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「もう一回ブレークしないと、先はない」。40歳になった「フルーツポンチ」村上健志の覚悟

中西正男芸能記者
現在、そして今後への思いを語った「フルーツポンチ」の村上健志さん

 特異なウザキャラ、そして、運動が苦手なキャラクターで一躍ブレークしたお笑いコンビ「フルーツポンチ」の村上健志さん(40)。今はMBSテレビ「プレバト‼」で俳句の腕前が注目され、今月1日には著書「フルーツポンチ村上健志の俳句修行」も上梓しました。新たな一歩を踏み出しつつありますが、そこには「もう一回ブレークしないと、先はない」という覚悟がありました。

「サラダ記念日」を手に取って

 俳句の前に、6~7年前から短歌はやっていて、短歌を始めたきっかけは立ち読みでした。偶然寄った本屋さんで、歌人の俵万智さんの本が目に入ったんです。

 「そういえば『サラダ記念日』という本は知っているけど、きちんと読んだことあったかな…」と思って手に取ってみたら、一気に引き込まれまして。短歌って、すごく面白いと思って、見よう見まねで始めてみたんです。

 偶然、先輩の、みのるチャチャチャ♪さんも短歌が趣味で、一緒に出かけて短歌を詠んだりもしてたんですけど、これがなかなかうまくいかない。

 一回、きちんとホンモノの人に教えてもらった方がいいのではとなり、みのるチャチャチャ♪さんのツテで歌人の小島なおさんをお招きして短歌のイベントをする中で、少しずつさらに面白さが分かっていったという流れなんです。

“気づき”の先取り

 そこから「プレバト‼」をきっかけに俳句を始めるんですけど、そうやって短歌、俳句が生活に入ると、周りのものへの意識が変わってきたんですよね。

 例えば、夜に北斗七星が見えたら「あ、きれいだな」と思いますし、恐らく、多くの人がそう感じると思うんです。

 ただ、他の人がまだ気づいてない、もしくはモヤモヤと何となく感じてはいるけれど、まだ言葉にできていないところ。そういうところを言葉にして、聞いた人が「あっ…」となるのも素敵だなと。そんな思いがどんどん出てきたんです。

 まだ気づかれてないであろう公園の面白いところとか、細かい気づきを発見する。それが俳句になっていくので、そういうものを探しながら歩くのが楽しいというか。

 実は、これって、僕がコントでやるようなウザキャラとか、お笑いの“あるあるネタ”を作るのとベースは同じなんです。

 物事や人間を観察して、みんながまだガッツリとは気づいてないけど言われたら「あっ…」となるところを先に気づいて提示する。

 これは芸人として今までやってきたことですし、僕が好きな領域でもあった。そういう“タネ”を採取して、その気づきを俳句にするのか、ネタにするのか。最後のその差だけで、タネ集めの作業自体はすごく似てるんです。だから馴染めたのかもしれませんね。

 ただ、何か発想があってパッとできるということではなく、僕の場合は俳句を作るまでに時間がすごくかかるんです。

 これは「プレバト‼」という番組に向けての俳句ということになりますけど、僕のやり方としては、まず「学校」というテーマで俳句を作るとなると、そのテーマから思いつくワードを思いつくだけ書き出すんです。連想ゲームみたいに、とにかく多く書き出す。1日目はそれだけで終わります。

 翌日以降、そのワードで実際に俳句を作っていくんですけど、時間がかかってなかなかできないというのは、全く何もできないということではないんです。

 事実、俳句自体は何十句もできるんです。ただ、その中で本当に自分が納得できて、しっくりくるものがなかなかできない。

 作って、作って、作って、迷った末に一句を選ぶ。その流れを完遂するまでにどうしても多くの時間がかかるんです。

 ただ、この「時間がかかる」ということが、見えない効能もくれているなと。

 これまでサボっていたわけではないんですけど、一つの仕事にここまで準備をする。その習慣が今の年齢になって身についたのは完全に俳句のおかげだと思います。

新型コロナ禍の意味

 実は、この感覚というのは、今、自分が感じている“焦り”ともつながっているんです。

 現在僕は40歳ですけど、番組のMCというところには乗っかっていないし、後輩たちを見れば第7世代と呼ばれるような旬の人たちがどんどん出てきている。現状を考えた時、今後、確実に先細っていきます。

