「美味しんぼ」問題の時系列的な整理(~5/31 午前11時半)
2014年4月28日発売の、小学館の週刊少年向け雑誌「ビックコミックスピリッツ」22・23合併号に掲載された、同誌の連載漫画「美味しんぼ」における、福島県の震災・原発事故被害に絡んだ内容表現について、各方面から大きな反応(多分に反発)が生じている。またその次号に当たる5月12日発売の24号でも、同様の、さらには震災がれきを焼却処分した大阪府・市関連で多様な反応が寄せられている(なお大阪府で処分された震災がれきは岩手県のものである)。
「美味しんぼ」については編集部サイドで19日発売号にて特集記事を掲載、その発売まで総評は待ってほしいとの意見もある。作品の内容そのものの検証や編集部・出版社の対応をはじめとした情勢分析、さらには表現そのものの倫理的問題なども合わせ、今件に絡んだ諸問題は各方面の「専門家」に任せるとし、今回は時系列的な動向推移の抽出と列挙を行い、理解の手助けとなる材料を構築する。
5月21日時点では大よそ次のような流れとなっている。細かいものはすべて省き、また著名人や関係者、公人の動向においても、主要なもののみを対象とした。今件問題は多様な方面に影響を及ぼしており、いわゆるノイズ情報も増えていることから、すべてを抽出したのでは「理解の手助け」となる意図と反する、雑多なリストが構築されてしまうからである。
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■2014年4月28日
・ビックコミックスピリッツ22・23号発売
連載漫画「美味しんぼ」で福島県と鼻血、放射線被害を連想させる表現多数。
編集部釈明「綿密な取材に基づき、作者の表現を尊重して掲載」(「スピリッツ22・23合併号掲載の「美味しんぼ」に関しまして」)
■5月1日
・スピリッツ編集部ツイッターアカウントにて「4月28日発売時点ですでに次号は制作済み(のためその号に関する各種対応処理は不可能)」「5月19日発売の25号と自社サイトで識者見解などを集約した特集記事を掲載予定」と声明(「スピリッツ編集部ツイッターアカウント内該当発言」)
■5月4日
・原作者雁屋哲氏「反論は最後の回まで待て」「次回はさらに過激」(「反論は、最後の回まで,お待ち下さい(雁屋哲の今日もまた)」)
■5月7日
・「美味しんぼ」に元町長が登場した福島県双葉町が公式に抗議声明(「「美味しんぼ」第604話に福島県双葉町が公式抗議」)
■5月8日
・環境省、リリースで間接的に鼻血表現に対して否定的見解公知。浮島智子政務官が名指しで指摘、苦言(「「美味しんぼ」の問題描写に環境省も苦言」)
■5月9日
・石原環境相、「美味しんぼ」の表現に関して公式記者会見上で苦言。「風評被害あってはならない」(「石原環境相、「美味しんぼ」を名指しで不快感表明」)
・作品に登場した前双葉町町長井戸川克隆氏が記者会見。「実際、鼻血が出る人の話を多く聞いている。私自身、毎日鼻血が出て、特に朝がひどい。発言の撤回はありえない」。石原環境相の発言にも批判(「<「美味しんぼ」問題>前双葉町長が批判 石原環境相発言」)
・雁屋哲氏「スピリッツ編集部に電話をかけたり、スピリッツ編集部のホームページなどに、抗議文を送ったりするのはお門違い」「書いた内容についての責任は全て私にあります」(「取材などについて(雁屋哲の今日もまた)」)
■5月10日~11日
・5月12日発売予定号の早売り取得者の情報が広まる。宣言通り「さらに過激」。記載対象をがれき処理などへも拡大へ。
■5月11日
・片山さつき参議院議員、ツイッターで政府内対応に関して言及。「美味しんぼの福島についての問題についても、週明けに政府内の対応を把握し、疑問をもたれた皆さんにご報告します。」(「片山さつき議員ツイッター該当発言」)
・福島民友新聞、福島県が12日付で公式サイトに今件問題につき反論を載せる予定であることを報じる(「県があすにも見解発表 美味しんぼで反論も視野に」)。
■5月12日
・ビックコミックスピリッツ24号発売
「美味しんぼ」で「福島に鼻血が出たり、ひどい疲労感で苦しむ人が大勢いるのは、被ばくしたからですよ」などの描写。大阪府で処理された岩手県の震災がれきによる被害を連想させる表現も。
