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令和時代の日本半導体の復活に向けて

津田建二国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

令和はもっと明るく、成長が期待できる時代を期待したい、という声がテレビやメディアから聞こえてきた。元号が変わったからといって日本人のマインドセットが変わるとは到底思えないが、日本が世界並みに成長できる時代に向けてどうすべきだろうか、半導体産業の在り方から、考えてみたい。日本のあらゆる産業の中で、グローバル企業とまともにガチンコ勝負しなければならない環境に置かれたのが実は半導体産業だった。このままではいずれ、他の産業も同じような目に合う。

図1 世界の半導体市場 チップを受け取った地域を市場としている。日本では電機企業がチップを受け取った 出典:WSTSの数値を津田建二がグラフ化
図1 世界の半導体市場 チップを受け取った地域を市場としている。日本では電機企業がチップを受け取った 出典:WSTSの数値を津田建二がグラフ化

国を挙げてTPP(環太平洋パートナーシップ協定)を始めとする産業のオープン化に進んでいるからだ。半導体は関税なしの産業であり、外国企業と全く同じ立場の環境に置かれた。日本の半導体は、世界企業と競争した結果、かつて世界市場の50%を超えるシェアを持っていたが、今や7%以下という情けない状況にまで低下した。日本の半導体産業が持っていた日本的なビジネスのしきたりや文化、風土では世界に通用しないことが判明した。

では、どうすべきか。今でも世界の企業と最も大きく違う点を整理してみよう。まず、経営判断の遅さである。製品開発から市場に出すまでの期間であるTime to marketに対して、日本企業は極めて鈍感だ。4月18日の読売新聞が報じた「半導体 自前主義に固執」という記事があるが、自前で開発することが悪いのではない。自前で開発する期間がどのくらいかかるのか、という判断基準を持たないことがまずいのである。海外企業がIPや特許の購入を持ち掛けても、「うちでも開発できる技術だから要らない」と断るケースが非常に多く、経営者も「優秀な技術部長がそのように断るなら自前で行こう」と判断する。これが間違い。経営者は優秀な技術部長であっても丸呑みするのではなく、「自前で開発するのならどのくらい期間がかかるのか」、と聞かなくてはならない。この期間が2~3カ月でできるのなら自前主義でもよいだろう。しかし1~2年かかるのなら、IPや特許を買わなくてはビジネスチャンスを失うことになる。

経営のプロがいないことも海外とは違う。優秀なエンジニア=優秀な経営者ではない。経営するためには、世界市場の動き(トレンド)に敏感であり、営業やマーケティング、総務・管理部門などを理解し、社員の心をつかみ自主的に動くようにモチベーションを上げ、さらに財務指標を理解でき、情報が常に入りやすいように社員にオープンにし裸の王様になっていないか確認する、などさまざまな知識と理解力、判断力など総合的な能力が必要だ。例えば、社員の言葉に耳を傾けているだろうか。日本では営業や技術、財務などの優秀な生え抜きがトップになることが多い。しかし、自分の部門での仕事が優秀でも経営力があるとは言えない。特に大企業のサラリーマン社長は自分の任期(3年や4年間)の良否ばかり気にして、研究開発のように10年レンジでモノを考えられない人が多い。経営のプロを外部から連れてくることも対策の一つだ。

エンジニアレベルでも、製品、技術、市場などのトレンド情報に常に敏感になっているだろうか。経営者のレベルが低いことは問題だが、社員レベルでもこれからのトレンドをしっかり捉えていなければ、会社の未来像あるいは本人のキャリアパスや未来像を描くことができない。

また、半導体ビジネスでは、国内半導体部門の経営者は自分の判断で投資資金を得られず、総合電機の経営陣から投資資金をもらってきた。総合電機の経営陣は半導体ビジネスを全く理解できないため、必要なタイミングでの投資ができなかった。これで韓国のSamsungや台湾のTSMCに完敗した。日本の電機の経営者は、半導体を理解できないのに、半導体を支配していたのである。これでは経営判断の的確さだけではなく、遅さも加わり、SamsungやTSMC、米国のファブレス半導体などには全く太刀打ちできなかった。ここでも判断の遅さがビジネスチャンスを生かせなかった。ここには半導体経営のプロがいなかったからだ。

海外の半導体の大きな特徴は、Samsung以外は、全て半導体に特化した企業であった。総合電機の一部門ではなかった。また、半導体を分社化しても株式の100%あるいは過半数を親会社である総合電機の経営層が握っているため、自由な経営をできなかった。半導体産業は、IT分野がけん引していたため、常にITと同様にスピード経営が命だったが、子会社関係では素早い経営判断ができなかった。

ITはドッグイヤーと呼ばれるほど動きが速い。例えば、わずか5年前のITの4大メガトレンドは、モバイル、ビッグデータ、クラウド、ソーシャルだったが、今やこれらはITのインフラとなった。これらに代わって、IoT、AI、5G、セキュリティがメガトレンドになった。しかも5年前と大きく違うことは、単なるトレンドではなく、これら4大新トレンドが相互に絡み合う関係になってきている。例えばIoTは単独ではなく、ネットワークでは5Gと絡み、データ解析ではAIと関係する。しかもすべてセキュリティを担保しなければならない。

こういった新しいメガトレンドの動きを経営者は捉えているか。最新技術トレンド情報を経費節約のために見ないように社員に命じた半導体経営者さえいる。これでは、未来に目隠しをしたことになる。少量多品種生産の時代、こういった最新技術トレンドこそが、未来を拓くカギとなるのにもかかわらず、ここに投資しない経営者は企業を危なくする。

少なくとも日本の経営者なら、自社をどう導くべきか、世界と競争できる企業にするために社員をどう動かすか、を考え、実践していくべきである。最低限、新将命氏の書かれた「経営者の心得」(総合法令出版発行)くらいは読んでおくとよいだろう。新氏は、元シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、フィリップスなどグローバルにしっかりとした企業6社で社長職を経験してきた経営のプロというべき専門家である。日本では珍しい。

(2019/5/2)

国際技術ジャーナリスト・News & Chips編集長

国内半導体メーカーを経て、日経マグロウヒル(現日経BP)、リードビジネスインフォメーションと技術ジャーナリストを30数年経験。その間、Nikkei Electronics Asia、Microprocessor Reportなど英文誌にも執筆。リードでSemiconductor International日本版、Design News Japanなどを創刊。海外の視点で日本を見る仕事を主体に活動。

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