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アメリカンフットボール部のコーチに、ラグビー型タックルの受講を義務付け。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:アフロ)

 

 米国のアメリカンフットボールで、ラグビー型のタックルが浸透しつつある。

 アメリカンフットボールでも、頭部に衝撃を受けることを避け、肩と足を使ってタックルをするように推奨しているのだ。

 2002年にNFL殿堂入り選手のマイク・ウェブスターが心身の不調に悩まされ50歳で死亡した。ウェブスターの脳は解剖され、慢性外傷性脳症(CTE)を患っていたことが明らかになり、脳震盪を繰り返すことのリスクが指摘されるようになった。

 アメリカンフットボールを好んでいた親たちも「子どもにはアメリカンフットボールではなく、別のスポーツをやらせよう」と考えるようになる。

 脳震盪のリスクを減らしていかないと、米国で最も人気あるスポーツと言われるアメリカンフットボールは生き残れない。激しいぶつかりあいという競技の特性を残しながらも、アメリカンフットボールが変わっていかなくては消滅してしまう。衰退か、変革かの二択。アメリカンフットボールには、そのような危機感がある。

 脳震盪の危険が指摘されてからの15年間、研究が進み、効果がある安全策が提案されてきた。選手、コーチ、医療スタッフが脳震盪の知識を持つ、タックルの練習時間を減らす、より安全なタックルをするなどだ。2006年ごろから高校のアメリカンフットボール部では、ヘルメットで相手にぶつかるタックルをより厳格に禁止している。

 アメリカンフットボールの盛んなテキサス州でも脳震盪の発生から試合復帰までのプロトコルの徹底、タックル練習の制限などの対策をしてきた。さらに昨年末からは中学、高校のアメリカンフットボール部のコーチに対し、頭からぶつからない、肩を使ったラグビースタイルのタックルを学ぶことを求めている。同州の中高運動部を統括する組織(University Interscholastic League)が、2019年8月までに州内の中学と高校のアメリカンフットボールのコーチに対し、タックルの指導法を受講することを義務付けたのだ。詳細はこちら

 1月2日付のニューヨーク・タイムズ紙によると、2万3000人の中学と高校のコーチが講習を受けるという。受講と終了後のテストをパスしたコーチには、修了証明書が発行される。

 テキサス州の中学と高校のコーチたちに講習を提供しているのは、Atavusというシアトルに拠点を置く民間企業。同社はアメリカンフットボールとラグビーのそれぞれの専門家、データ分析の専門家らによって経営されている。この会社は、タックルに焦点を当てているのが特徴で、ラグビースタイルを取り入れたタックルを推奨している。

 Atavusのホームページによると、ひとつひとつのタックルに対し、肩でコンタクトしているか、頭のポジションはどこかなど88のデータポイントから情報を集め、効果的で安全なタックルであったかを分析しているそうだ。

 前述したニューヨーク・タイムズ紙の記事によると、2016年からAtavusのプログラムを導入しているロックウォール高校のコーチは、このタックルの効果は2シーズン目からあらわれたという。タックルミスが減少し、直近シーズンでは脳震盪は起こっていないとしている。

 民間企業が中学や高校のアメリカンフットボール部のコーチに講習を提供しているのも、米国らしいといえるだろう。現在、テキサス州でコーチをしている人は無料で受講できるが、2019年8月2日以降にオンラインで受講する人は、35ドルを支払わなければいけない。詳細はこちら

 

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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