今の日本ではありえない韓国財閥とスポーツの長くて深い“くされ縁”
いよいよ開幕が迫ってきたリオデジャネイロ五輪。韓国は24種目・204名の選手をリオに派遣し、目標とする“10-10”達成を目指すが、そんな韓国のリオ五輪選手団の団長を務めているのはチョン・モンギュ氏だ。
日本選手団の団長である橋本聖子氏のようにオリンピック経験者でもなければ、選手出身でもない。本職は、韓国の財閥2位の現代(ヒュンダイ)グループ傘下のデベロッパーカンパニーである現代産業開発の会長だ。2009年からは大韓サッカー協会の会長職にあり、今回は「五輪種目競技団体の長で、国内外スポーツ発展への貢献度、スポーツ外交能力、強いリーダーシップを理由に選任された」(大韓体育会)という。
興味深いのは、このチョン・モンギュ会長だけではなく、韓国の多くの財閥の長たちがスポーツ団体の会長職にあるということだ。韓国アーチェリー協会、韓国卓球協会、韓国ハンドボール協会、韓国乗馬協会、韓国射撃連盟などがそうで、それもただの財閥ではなくサムスン、ヒュンダイ自動車、SK、韓進などの大財閥の会長たちばかりなのだ。
(参考記事:競技者出身はゼロ? 韓国スポーツ団体の長はほとんど財閥オーナーだった!!)
もっとも、韓国スポーツが財閥の支援を受けているのは、今に始まったことではない。もともと韓国では各種スポーツ団体の協会会長職は政治家や有力者たちの名誉職であったし、全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領が政権を握った80年代になると、「体育立国」をスローガンに掲げた政策を推し進めた全斗煥元大統領は主要財閥のトップたちを集めて、財閥が所有していた実業団チームのプロ化を強烈に勧めたり、財閥企業に半強制的にスポーツ振興に取り組むよう指示した。
(参考記事:集中連載/Kリーグvs韓国プロ野球 プロ化を後押ししたのは軍事政権だった!!)
プロ野球やKリーグもその一環で立ち上がり、参加企業の中には軍事政権の顔色を窺がって渋々参入したところもあったというが、そうした財閥の支援もあって発展してきたのが韓国スポーツでもある。
今や五輪でメダルの稼ぎ頭となっているアーチェリーやハンドボールなどはその典型だ。財閥会長が競技団体のトップに就くことで資金が充実し、それが選手強化にも繋がった。今回のリオ五輪でも韓国が出場する24種目のうち、12種目の競技団体が韓国財界ランキング50位以内の大企業から支援を受けているほどなのだ。
(参考記事:財閥の支援で成り立っている韓国スポーツ界の“もうひとつの真実”)
ただ、その一方で中小企業からの支援や物品提供などで留まっている競技団体もある。かつてはサムスン・グループ総帥のイ・ゴンヒ氏が協会トップを務めいた韓国レスリング協会も今ではサムスンが撤退し中小企業からの支援に留まっている。ボート種目の韓国漕艇協会などは中小企業からの支援もない。
こうした状況を目の当たりにして、「貧益貧富益富(貧しいところは引き続き貧しく、裕福なところはますます裕福になるという意味)が進む韓国スポーツ界」という指摘もあるほどだ。
韓国社会全体で貧富の格差が広がる今、韓国スポーツ界でも両極化が進んでいるのだ。格差社会の中でときに非難の対象にもなっている財閥たちが、実は韓国スポーツの下支えになっているのだから皮肉な話でもある。
(参考記事:日本と韓国の大富豪は何が違う? 億万長者の成り立ちに見る韓国の経済格差)
もっとも、五輪期間中の韓国はそんなこともお構いなしに盛り上がるのだろう。メダル獲得となれば、それこそ選手や競技団体を支援してきた財閥の取り組みは、社会貢献や企業の美徳として評価され、企業イメージも大幅にアップする。そのせいだろうか、チョン・モンギュ選手団団長だけではなく、すでにSKグループや韓進グループの会長たちも、会長職を務める競技の応援のためにリオ入りすることも表明しているらしい。
いずれにもして財閥オーナーたちも関心を示す韓国のオリンピック熱。日本で韓国財閥というと、大韓航空の “ナッツ・リータン事件”や、ロッテ・グループのドロ沼後継者争いなどが連想されがちだが、韓国スポーツ界と財閥の関係も知っておくのも面白いはずだ。