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新聞が自負する社会的責務はどれだけ果たされていると思われているのか

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 新聞に、ズームイン

テレビやラジオと比べ、報道機関・媒体としての歴史が古い新聞には、さまざまな責務・社会的存在意義を背負っていると言われている、あるいは自負している。その内容は新聞読者を含む世間一般には、どのように認識されているのだろうか。財団法人新聞通信調査会が2016年10月に発表した調査結果「2016年メディアに関する世論調査結果」(2016年8月19日から9月6日にかけて住民基本台帳からの層化二段無作為抽出法によって抽出された18歳以上の男女個人5000人に対して、専門調査員による訪問留置法で実施。有効回答数は3308人。有効回答者の属性は男性1568人・女性1740人、18~19歳70人・20代306人・30代460人・40代539人・50代524人・60代696人・70代以上713人)から、その実態を確認していく。

新聞には報道機関としての一翼を担い、多種多様な責務・存在意義があるとされている(それが正しいか否かはまた別の問題)。政治や社会の不正追及、政治に対する客観的な視点、国民の声の政治への反映の後押し、公明正大な姿勢などなど。そこで今回は、今調査結果で公開されている3要素「政治や社会の不正追及」「政府の監視の役割」「国民の声を政治に反映させるのに有益・貢献」を精査していく。

設問では提示された内容に「そう思う」「どちらかといえばそう思う」「どちらとも言えない」「どちらかと言えばそうは思わない」「そうは思わない」の中から1つを選んでもらい(+「無回答」が生じる)、そのうち前者2つ(肯定派)と、後者2つ(否定派)の値をカウントしたもの。なお属性全体の回答傾向を確認すると、半数前後が「どちらとも言えない」の回答で占められているため、突出した値が出にくい形となっている。

まずは「政治や社会の不正追及」。

↑ 新聞は政治や社会の不正を追及している(2016年度、属性別)
↑ 新聞は政治や社会の不正を追及している(2016年度、属性別)

3割強の人が肯定、否定派は1割強。男性の方が新聞の不正追及を信じている人が多い。世代別では未成年者が肯定派で高い値を示しているが、成人に達すると大いに値は下がり、否定派が増える。30代までは不信感の強さが継続し、40代以後否定派が減り、肯定派が増える。元々新聞などが全盛だった時代を生きて来たからなのか、それとも他メディアへの興味関心が薄いからなのか、いずれにせよ高齢層では新聞に対する政治・社会への不正追及を強く信じていることになる。

続いて「政府への監視の役割」。

↑ 新聞は政府を監視する役割を果たしている(2016年度、属性別)
↑ 新聞は政府を監視する役割を果たしている(2016年度、属性別)

政府への監視の役割は、最初の「政治や社会の不正追及」と比べ、肯定派が少なく、否定派が多い。それでも全体では肯定派の方が多いが、差は4.4%ポイントでしかない。

性別、世代別の傾向も同じようなものだが、差が元々開いていないこともあり、未成年者は同率、20代から40代までは否定派の方が高い結果が出ている。つまり若年層は新聞に対し「政府の監視役割があると自称しているが、その役割は果たしていない」と見定めていることになる。ただしこれが「政府に迎合している」「政府に反発している(監視を超える活動をしている)」いずれか、さらにはそれ以外の意味を有するかまでは今項目では判断ができない。一方シニア層になると「新聞はしっかりと政府の監視役を果たしている」との意見が多数を占めている。

最後は「国民の声を政治に反映させるのに役立っている」。前年度調査では「主張の異なる政党の主張を公平に扱う」に関して調査詳細値が公開されていたが、今年度では代わりにこの項目にスポットライトが当てられている。ここで言及されている「国民」とは老若男女を問わず全体としての声を意味するが、昨今では一部界隈のみの声を反映するとの指摘も見受けられるように、揺らぎを見せる概念、社会的意義ではある。

↑ 新聞は国民の声を政治に反映させるのに役立っている(2016年度、属性別)
↑ 新聞は国民の声を政治に反映させるのに役立っている(2016年度、属性別)

全体では肯定層が3割、否定層が2割強で肯定派が優勢。男女別では肯定・否定共に男性の方が高値で、明確な意思判断を下している(「どちらとも言えない」ではない)ことになる。

年齢階層別では未成年者は肯定派が多数だが、20代と30代では大きく逆転し否定派が多分となり、「政府を監視する役割を果たしている」と同様の動きを見せている。中堅層以降で肯定派が多くなり、シニア層では圧倒的多数に及ぶ動きも同様。ここで言及されている「国民」は、多分に回答者本人あるいは周辺が意識されていることを思い返せば、色々と納得のいく動向には違いない。

冒頭でも触れているが、これらの志、社会的な責務が正しいものか否かは別の問題となる。さらに新聞を送り出す従事者が「正しい」と自認し、使命感を持って行っている内容そのものが、公明正大なものか、社会にとって益となるとは限らない。むしろ新聞(社、関係者)の持つ独自の理念を軸に据えた上でこれら大義名分を果たすため、結果として罪悪となる事例も皆無とは言えない。

今や新聞社は多数の人たちから、今件取り上げられたような「志、責務」の観点で追及されうる立場にもある。自らを見つめ直す謙虚さを忘れていては、手に持つ剣はさびていくばかりとなるに違いない。

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「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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