・福島県、公式サイト上で「断固容認できず、極めて遺憾」と表明。4月30日付で小学館から内容などに関する問い合わせがあり、5月7日付で返答したことを発表。事実上の抗議声明(「週刊ビッグコミックスピリッツ「美味しんぼ」に関する本県の対応について」)。
・大阪府、公式サイト上で5月12日発売号掲載分中の震災がれきに関する記述についてその内容を否定すると共に、大阪府及び大阪市は事前の取材は一切受けていないことを明らかに。同日、大阪府と大阪市は小学館への抗議を行ったことを表明(「漫画『美味しんぼ』での本府の災害廃棄物処理に関する記述について」)。
・スピリッツ編集部、同日発売号掲載分につき見解を発表。「行政や報道のありかたについて、議論をいま一度深める一助となることを願って作者が採用したものであり、編集部もこれを重視して掲載」(「スピリッツ24号掲載の「美味しんぼ」に関しまして」)
・菅義偉官房長官、午前の記者会見で「住民の被ばくと鼻血の因果関係は考えられない」と不快感を表明。また「政府として科学的見地に基づいて正確な知識をしっかり伝えていくのが大事だ」と発言。石破茂幹事長も記者会見で「評被害を払拭しようとする中で、それに逆行することは自制すべきだ」と言及(「菅官房長官も「美味しんぼ」批判 「被ばくと鼻血の因果関係ない」(スポニチAnnex)」)。
・首相官邸ツイッターアカウント、「一部指摘」との表現を用いながらも今件問題を取り上げ、専門家評価を紹介して否定(「首相官邸公式アカウント 該当発言」)
・福島県知事、講演会で作品内描写に対し「風評被害を助長するような印象で極めて残念」と不快感表明(「<美味しんぼ>福島知事「風評被害助長、残念」と不快感」)
・自民党福島県県連、小学館に抗議文書を郵送したと発表(「週刊ビックコミックスピリッツ「美味しんぼ」に関する抗議」)
・岩手県、12日発売号で言及のあった大阪の震災がれき処理で「各過程の空間放射線量率については全て受け入れの前後で値に変化はなく、安全に処理していることを確認」と言及(「漫画『美味しんぼ』での大阪における災害廃棄物の処理に関する記述について」)
■5月13日
・閣僚から批判発言相次ぐ。根本匠復興相「漫画とはいえ、地元の不安や風評被害を招きかねない内容で、誠に遺憾」、森雅子消費者行政担当相「大きな影響力のある漫画が誤解を与える内容で大変残念だ」、太田昭宏国土交通相「言論の自由は大事だが、福島に住んでいる人の心情を理解する必要がある」、下村博文文部科学相「被ばくの影響については、科学的知見に基づいて伝えることが重要」(「美味しんぼ描写で批判続出 根本復興相「風評被害招く」(スポニチAnnex)」)
・環境省、リリースを更新。具体的な作品名は挙げずも詳細な内容で今件への反論と状況説明を実施。また12日発売号で言及された震災がれきの広域処理に関する説明も追加(「放射性物質対策に関する不安の声について」)
・作品中登場・震災がれきと鼻血との関係を示唆した松井英介氏、新聞社とのインタビューで言及「すべて事実。実際に異変を感じている人たちがいる」。原作者とは「4カ月にわたり「綿密な取材を受けた」」(「「美味しんぼ」登場の医師 「すべて事実。抗議は被災者に失礼」」)
■5月14日
・福島市の温泉旅館で今件問題の影響による宿泊キャンセルが2件あったとの報道。「美味しんぼのニュースを見て不安になった。申し訳ない」「今話題になっている騒動で、子どもを福島で泊まらせるのは不安だ」(「宿泊キャンセル 福島の旅館 美味しんぼ問題影響か(福島民報)」)
・12日発売号に登場した福島大准教授の発言内容に関し、同大学中井勝己学長が定例記者会見で言及。前日の遺憾の意や注意喚起に関して「見解は表現の自由に踏み込んでいない」と説明(「福島大学長の会見の主なやりとり(朝日新聞)」)
■5月15日~16日
・5月19日発売予定号の早売り取得者の情報が広まる。「編集部の見解」として「編集責任者の責」によるものであると表明すると同時に、「問題提起をしたいという思い」「自分達には内容を判断できる立場にない」と釈明し多種多様な意見を取り入れたと弁明、自己の正当化。
■5月16日
