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森保ジャパンが抱える1トップ問題は、異なるキャラクターの起用で解決されたのか?【タジキスタン戦分析】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

日本は大幅にスタメンを入れ替えた

 U-24日本代表とのチャリティマッチから中3日、すでにW杯アジア2次予選突破を決めた森保ジャパンがタジキスタンと対戦。2次予選初となる失点を喫して一度は同点に追いつかれたが、最終的には力の差を見せつけて4-1で勝利を収めた。

 大勝したモンゴルやミャンマーほどではないにせよ、日本にとってはタジキスタンも勝って当然の相手。それだけに、この試合は結果よりも内容に重きをおいてチェックする必要があるだろう。

 しかも、前日に森保一監督が予告したとおり、この試合のスタメンはU-24日本代表戦から8人を変更。レギュラーの南野拓実と、レギュラークラスの原口元気と橋本拳人を除くと、フィールドプレーヤー10人のうち7人が控え組という編成だった。

 U-24日本代表戦では、控え組が中心となった後半に主導権を失った経緯がある。それだけに、彼ら経験の浅い選手たちが、いかに前回の反省点を踏まえて高いレベルで戦術を機能させ、そのうえで個の特長を発揮できるかに注目が集まった。

 まず、この試合のスタメンを飾ったのは、GKに権田修一、DFは山根視来、中谷進之介、昌子源、佐々木翔の4人。ダブルボランチは橋本と川辺駿のセットで、2列目に古橋亨梧、南野拓実、原口元気を配置し、1トップには浅野拓磨が起用された。U-24日本代表戦に続く先発は、南野、原口、橋本の3人で、システムは基本の4-2-3-1が採用された。

 一方、試合4日前に来日したタジキスタンは、グループ2位を死守すべく、今年に入ってから5つの親善試合を行って強化を進めるなど、準備は万全。メンバーについては、ウスモン・トシェフ監督が「今回のチームは非常に若い」と語った通り、前回対戦時と比べて多くの若手を招集し、システムも前回の4-1-4-1から4-4-2に変更して日本に挑んだ。

異なるタイプの起用で違いを生み出せるか

 そのなか、この試合で1トップを務めた浅野拓磨がどのようなプレーを見せるかは、最大の注目ポイントだった。この日は不動の1トップとして君臨する大迫勇也が負傷によりメンバー外となったこともあるが、これまでも大迫不在時に誰がこのポジションを務めるかは、まだチームとして確固たる解決策を見出せていない事情もあるからだ。

 過去の例を見てもわかるように、前線で縦パスを収められるかどうかは、森保ジャパンの攻撃が機能するかにほぼ直結する。前線でポイントを作ることにより、相手の守備を中央に寄せる効果が生まれ、それによってサイドに空いたスペースを有効に使えるというメリットも生まれる。

 それこそが、ポストプレーに秀でた大迫が重用される最大の理由であり、それは昨年から1トップ下のファーストチョイスとなった鎌田大地にも言えることだ。その他、南野、堂安律、伊東純也、久保建英といった2列目の戦力も、ライン間で縦パスを受けるのを得意とする。

 一方、この試合のスタメンを飾った浅野、古橋亨梧、原口は、それほどポストプレーに長けているわけではない。浅野と古橋はスピードを生かした裏抜けを最大の武器とし、万能型の原口については、スタミナを生かした守備貢献やドリブルの推進力など、他の選手にはないダイナミックさが特長でもある。

 つまり南野以外、4-2-3-1の「3-1」に異なるタイプのアタッカーを並べた時、どのような変化が起きるかが、この試合を見ていくうえでは重要なカギとなった。

 森保ジャパンにおいて、これまで浅野が先発出場したのは2019年11月19日のベネズエラ戦のみ。ただ、その時は鈴木武蔵との2トップだったため、1トップでの出場は今回が初めてのことだった。

 過去には、鈴木武蔵や永井謙佑といった、浅野と同じスピードを武器とするタイプが1トップを務めたこともあった。しかしそれらの試合では、彼らの特長を生かすべく、チームとして相手DFの背後を狙うフィードが目立ち、くさびの縦パス本数が極端に減少。たとえば6-0で完勝したホームでのモンゴル戦(2019年10月10日)では、永井が1トップに起用され、1度もポストプレーをせずに終わった例もある。

 その試合では、両サイドからのクロスを多用して多くのゴールを生み出すことに成功したが、果たして、このタジキスタン戦ではどのような攻撃を見せたのか。

1トップ起用の浅野が見せた試みとは?

