マネタイゼーションに気を付けろ
昨年末あたりから、金融の一部の関係者ではなく、世間一般で注目されているのが、「日銀の物価目標」ではなかろうか。金融の関係者の間では、インフレターゲットやら調整インフレ、インフレ目標と呼ばれる金融政策は昔から議論されていたが、世間からすれば非常にマニアックな議論であったかと思われる。
たとえば、iPadに使われている液晶の製造元がどこであるのかとかに関心があるのは、一部の専門家というかマニアであった。ところが、iPadのRetinaディスプレイが綺麗であると宣伝されると、Retinaディスプレイが何であるかはさておき、それはすごいということになる。
安倍自民党総裁が12月の衆院選に向けて、世間にアピールしたのが、デフレ脱却であった。その目玉のひとつとなっていたのが、日銀によるインフレ目標であった。当初は、まだ野党であるから何でも言えたのかは知らないが、良く分からない過激な発言も目立った。しかしここにきて、どうやら日銀に2%のインフレ目標を持ってもらうことに落ち着いてきたようである。
いわゆるアベノミクスと呼ばれた政策に対して、それにより円安株高を招いたとの見方もあり、世間からはおおいに注目された。円安となり株が上がれば皆喜ぶのは必然か。安倍政権はデフレからの脱却に向けて救世主となりうるとの期待も強まったようである。
10日の産経新聞の「正論」で双日総研の吉崎達彦氏が、床屋の店主が日銀はもっと積極的に金融緩和すべきだと話していたことを伝えていた。同様の経験をしたことのある人も多いのではなかろうか。正月に親戚が集まった席で、はたまた久しぶりの友人と会ったときに、さらにタクシーの運転手と話しをしているときに、日銀の金融政策やアベノミクスが話題になったのではなかろうか。
私も同様の経験があり、多くはもっとしっかりとリフレ政策のリスクも伝えないといけないと感じることが多かった。そんな中にあり、安倍さんの政策って恐いんじゃないか、との意見もあった。この人は私のブログとかを読んでいる人ではなく、金融関係者でもなかったが、意外とそのあたり見抜いている人もいるのかと関心した。
実際問題として、日銀が2%の物価目標を設定すれば物価が上がるのかといえば、そんな単純なものではない。それができるのなら日銀はすでに手を打っているはずである。その手を打っていないからデフレが続いたとの議論もあろうが、その手段というのが、安倍首相に言わせれば、次元を変えた政策という。これまでの発言内容からすれば、その次元というのは、マイナス金利とかだけではなく、どうやら禁じ手を指しているかのようにも思われる。いわゆる輪転機発言もその一環ではなかったろうか。
米国でも米財務省がプラチナのコインを発行して当座をしのぐ案が話題を呼んでいるそうである。この「奇策」では、まず米財務省が額面1兆ドルのプラチナ硬貨を発行。これをFRBに預金して得た1兆ドルで当座の政府の資金繰りをまかなうと言う(日経新聞電子版)。これはまさに典型的なマネタイゼーションであり、そんなことが話題になっていることそのものが少し恐い。しかも、ノーベル賞経済学者のクルーグマン・プリンストン大教授がこれについて、「まやかし」と認めつつ、「経済に何ら悪影響がない」プラチナ硬貨を使わない手はないと自身のブログで繰り返し訴えたそうである(同じく日経新聞電子版より)。
ノーベル経済学賞受賞者に楯突く気はないが、本当に「経済に何ら悪影響がない」のであろうか。その点は甚だ疑問である。ただし、今後日本でも、現在世間が注目を集めているものが「インフレ目標」から、いずれ「マネタイゼーション」と変わる可能性もありうる。リフレ政策のかけ声だけでも円安株高を招いたのなら、それを実現すれば日本経済はもっと良くなるとの期待感が今後強まったとしてもおかしくはない。その際に、もし「マネタイゼーション」など気にするな、となれば、ブレーキが外されたクルマとなりかねない。