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福島県沖の地震でも発生、エレベーターの閉じ込め対策が進まない本当の理由

中澤幸介危機管理とBCPの専門メディア リスク対策.com編集長
イメージ(写真:アフロ)

大きな地震のたびに、必ずと言っていいほど発生するのがエレベーターでの閉じ込めだ。2月13日23時7分に発生した福島県沖を震源とした地震(マグニチュード7.3)でも、仙台市などの都市部を中心に13台で閉じ込めが発生した(国土交通省災害情報第14報)。深夜にかかわらず、エレベーター内に閉じ込められた人は生きた気もしなかったことだろう。

ちなみに、2018年9月6日の未明(3時7分)に発生した北海道胆振東部地震では約9000台が停止し、やはり閉じ込めが20件以上発生した。今の時代、24時間、いつでもエレベーターの閉じ込めは起き得る。

その3カ月前、2018年6月18日の午前7時58分という通勤時間帯を襲った大阪北部地震(マグニチュード6.1)では、近畿2府3県(滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県)で6万3000台のエレベーターが運転を休止、346台で閉じ込めが発生し、大きな問題となった。

閉じ込めからの救出時間は、通報を受けてから最大5時間20分、平均約1時間20分で、9割近くは約3時間以内に解消したものの、それを超える案件もあった。

令和2年7月に国交省建築指導課がまとめた「エレベーターの地震対策の取組みについて(報告)」によれば、救出に3時間を要した原因は、公共交通機関の停止や交通渋滞による現場到着の遅れと、一般電話回線の輻輳による保守員への情報伝達の遅れとされた。

国土交通省建築指導課「エレベーターの地震対策の取組みについて(報告)」より
国土交通省建築指導課「エレベーターの地震対策の取組みについて(報告)」より

首都直下地震では1万7400人が閉じ込め

大阪北部地震のマグニチュードは6.1。地震の規模でいえば、今回の福島県沖を震源とする地震を下回る。近く発生が懸念される首都直下地震はマグニチュード7クラスとされ、仮に都心南部を震源にM7.3の地震が発生した場合の最悪シナリオでは2.3万人が死亡するとされている。

中央防災会議首都直下地震対策ワーキンググループによれば、首都直下地震では3万100台が停止し、最大1万7400人が閉じ込められるとの試算が出されている。2.3万人が命を奪われるような大惨事の中、この1.7万人は、いつくるかも分からない救助を閉鎖空間の中で待ち続けなくてはならない。ある試算では、首都直下地震でのエレベーターからの救出は、平均でも10時間程度がかかると見積もられている。さらに、都の試算では、震度6弱の揺れでも全体の15%のエレベーターが故障する可能性もあるという。参考までに、南海トラフ地震になれば、最大で約1万9000人が閉じ込められると想定されている(内閣府、南海トラフ巨大地震の被害想定)。  

2005年の千葉県北西部地震が示す課題

しかし、懸念されるのは、こうした巨大地震だけではない。

2005年7月23日に発生した千葉県北西部地震では、首都圏を中心に最大震度5強の揺れを観測し、真夏の夕方、エレベーター乗客の閉じ込めは78台に及んだ。閉じ込めからの救出時間は、通報を受けてから最大約3時間、平均約50分弱であったとされる(ウィキペディアによる)。

管理人や乗客が保守会社へ電話または非常ボタンでコールしようにも電話回線の輻輳により通じない場合が多かった。東京都庁第一本庁舎では展望室直行のエレベーターが自動停止し、地上45階の展望室にいた約200名が、約1時間半に渡って降りられなくなるトラブルがあった

つまり、大阪北部地震とほぼ変わらぬ被害が、2005年にも首都圏では起きていた。

その後の東日本大震災では、日本エレベーター協会のまとめによれば207件のエレベーターの閉じ込めが発生した(うち東京都は84件)。東京都内でのエレベーター閉じ込め救出には最大9時間以上かかったとされる。首都圏を直撃するような地震ではなくても、大規模な閉じ込めが発生する危険は高いということだ。

閉じ込めを防ぐには?

では、エレベーターの閉じ込めを無くすにはどうしたらいいのか? その対策がなかなか進まないのはなぜか?

