策工房研究員、明治大学世代間政策研究所客員研究員等を歴任。AERA「日本を立て直す100人」に選ばれた他、テレビ朝日「朝まで生テレビ!」等多数メディアに出演。著書に『世代間格差ってなんだ』(PHP新書)、『20歳からの社会科』(日経プレミアシリーズ)、『18歳が政治を変える!』(現代人文社)ほか。

高橋亮平の最近の記事