 そこに新型コロナ禍で、輪をかけて仕事が減りました。劇場出番が減る。営業がなくなる。テレビの仕事もそこそこくらい。当然、収入も減ります。

 実は、自分の中ではコロナ禍で5年ショートカットしたという感覚があるんです。コロナ禍がなければ5年先にやってきていたピンチが、5年早く来ている。

 もちろん、新型コロナは良いものではないし、全くポジティブにも捉えてないんですけど、個人的には5年後にワープさせられた感覚に近いかなと。5年分先取りして、自分に起こるであろうことを見せつけられている気がしているんです。

 ある意味では、徐々に仕事が減って5年後に「えっ…」となるよりも、急に流れが来た方が気づきやすいし「何かしなきゃ」と思いやすい分だけ救われているとも思います。5年後に慌てるよりは、まだ少しは若い40歳でそれが来ている分、良いのかなと。

それをやらないと、先はない

 新型コロナが落ち着いたら…という意識を最初は思ってもいましたけど、今になって思うのは、新型コロナが落ち着いたとしても、以前と同じように僕に仕事が振られるとは思えない。

 だったら、どうしたらいいのか。もう一回ブレークするしかないんですよね。

 今後もお仕事をいただくようにするためには、新型コロナがなくなることを待つんじゃなく、自分がコロナ以後にブレークしないと無理なんです。

 十数年前にネタ番組に出していただいて注目してもらったみたいに、もう一回ブレークする。それをやらないと、先はない。そう思っています。

 その一つの形が俳句だと思いますし、この歳でそれをいただけたのは本当にありがたいことだと思っています。

 自分の努力で、何とか形を作れるものがある。努力でどうにかできる可能性があるものを、40歳で持っていられる。そこは本当に良かったと思います。もちろん、どうにかするためには、相当頑張らないといけないんですけど。

 人員的にも、予算的にも減っていく中、わざわざ村上を呼ぶ理由。それが明確にあることがより必須になるでしょうし、そこを強化しないといけないとも思います。

 重ねての話になりますけど、俳句、そして、その場を与えてくださった番組には本当に感謝しています。

 ただ、一つ計算違いだったのが、俳句をやることで“別の流れ”ができると予想していたんです。

 もともと、僕は俳句をやる前からカッコつけたことを言うとか、ウザキャラということをやっていました。

 でも、俳句が上手でサラッと言葉を操るニンがついてくると“カッコつけ”からストレートに“カッコいい”になるんじゃないかと。ただ、そこは全くならずでした(笑)。

 見る目が変わるのかなと思いきや「俳句は上手だけど、性格は悪くてウザい」というところで評価は焼き付いているようで…。

 そこは思っていたようには全くなってませんが、それはもうそういうものだという気づきを持って(笑)、一日一日を力いっぱい生きていきたいと思います。

(撮影・中西正男)

■村上健志(むらかみ・けんじ)

1980年12月8日生まれ。茨城県出身。青山学院大学卒業。吉本興業所属。NSC東京校10期。2004年、亘健太郎とお笑いコンビ「フルーツポンチ」を結成する。フジテレビ「爆笑レッドカーペット」などでコントでの「ウザい」キャラクターとして注目される。テレビ朝日「アメトーーク!」の企画「運動神経悪い芸人」で“ヒザ神”の異名をとるようになる。趣味は短歌と俳句。2016年の第62回角川短歌賞に応募し、予選通過50篇の中に選ばれた。俳句はMBSテレビ「プレバト!!」をきっかけに作り始め、同番組で高い評価を得る。18年から朝日新聞が運営するブック情報サイト「好書好日」で「フルポン村上の俳句修行~わかったつもりでごめんなさい~」を連載開始。同連載をまとめた書籍「フルーツポンチ村上健志の俳句修行」を4月1日に上梓した。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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