千葉県北西部の地震を受け、2009年に改正された建築基準法により、新設のエレベーターには、「地震時管制運転装置」の設置が義務づけられた。地震時管制運転装置は、緊急地震速報と同じ仕組みで、はじめに到着する小さなゆれ(P波)を感知すると、その後に到着する大きなゆれ(S波)が来る前にエレベーターを最寄りの階へ自動停止する装置だ。日本エレベーター協会によれば、2019年時点で、58万1976台が既にこの装置を導入しているが、全国にあるエレベーターは約75万台とされ、まだ4分の1程度には入っていないことになる。

しかし、仮にこの装置を導入したからといって、閉じ込め被害がなくなるわけではない。

大阪北部地震では、閉じ込めに遭った346台のうち、139件は現行の基準に適合した地震時管制運転装置がついており、193件は、既存不適合(予備電源やP波感知を備えていない)ながら同装置をつけていた。多少は、閉じ込めに遭うリスクは減るかもしれないが、大きな期待は持てそうもない。つまり、「閉じ込めは必ず発生する」との前提での対策が求められる。

具体的に考えられる対策は、いち早くエレベーター保守業者に頼んで救出してもらう、いわゆる緊急用の備蓄ボックスを取り付けて救助が来るまでの間をしのぐ、あるいは専門業者の手を借りず当該建物の管理会社や入居者らで救出するような方法を考えるしかない。

当然、保守会社では対策を強化している。ある大手保守会社では、8時間以内に、すべてのエレベーター閉じ込めからの救出を目指し、500人以上の復旧員を準備している。が、それでも、「復旧要員を参集するまでに1時間程度、閉じ込め箇所を把握して救出指示を完了するまでに5時間程度かかると考えられる」という。「救出完了には約8時間を要する見込み」と言っても、通信の輻輳、交通渋滞、火災などの発生状況によっては、その数字は変わると考えた方がよさそうだ。さらに、これは大手保守会社の話であって、人材を十分に持っていない保守業者ではさらに対応が難航することも予想される。

では、緊急用備蓄ボックスで、防災用品を備蓄しておく方法はどうか。現在、新しいビルなどでは、こうした備蓄ボックスが備え付けられたエレベーターを見る機会も多くなった。中には水や携帯トイレ、アルミブランケット、間仕切りなどが入っているタイプが多いが、そもそもこうした備蓄ボックスがついているエレベーターは比較的に新しい物件であることが多いように思われる。年代別にどのようなビルに備蓄ボックスが備えられているかのデータはないが、防災に力を入れ、耐震性にも優れたビルほど設置されていて、本当に閉じ込め被害に遭う可能性が高い老朽化したような中小ビルほど設置が進んでいないとも考えられる。

エレベーターの非常用品収納ボックス
エレベーターの非常用品収納ボックス写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

また、この緊急用ボックスをつけても不安が解消されるわけではない。一人でエレベーターに乘っていたなら簡易トイレを使うことも可能かもしれないが、数人、もしくはそれ以上の状態で使うのは、間仕切りなどをしたとしても、かなり無理を伴う(個人的には簡易トイレよりは大人用オムツの方が使えるのではないかと考える)。こうした状況まで考えれば、「何もないよりはまし」「一人なら何とかなる」、というぐらいに考えたが方がよさそうだ。

しかも、この緊急用備蓄ボックスは、誰でも勝手に備えつけていいというわけではない。「取付方法や取り付けサイズにも注意が必要で、専門的な知識が求められる」と、あるビルメンテ会社の担当者は話す。「原則としてビルの所有・管理会社の依頼を受け、ビルメンテ会社が設置することになる」という。

住民に救助法を教える先進事例

こうした状況に対し、一般社団法人地域防災塾ザ・ふだん(代表理事岩本由起子氏)では、東日本大震災の直後から、マンションなどで「災害時エレベーター閉じ込め救出訓練の必要性を説き実践している」という(建築設備&昇降機150による)。座学と実践からのプログラムで、閉じ込められた時の行動や注意点、外部からの救出方法、注意点などを学び、実践を通じて体得していく。

入居者自らがエレベーターに閉じ込められた人を安全に救出できるようになれば、大きく対策は前進する。大切なことは、行政やビルの管理会社任せにしないで、まずは必要性を認識し、管理会社に相談するなど具体的なアクションを起こすことだ。

オフィスビルでも同じだ。危機管理とBCPの専門メディアであるリスク対策.comが行ったアンケート調査では、BCPにしっかり取り組む企業でも、エレベーター閉じ込めを想定して対策を行っている企業は3割に満たなかった。

https://www.risktaisaku.com/articles/-/48490

エレベーターの閉じ込め対策が進まない理由は、国や保守会社、建物の管理会社だけの問題ではない。まずは、入所する人、オフィスビルなら入居テナント1社1社が意識を高める必要がある。

危機管理とBCPの専門メディア リスク対策.com編集長

平成19年に危機管理とBCPの専門誌リスク対策.comを創刊。国内外500を超えるBCPの事例を取材。内閣府プロジェクト平成25年度事業継続マネジメントを通じた企業防災力の向上に関する調査・検討業務アドバイザー、平成26年度~28年度地区防災計画アドバイザー、平成29年熊本地震への対応に係る検証アドバイザー。著書に「被災しても成長できる危機管理攻めの5アプローチ」「LIFE~命を守る教科書」等がある。

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