住宅街に突如現れる「美空間」。焼鳥のために建てた平屋でくつろぎのコースを【兼作/長崎】
今回、冒険するのは長崎県・長与町の「兼作(かねさく)」。長崎駅から5駅ほど離れた長与町は地元でも人気のベッドタウン。その長与駅から15~20分ほど歩くと閑静な住宅街に突如、優美な建物が目に入ってくる。そう、ここが「兼作」。東京や地方の焼鳥屋で修業した店主・辻田さんが構えた美しすぎる城だ。
木の温もりに包まれながら焼鳥を
夕闇にボッと浮かぶ照明。たっぷり過ぎるほどに余裕をもたせた店構え。長崎県の中心街から離れた、それも閑静な住宅街の真ん中にこんなにも美しく設えた焼鳥屋があるだなんて、誰が想像できただろう?
戸を開ければ、まさかの玄関。靴を脱ぎ上着をかけ、上がった先には7~8席ほどのカウンターが待っていた。それはまるで料亭のような造り。木の温もりに優しく包まれる「美空間」に、否が応でも期待に胸が膨らむというもの。
料理は鹿児島県の銘柄鶏「赤鶏さつま」を使った、焼鳥フルコースのみ。早速、ささみの前菜を肴にビールで喉を鳴らす。あとふた口ほど残したところで、店主の辻田さんから「ももです」と1本目が差し出された。
もも肉をミルフィーユ状に打ち、タレをまとわせて焼き上げたネタで、東京では「かしわ」と呼ばれることが多い。噛めばぷりっ! と弾けて、その香ばしさに、もう一口、もう一口と誘われるよう……。うーん。これはいい幕開け。
2本目はまさかの、じゃがいもだ。表皮は赤紫色、身は鮮やかな黄色で、まるで栗のような甘み。「長崎県産のデストロイヤーという品種なんですよ」と辻田さんが教えてくれた。ほうほう。どうやら、長崎県の特産らしい。
さらに厚揚げは、刻んだねぎやかいわれ大根をたっぷりとあしらって。ホフッ、ホフッ! そうそう、焼鳥屋の厚揚げは火傷するくらいに熱いのがうまいんだ。ビールで追いかける喜びといったら、もう。
そろそろ焼鳥が食べたいと思っていたところで、定番の皮。外はカリッと、中はもちっ。よく鶏肉が苦手な人は皮が理由だと聞くけれど、焼鳥通のほとんどはむしろ皮が好きだと答えると思う。これも塩なら何本でも食べられそうだ。
王道ネタに焼鳥欲が満たされる
どうやら焼鳥コースも折り返し。いつも思うことだけれど、焼鳥屋に来て食べ出すとあっという間に時間が過ぎていく。もちろん酒もたしなむとはいえ、不思議なもんだ。
砂肝は石垣を積むような串打ちが特徴的で、噛めばシャクッと歯切れよく裂けていく。対してつくねはふっくらとやわらかで、このコントラストのある流れも楽しい。
さぁ、焼鳥コース最後のネタとなるのは手羽。思った以上に大ぶりで、食べごたえ充分。脂を閉じ込めるようなややソフトな火入れ。ふっくらとやわらかく、熱く。頬張れば焼鳥欲をしっかり満たしてくれる。
これで串も終わり……。そう思うと急に寂しくなって、ほかに追加できるネタがないかと聞いてみれば「ソリレスとあか(うちもも)がありますよ」と辻田さん。
やや悩んだものの「あか」をオーダー。これはもも肉のなかでも内側にあたる部位だけを集めたネタ。脚の付け根に近く、ムチッとやわらかながらうまみがのっている。
今度こそ、終わり。本当に終わり。あとは〆の焼きおにぎりとスープでほっこり、まったり、だ。
「兼作」は2022年10月にオープンしたばかり。こうした高級店を出すなら、それこそ長崎市の思案橋や銅座など煌々とした歓楽街が向いているようにも思うけれど、辻田さんは「地元でゆっくり焼鳥を楽しんでもらえる店を出したかったんです」と微笑む。
確かに、歓楽街だとこれほど優美な造りの焼鳥屋はそうそう出せないと思う(予算的にも)。それに、この「兼作」という店名も自身の名前ではなく、祖父の名前を授かったのだそうだ。
郷土愛、そして家族愛。高級然とした店ながらどこか落ち着くのは、そのせいかも。
店舗情報
【店名】兼作
【最寄り駅】長与駅
【住所】長崎県西彼杵郡長与町嬉里郷668
【予約】095-894-1827(予約制)
【定休日】月曜
【串のアラカルト】なし
【鶏メモ】赤鶏さつま