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「自治体事業仕分けの実際」~1つの事業に複数の目的を入れることの末路~(つくばみらい市)

伊藤伸構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与

あまり知られていないが、構想日本が協力して行う自治体の事業仕分けは今年度も20か所以上ある。

実際に仕分けで行われた議論を紹介したい。

先週末(7/27)に茨城県つくばみらい市の事業仕分けで取り上げられた事業。

「シャトル便運行事業」

名前だけ聞くと、シャトルバスを走らせている事業のように聞こえるが、実は違う。

事業の目的は、

「両庁舎ににおける文書等の仕分け、配布、郵便物の差出をシャトル便運行に集約することで効率的に行っている。また、庁舎間の移動をしなければならない市民の利便性を考慮し、シャトル便に市民を乗せて運航している」 (事業シートママ)

そもそも記載されていることは「事業内容」であって「目的」にっていないと思うが、それはさておき、つくばみらい市は2006年に伊奈町と谷和原村が合併してできた市で、現在も両庁舎で分業しているため、文書や郵便物等を両庁舎間で運搬している。

8人乗りの1BOXで、1日4往復(8便)。1便当りの文書は15通。

文書だけではもったいないので、せっかくだからということで市民も乗せることに。

1便平均2人。

事業費は約200万円。

文書も人も少なすぎないか?

この事業の主たる目的は、文書を円滑に運ぶことなのか、市民の利便性向上のための「交通」なのか?

担当者の答えは「両方」。

しかし、明らかに性質の異なる2つの目的を合わせて事業を行うと、効果が薄く非効率になることが多い。

この事業についても、議論を進めていくと、文書だけの運搬なら1日2~4便で十分とのことがわかったが(それでも多いという仕分け人からの指摘は別途あり)、市民のニーズが高い、という理由から8便走らせているとのこと。

両庁舎間の距離は車で10分程度の近さ。さらに、別事業でコミュニティバスを走らせており、大部分はルートが重複している。

それでも、1便2人くらいしかいない市民を乗せることの意味は何か? 

答えは、「例えば旧伊奈の庁舎で対応できず旧谷和原村庁舎に行ってもらわなければならないことが発生するから」。それは何件かを尋ねると把握はしておらず、感覚論としては少ないとのこと。

さらに、「両庁舎間をまっすぐ行けるルートがないためこのシャトル便が必要」と言っていたが、それはコミュニティバスの路線をどう有効に変えていくかを考えるべきであって、この事業で達成させることとは異なる。

すると、担当者から「コミュニティバスを所管する企画課とは調整をしたことがない」と。47000人くらいの規模の市であっても縦割り構造になっていることが明らかになった。

文書の運搬についても、シャトル便以外にも職員が急な決済や業務で両庁舎間の行き来をすることは当然ながら多い。

緊急性の高くない(その日のうちに届けば良い程度の)文書については、あらかじめ決められた箱に入れておき、それを職員が行き来する際に持っていくことも考えられるのではないか? そもそも緊急性の高い文書はどのくらいあるのか? などの質問が出たが把握はできていなかった。

振り返ると、この事業の大きな論点は、「目的が文書の運搬と市民の足の確保の2つになっていることで事業運営が中途半端になっており、結果として効果が薄く非効率になっている」こと。

そして、文書の運搬が主たる目的ならば、本当にシャトル便が必要な文書がどのくらいあるのか、まさに仕分けが必要。

市民の足の確保が主たる目的ならば、企画課で行っているコミュニティバスの事業と完全に目的が重複するので、コミュニティバスの運行の中で考えることであって、この事業で考えることではない。

「せっかくだから」という気持ちで、一つの事業に複数の目的を入れ込む事例は少なくないが、ほとんどすべては結局どっちつかずで無駄が生じているというのが、仕分けをやっていての実感だ。

構想日本総括ディレクター/デジタル庁参与

1978年北海道生まれ。同志社大学法学部卒。国会議員秘書を経て、05年4月より構想日本政策スタッフ。08年7月より政策担当ディレクター。09年10月、内閣府行政刷新会議事務局参事官(任期付の常勤国家公務員)。行政刷新会議事務局のとりまとめや行政改革全般、事業仕分けのコーディネーター等を担当。13年2月、内閣府を退職し構想日本に帰任(総括ディレクター)。2020年10月から内閣府政策参与。2021年9月までは河野太郎大臣のサポート役として、ワクチン接種、規制改革、行政改革を担当。2022年10月からデジタル庁参与となり、再び河野太郎大臣のサポート役に就任。法政大学大学院非常勤講師兼務。

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