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「モチベーションは関係ない」。稲垣啓太の職業倫理。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
全身が鋼のよう(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 ラグビー日本代表の稲垣啓太が、気持ちの浮き沈みに左右されない職業倫理について語った。5月24日、複数メディア共同のオンライン取材に応じていた。

 所属する埼玉パナソニックワイルドナイツは、東京・国立競技場でのリーグワン・プレーオフ決勝を29日に控えている。

 今度の取材で稲垣は、決戦への意気込みを語る流れで自身の哲学を明かした。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――ここまでを振り返ったうえで、決勝への意気込みを。

「序盤は…ラグビー以外の部分で難しい部分がありました(部内のクラスター発生で開幕から2試合で不戦敗)。シーズンを通してどのチームも、コロナという問題を抱えた状態でやってきたと思うんです。ラグビー以外に気を取られるのはあまり面白くはないですけど、最終的には負けなしでこられた。選手全員のラグビー以外への心掛け、感染予防対策への心がけもレベルが高かったと思います。いま、決勝を控えているわけですけど、特別なことをやろうという気持ちはなくて、準備してきたものを100パーセント発揮すればできる。自分たちの力を信じているので、自分たちのやるべきことをやろうと思います」

――不戦敗が決まった時の心境は。

「チームの活動がストップしてしまったので、どうしようもない心境ですよね。チームとして活動することはできない。そのもどかしさはありました。ただ、そのシーズンを終えるわけではない。活動停止期間が明けた後に自分が何をしなければいけないか、すぐにマインドチェンジができたのはよかったです」

――昨季は感染者がいなかった。

「より、コロナを身近に感じられた。(今季開幕前までは)あまりコロナに対して、面識がないと言ったら変ですが、身近にコロナが迫っているという実感がなかったんですね。最初は症状が出ていた人もいませんでしたし、皆、普通に練習をしていました。ただ、気づいた頃には時すでに遅し、という感じ。『身近にあり得るんだ』を、全員が実感した瞬間だったと思います。だからこそ、いままでの準備ではだめなんだな、ただラグビーをしているだけでは今季は戦い抜けないんだなと実感しました」

――個人、あるいはチームにとって、今季のターニングポイントとなったものはあるか。

「個人のターニングポイントって、どこから僕が切り替わったとか、そういうのはないんですよ、この試合をきっかけにこうしよう…とかは、あまり思ったことがない。一貫して同じことを変わらずにやり続けるというスタンスです。

 変わらないものもありますし、その都度、対戦相手に合わせて変え続けなきゃいけないこともあるんです。

 ただ、対戦相手に合わせるというの(発想)が、僕は正直、好きではないです。対戦相手ありきの話になってしまうので。大事なのは自分たちが、自分が何をやらなきゃいけないのかであって。そのなかで相手がしてくることを予測して、それに対して自分たちが準備をする。それが、僕の言う『相手に合わせる』ということ。相手のペースに合わせることとは、また違いますね。

 とにかく、僕のターニングポイントは、今季、なかったと思います。

 チームのターニングポイントは…。プレー、試合、云々と、人に語らせれば色々と出てくると思いますが、僕が思うのはラグビー以外の部分ですね。コロナに対する予防対策のところで、チームとしてひとつターニングポイントになった瞬間がありました。

 開幕から2試合できなかったのはチームにとって大きな痛手でした。一番、低いところからスタートしたわけです。2試合を終えて勝ち点ゼロ、最下位のままスタートしてしまったと。ここから改めてコロナの予防対策を意識しないといけなかった。さらにこのビハインドの状態から、いかにしてプレーオフの切符を勝ち取るか…というところも逆算していった。

チームの規律、選手ひとりひとりの意識も、その(開催されなかった)2試合で大きく変わった。チームとして最初の結果はよくなかったと思いますが、リーグ戦を終えて、準決勝を終えて、チームの規律がその不戦敗のおかげでよくなったという印象があります。まぁ、よくも悪くも、ですけど」