 2-1のスコアで終えた前半、日本は17本の縦パスを見せたが、やはり浅野がくさびの縦パスを収めたシーンは1度もなかった。

 浅野の見せ場は、6分の古橋による先制ゴールにつながったプレーで、山根視来のパスからDFラインの背後に抜け出してシュートを放ったシーン。14分に古橋がタッチライン際から蹴ったボールを右から抜け出てシュートに持ち込んだシーン。そして、カウンターからドリブルで前進した南野のパスを左サイドのスペースで受け、カットインしてからシュートした41分のシーンだった。

 ただし、裏抜け以外で見逃せないプレーもあった。19分に昌子源が入れた縦パスを南野がフリックし、近距離でそれを受けた浅野がトラップミスをしたシーンと、46分に同じく昌子が原口に縦パスを入れ、原口がフリックで浅野に渡したシーンである。

 この2つのシーンでは、直接浅野が縦パスを受けずとも、別の選手を一度経由してからボールをもらったという点で、共通していた。そして、南野に代わって鎌田が、原口に代わって坂元達裕が起用された後半になると、前半に見せたその2つのプレーが、より精度を高めるかたちで披露されている。

 57分、橋本拳人が入れたくさびの縦パスを浅野がダイレクトで川辺駿に落とし、川辺が3人目の動きで飛び出した鎌田に縦パスを配給。受けた鎌田はシュートせずに浅野に預けたが、残念ながら浅野がトラップミスしてしまい、フィニッシュには至らず。しかし、この試合で初めて縦パスから複数人が連動しながらシュートに至った見事な攻撃シーンだった。

 また、その直後の59分には、橋本の縦パスを浅野がフリックで鎌田に預け、鎌田からリターンパスをもらった浅野がシュート。惜しくもGKにセーブされたが、この連係も浅野のポストプレーが関与したシュートチャンスのひとつだった。

浅野起点による2つの攻撃パターン

 もちろん、後半から浅野が直接縦パスを受けられるようになった要因のひとつは、タジキスタンのセントラルMFの2人(13番、17番)に疲れが見え始め、スライドが遅れ気味になったことが関係している。

 この試合のタジキスタンは、日本の両サイドバックの攻め上がりを4-4-2の両サイドMF(11番、7番)がついていく守備方法だったため、日本の縦パスのコースを切るためには、2トップ(21番、10番)の立ち位置と、その後方に位置する13番と17番のスライドが肝になる。

 ところが、前半はそれがかなりの精度でできていたのだが、さすがに後半になると2人の守備にズレが生じ始めていたのだ。

 いずれにしても、浅野が1トップで起用された場合は、裏抜けを狙った縦に速い攻撃と、ダイレクトで縦パスを処理するポストプレーから複数人が連動するという、2種類の攻撃パターンを実践していたことがわかる。

 その他、後半は2度ほど縦パスを受けて収めようとしたプレーもあったが、大迫のようにボールをしっかり収め、時間と空間をつくってから展開したのは、橋本の縦パスを受けてから右の坂元に展開した62分のシーンのみ。そのシーンも十分に"タメ"をつくったわけではなく、基本的には大迫のポストプレーとは異なっていた。

 そういう意味では、浅野なりの1トップのかたちは出せていたと見ていいだろう。ただし、トラップ、パス、シュートの精度はまだまだ改善の余地があり、少なくともこの部分のレベルアップが代表定着の条件になりそうだ。

個のプレー精度に改善の余地あり

 結局、この試合で日本が見せた縦パスは計30本(後半13本)。個人別で見ると、最も縦パスを記録したのは、9本の昌子だった。また、サイドからのクロスについては、前半10本、後半9本の計19本を記録(個人では山根の6本が最多)。しかし、成功は前後半各1本と、19本中17本が失敗に終わった点は課題と言える。

 そもそも、ほとんどボールを支配していた日本だったが(63.2%)、シュートは前後半各6本(計12本)と、決して多くなかった。これは浅野のポストプレー、あるいはクロスの精度にも言えることだが、試合を通して多くのチャンスを作れなかった最大の理由は、コンビネーション不足もさることながら、個々のプレー精度が大きく影響していたと言わざるを得ない。

 それがレギュラー組と控え組の違いと言ってしまえばそれまでだが、アジア最終予選では確実に相手のレベルが上がることを考えると、選手層を厚くするためにも、個のスキルをさらに改善していく必要があるだろう。

(集英社 Web Sportiva 6月10日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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