・大阪府・市による12日の抗議声明や、その発端となる作品文中の「がれき処理焼却場近くに住む1000人中800人に症状」の言及につき、その調査が「大阪おかんの会」のものであること、会側が「自己申告集計で実際の病状内容や回答者の実在の有無は確認していない」「居住者は近畿一円、大阪市内は約3割」「科学的根拠を得るには専門家の検証が必要だが、(それ無しに)事前連絡無く、違う内容で掲載された」と説明したとの記事を朝日新聞が掲載(「該当記事:美味しんぼ「健康被害」、異例のスピード抗議 大阪府市」、参考「「がれき処理焼却場近くに住む1000人」後日談や補足」)。
■5月17日
・新聞各紙で19日発売号の早売りを基にした報道。次号以降同作品の休載も伝える。「編集部の見解」の掲載では編集部の釈明をする一方、編集部自らは内容の判断をする能力は無いとも(一例:「美味しんぼ、一時休載へ 最新号で編集部見解「ご批判、お叱りは真摯に受け止める(ハフィントンポスト)」 」)。
(【注意】一部解説では内容を受けての休載との説明もあるが、同作品は昨今では元々「短期集中連載」と「休載」を繰り返すスタイルによる連載で、今件に限った話では無い)。
・安倍総理、福島県訪問。放射線による健康影響への不安の払しょくに向けた地元の取組、風評被害からの復興に向けた農家や地域の方々の取組の現場を訪問し、意見交換。「今後政府としては根拠のない風評を払しょくしていくためにも。しっかりと”正確な情報”を提供していく」(「首相官邸 安倍総理の福島県訪問について」、「首相が福島の医大視察 放射線「正確に伝えたい」 (日経新聞)」)
■5月18日
・編集部が5月12日発売号の作品ゲラ(校正刷り、完成前のミス確認用のもの)全ページ分を、5月1日付で環境省に「被曝が原因で鼻血が出ることがあるか」などの質問電話・メール(7日に質問回答期限付き)と共に送付していたとの報道。環境省側は送付・質問依頼はしておらず、また内容に関して訂正要求もしていないと返答。(「美味しんぼ、発売11日前に環境省へゲラ送る 編集部(朝日新聞)」)
■5月19日
・ビックコミックスピリッツ25号発売
「ご批判とご意見」との題名で”識者”とされる人達の意見、「編集部の見解」をも掲載。「「美味しんぼ」掲載に至ったワケ「雁屋氏の考え 世に問う意義ある」(スポニチAnnex)」
・スピリッツ編集部公式サイトにて当日発売号掲載の「ご批判とご意見」部分を公開(「『美味しんぼ』福島の真実編に寄せられたご批判とご意見、編集部の見解」)。
■5月21日
・5月12日発売号作品中に実名で登場し「福島はもう住めない」と発言した福島大荒木田岳准教授が20日にコメントを発表。「世間の対立を激化させている現状に心を痛めている」。また「福島はもう住めない」の作品内発言につき、准教授側が作品中で使わないように求めたにも関わらず、編集部側は「作品は作者のもの」と応じずに発行したとの報道。(「准教授「発言載せないで」 「美味しんぼ」編集部が拒否(朝日新聞)」、「美味しんぼ登場の准教授「現状に心痛めている」(読売新聞)」)
■5月30日
・自民党環境部会で福島県相馬郡医師会によるアンケート結果報告。52医療機関中49件で「原発事故後に鼻血の症状を訴える患者は増えていない」、3件は「増えた」あるいは「『鼻血の回数が増えた』と訴える患者がいた」ものの血小板が減るなど放射線被ばくとの因果関係を裏付ける診断結果は無かった。2011年度以降の健康診断受診者延べ3月2110人の中にも「事故前と比べ鼻血が出るようになった」と訴える人はいなかったとの報告。(「相馬郡医師会:52機関中49が鼻血増加を否定(毎日新聞)」)
※今時系列表については逐次更新を行います。
一部事案については些細な状況確認、状況進展が成されたものもあるが、今件時系列表に掲載するまでには至らないウェイト、精度のもののため、取捨選択を行っている。
出版サイドの言及にある通り、特集記事と一連の連載編の最終話が掲載される次回25号発売の19日以降、数日間位は逐次各方面で動きがあることが予想されることから、状況把握をより容易にするために、上記時系列表は折を見て随時足し引きを行う。
先行する記事となる「「美味しんぼ」問題の時系列的整理」や「「美味しんぼ」言及の「がれき処理焼却場近くに住む1000人」の住まいはどこだろうか」と合わせてご確認いただければ幸いである。
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