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習近平、ダボス会議で主役 ――「鬼」のいぬ間に

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
習主席がスイス訪問 ダボス会議に出席へ(写真:ロイター/アフロ)

1月17日から始まったスイスにおけるダボス会議で、トランプ次期政権が保護貿易に向く中、習近平国家主席は「グローバル経済」を強調する基調講演をした。ウクライナ大統領とも会談しロシアを牽制するなど主役顔だ。

◆グローバル経済の主役顔の習近平国家主席

習近平国家主席は、1月15日からスイス入りして、16日に首都ベルンでスイスのロイトハルト大統領と首脳会談を行い、貿易投資を拡大させ、金融や保険分野で協力を高めていきたいとした。その後、列車の中で長いテーブルを挟んで歓談を続けるなどしながら、ダボス会議(世界経済フォーラム)の会場であるダボスに向かった。

習主席がダボス会議に出席するのは初めてのことで、スイスは「アメリカを除いた世界最強の経済国家」の代表として、国を挙げての破格の厚遇で習主席を歓待した。

17日には習主席がダボス会議で基調講演を行い、トランプ次期政権を念頭に、「反グローバル化」「保護主義」を批判した。

そして「現在、世界で起きている多くの問題は、決して経済のグローバル化がもたらしたものではない」とした上で、「中国は一貫して開放的でウィン-ウィンの地域自由貿易を貫き、排他主義に反対し、人民元を操作して貿易競争力を高める考えなど毛頭なく、ましていわんや、通貨戦争をする気などはまったくない」と主張した。中国メディアが伝えた。

今年のダボス会議は1月17日から20日まで開催される。最終日ギリギリまでオバマ政権時代の範囲内に入っている。したがってアメリカからはオバマ政権のバイデン副大統領とケリー国務長官が出席する。

本来なら1月下旬に開催されるはずだったが、あえて前倒ししたのは、トランプ政権に入る前に習主席が参加して、グローバル経済の旗手としての役割を果たしかったからではないだろうか。

一部には、中国の春節(今年は1月28日)を避けるため、スイス側の厚意から前倒ししたのではないかと言われているが、筆者はそうは思わない。

グローバル経済を牽引したオバマ政権が終わり、「アメリカ・ファースト」を掲げて保護主義に向かうトランプ政権が誕生する前の、こんな「奇跡的な間隙」を縫って開催するなど、いかにも中国が考えそうなことだ。

この「鬼のいぬ間に」、アメリカに代わって中国こそが世界のグローバル経済を牽引していくのだというメッセージを、世界にアピールするための戦略であったと、筆者は見る。

◆ウクライナの大統領とも会談する習近平国家主席

習主席は17日、ダボスで、ウクライナのポロシェンコ大統領とも、実ににこやかに首脳会談をした。中国共産党の機関紙「人民日報」の電子版「人民網」が伝え、中央テレビ局CCTVが習主席とポロシェンコ大統領の晴れやかな笑顔を大きく映し出した。

ウクライナと言えば、昨日のコラム「露ハッキング喜ぶ中国――トランプ・プーチン蜜月を嫌い」で書いたように、まさにロシア(のプーチン大統領)とは犬猿の仲。クリミヤ問題で衝突したままになっている。

そのウクライナの大統領と会うということは、プーチン大統領に「仇(かたき)」と会っていることを見せつけて、やきもちを焼かせようという魂胆か。外交戦略とはいえ、なんとまあ、露骨なことをするのだろう。

スイスのロイトハルト大統領に見せたときの笑顔よりも、さらに「とろけるような笑顔」をポロシェンコ大統領に見せる「習近平」という男の「さま」に、唖然とした瞬間だった。

トランプ次期大統領はこの日、イギリスのEU離脱を讃え、離脱者が続くだろうと言って、EU加盟国に不快感を与えた。

まもなく誕生するトランプ政権が地球上に起こすであろう地殻変動は、留まるところを知らない。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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