――決勝について。対戦する東京サントリーサンゴリアスの印象は。

「誰に聞いてもこういう答えが返ってくる。アタックのチーム。皆、こう言うと思います。アグレッシブにアタックをする。勢いを作り出す。その勢いを使い、さらに勢いを作って、仕留め切る。仕留め切る力を持っている」

――かたやワイルドナイツはディフェンスのチームです。ディフェンスを成立させるためにすべきこと、してはならないことは。

「僕、そういう質問が来た時にこういう返ししかしていないんですが、反則、ですよね。

僕らは前回の準決勝で15回の反則があった。多すぎですよね。15回でよくあの点差だったなと思いましたが。

なぜ、こういうプレーオフで反則が危険かと言うと…。プレーオフでは、1点差でも勝てばいいんですよ。その1点の重みという部分で、反則は非常に大きな、試合の勝敗を分ける要因です。

いいキッカーがいれば、反則ひとつで50メートル圏内なら3点(ペナルティーゴール)を決められます。そうでなくても敵陣深くに蹴り込んで、ラインアウトからのモールでトライを決められる。上位4チームは総じてセットプレーのレベルが高いので、どのチームもそこ(ペナルティーキック獲得後)からチャンスを作り出せます。なので、反則をいかに減らすかは、ファイナルラグビーにとって一番、大きな要素です。これはテストマッチ(代表戦)でも同じです」

――反則をしない、とは、その日のレフリーに対応することも含まれるか。

「含まれます。レフリーも線引きが違いますから。『このラインまでならOKで、このラインを超えると反則を吹く』というものは、人によって違います。それに対して、アジャストする必要はある。アジャストしないで『これは違う、これは違う、これは違う』と言っていたら、違うまま試合が終わってしまいます。自分たちでどう正当性を示して、かつ(判定基準の)境目を探していく。ここが大事ですね」

――それにしても、心身の状態はどう維持しているのか。

「皆さんに言われますね。今季だけではなく、ほぼすべての試合に出させていただいて、代表活動やスーパーラグビー(2016年からの3シーズン、日本のサンウルブズに在籍)にも休まず参加させていただいたなかで、どういう風に身体をケアしているか。

 別に特別なことはしていないです。自分の身体にとって必要なことをその時、選択し続けてきたわけで。その選択が間違っていた時もあるし、間違ったからこそ次にいい選択ができるようになったこともあります。そして最終的に全部、正解にしてきて、結果、怪我なくラグビーをし続けられている。これからも自分にとって必要な選択をしていきたいです。

 モチベーションについてもよく聞かれるんですけど、正直、モチベーションって、関係ないと思っていて。

 こう言うと聞こえはよくないと思うんですが、僕はラグビーでお金をいただいて生活している。仕事です。そこに対して、モチベーションをどうこうというのは考えてないんですよ。だって、モチベーションがなかったらラグビーできないんですか? いえいえ、そんなことはないですよ。やるべきことやって正当な報酬をもらっているんだから、モチベーションは関係ないです。

 もちろんファンの方が会場に足を運んで下さり、お金を払ってチケットを買って下さる。それには責任が伴います。お金を払って見に来て下さる方に満足していただけるような試合、パフォーマンスをしなければいけない。それが選手の仕事だと思うんです。ここで、自分のモチベーションがないから責任は果たせないなんて、通用しないんですよ。それが僕の考えであって、だから――毎回、毎回、同じことを言いますが――自分のやるべきことをやる。仕事なんだから、ちゃんと準備して、そこに対して100パーセントの仕事をするのは僕にとっての当たり前のことであって、あまりモチベーションとかは考えたこともない。モチベーションが大事な時期がありましたが、そういう時期は終わりましたね。自分のやるべきことをやる。それでファンの方々、ラグビーをたまたまに見に来てくださった方々が何か感じてもらったら、それは選手として嬉しい瞬間ですね」

 ワールドカップに過去2大会出場の31歳。感情の起伏を遠ざけ、ひとつひとつのゲームで「責任」を果たそうとする。内省的であるさまも伝わる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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