大震災で財産を失ったら~少しでも資金面の負担を軽減するために覚えておきたいこと
■はじめに
元日に「令和6年能登半島地震」が起こり、輪島市や珠洲市等、北陸各地では甚大な被害が生じてしまいました。被害に遭われた方にはお見舞い申しあげます。
まずは物資の調達や十分な食事をはじめとする健康の確保など、「命を繋ぐための緊急の対応」が必要でしょうが、それが終わったら、人によっては資金面の心配をされることでしょう。
ここでは、簡単にですが、留意しておきたい事項を整理してみたいと思います。
■税制も鬼ではない~東日本大震災の時にも諸々の配慮があった
財務省のサイトによると、以下のリンクの通り、諸々の特例が設けられました。
(リンク)
東日本大震災からの復興に向けた税制上の対応(第一弾)~財務省
東日本大震災からの復興に向けた税制上の対応(第二弾)~財務省
これを見ると、例えば、東日本大震災の時は、
「相続税で震災時点以降に申告期限がくるものについて、相続財産に含まれる土地などにつき震災後の低下した価値での申告を認める」
「被災市街地復興土地区画整理事業等の土地の譲渡に際して、一定の要件を満たす場合は、売却で得た儲けのうち5,000万円までは控除(実質的に無税)」
等、色々な特例が設けられました。
今回の「令和6年能登半島地震」で、税制が何をどこまで配慮するかは令和6年1月8日時点では不明ですが、税制の動きに配慮し、必要に応じて税理士等に照会しつつ、特例を把握の上で少しでも税負担を和らげることが被災者の支えになるのではないでしょうか。
■地価公示価格はどうなる
不動産鑑定士として見ると、報道写真から見る限り輪島市の大火災で焼失したと思われる付近に前年の令和5年の情報を見る限り、公示地「輪島5-1」があるようです。
多分、今年もこの地点は公示地でしょうから、その前提で考察します。
まず、公示価格は1月1日時点の土地の公正な土地の価値を示します。ただ、今回はこの日に大地震が起きたとの前代未聞の事態で、1月1日の「地震発生前」と「地震発生後」で価値が違うと思われますから、どのような扱いになるかは注視すべきでしょう。
難しいのは、火災で街並みが失われ価値が減ったとみれば、1月1日時点を前提とする公示価格等に連動する固定資産税路線価や相続税路線価も下落する点です。
この場合、税負担は軽減されます。
一方で、公示価格等や相続税路線価、固定資産税路線価は「ある程度は」不動産取引の指標となっていますので、土地所有者が地震で資金繰りに窮して土地を売却したい場合等に換金価値の制約になって、活性化の低下を導きかねない懸念もあります。
もちろん、「輪島5-1」以外の能登半島の色々な公示地についても同様のことが言えます。
この辺り、公示価格等を管轄する国土交通省や税務署、固定資産税等を管轄する輪島市、石川県の不動産鑑定士で構成される公示価格の石川分科会がどのように考えるかですが、大変難しい。
筆者も東京都内で公示価格等や相続税路線価等の鑑定評価に従事させて頂いていますが、仮に同じ立場となったとしたら、頭を抱えるでしょう。
ただ、被災地をはじめとする輪島市や能登半島の衰退に歯止めがかかるよう、焦らず十分な議論を尽くして頂きたいと思います。
■債務が残っている…どうしようと思われた方へ
筆者はご縁があって、平成23年の夏に石巻に1日だけ赴いて被災者の相談対応をさせていただいたことがあります。
その時の経験を語ることをお許しください。
確か、7~8人程度の方がご相談にいらしましたが、二重ローン問題が主であったと思います。
要するに、「建物が流されたが、ローンで建てたのでローンだけが残った。どうしたら良いか?」という話です。
土地の価値が激減したので土地を処分しようにも換金価値の目安も名言できず、通常の制度では如何ともし難い…というのが当時、感じたことでした。
ですので、筆者は「とりあえず、このような非常事態で、貴方に落ち度があるわけでもないので、今は開き直ってローンは気にせず、請求された段階で債権者と協議するしかない」と答えた記憶があります。
なお、自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインが定められています。
これは、地震等の災害が原因で借金が返せなくなった個人の方向けに、予め登録された税理士や公認会計士、弁護士等の専門家が関与して「債権者側にある程度は借金返済を緩和することを要請し、被災者の再生の一助とする」制度です。
ちなみに、実は筆者も登録された専門家の一人なのですが、専門家は債務者が直接選ぶのではなく、例えば公認会計士であれば公認会計士協会が人選し、選ばれた公認会計士が受諾すればその案件を対応する形態となっています。
そして、今回の「令和6年能登地震」も対象とする旨が発表されています。
(リンク)
自然災害による被災者の債務整理に関するガイドラインについて | 一般社団法人 東日本大震災・自然災害被災者債務整理ガイドライン運営機関
「自然災害時には債務の返済を緩めてもらうガイドラインがある」との点を頭の片隅に入れて頂き、万が一、そのような事態に陥ったら、弁護士、公認会計士、税理士等の力を借りるのも手でしょう。
■最後に
上記の税制もそうですが、通常ではない大地震という非常事態の場合は、地震で被害に遭われた方に向けて色々な制度が整備されます。
最もまずいのは、「借金が返せない」「税が払いきれない」と一人で抱え込むことです。
心ある多くの士業は、もちろん自身の稼ぎも重要ですが、「稼ぐことが全て」とは考えていません。
個人的な感想ですが、大地震をはじめとする自然災害に伴う損害が出た時の士業の案件は、もともとが資金繰りに窮している方々を救う案件のため、士業の案件としては著しく報酬が低い場合が大半と感じています。
それでも、「勿論、資金的な寄付も重要であるが、別の形の貢献として、自分の専門知識を生かして復興の一助にしたい」と思っている士業も多いのではとも感じています。
税制やローンも、専門家の立場からは「言ってくれれば、このような対応を提案できたのに」という場合もあります。
今回の「令和6年能登半島地震」に限らず、将来の自然災害も含めて、災害が原因で資金面で困った場合、一人で抱え込まず、心ある専門家に相談していただければと思いますが、いかがでしょうか。