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「野沢温泉村の地価上昇」報道、実際に赴き不動産鑑定士・税理士目線で考えたこと

冨田建不動産鑑定士・公認会計士・税理士
野沢温泉のシンボルの大湯~この記事の写真は全て令和6年5月2日筆者撮影

■はじめに

少々前のことですが、長野県の野沢温泉村で、外国人の不動産需要で地価(令和6年公示価格)が上昇したという報道がなされていました。

なるほど、野沢温泉村の令和6年公示地は2地点ありますが、令和6年の鑑定評価書を見るに『外国人による不動産取得が目立つ』旨を前提として価格上昇としており

「野沢温泉-1」…23,000円/平米/前年比+15.0%

「野沢温泉-2」…17,300円/平米/前年比+10.9%

となっています。

隣の飯山市の公示地は前年比で下落地点が目立つのとは対照的です。

実は野沢温泉の2公示地両地点とも、令和3~4年は下落傾向でした。「野沢温泉-2」に至っては平成10年に46,000円/平米であったものの、平成11~30年に20年連続で下落し、平成30年は14,900円/平米まで落ちたという惨状でした。

※「野沢温泉-1」は平成31年から公示地になったのでそれ以前の推移はなし。

さて、では税収を含めた村の活性化はどうなっているのか。

たまたま、筆者は5月2日に長野市内に鑑定評価に伺ったので、足を延ばして野沢温泉村に赴き、考えてみることにしました。

長野からの飯山線のディーゼルカーキハ111形。非電化路線のためディーゼルカーである。
長野からの飯山線のディーゼルカーキハ111形。非電化路線のためディーゼルカーである。

■野沢温泉村に行ってみた

長野市内での鑑定評価が終わったので、まずは長野から飯山に向かうべく、JR飯山線の列車に乗りました。本当は新幹線で飯山駅まで一駅で行きたかったのですが、飯山駅に停車する新幹線「はくたか」号の本数がわずかでJR飯山線の方が早かったのです。

で、飯山駅から13時40分発の「野沢温泉ライナー」なるバスに乗車しました。が、思ったより乗客はいません。

ただ、バスの運転手さんにも話を聞くと、「冬は乗客がいっぱいだった」とのことです。

で、野沢温泉のバスターミナルに到着しましたが、典型的な地方の観光地であって、一定の賑わいはあるものの、5月2日の時点では外国人は見かけませんでした。

そして、村の中心の温泉街はバスターミナルから北側にあるようで、ゴールデンウィークなので観光客が多く、先ほどまで鑑定評価のお客様とご一緒していたためにスーツ姿の筆者が浮いている状況でした。

飯山駅からのバス「野沢温泉ライナー」。鉄道のない村への主たる公共交通機関である。
飯山駅からのバス「野沢温泉ライナー」。鉄道のない村への主たる公共交通機関である。

都内の公示地の鑑定評価もさせて頂いている不動産鑑定士として、公示地も見てみました。

行ってみて気が付いたのですが、野沢温泉村の2つの公示地は両方とも「民宿」です。

つまり、令和のこの時代でも、がちがちのリゾートホテルではなく民宿が必要とされるほどに観光需要があるのだとも思いました。

また、観光協会に話を聞くと、「特に統計はとっていないが、外国人が増えている印象」との話であり、旅館組合に話を聞くと「コロナ禍前より宿泊者数はやや弱含みな印象だが、宿泊単価は上昇している印象」とのことでした。

バスの野沢温泉中央ターミナル。
バスの野沢温泉中央ターミナル。

■野沢温泉村役場に行ってみた

今春、3年に一度の評価替えされた固定資産税標準宅地のデータ(令和6年1月時点)が公開されました。

※評価替え年以外は、直近の評価替え年の評価額をベースに一定の修正を行っています

固定資産税標準宅地は、公示価格等から比較検討して得られる

(1)ある地域の標準的な宅地の課税用の価格を定め

(2)そこから比較検討して各土地の固定資産税評価額を算定する基礎となる

土地の固定資産税課税の大前提となる価格の目線です。

野沢温泉村役場の税務課によると、村内の固定資産税標準宅地の令和3~6年のデータが開示されたので、村内の全地点のデータをお願いしました。

観光案内所のパンフレット。外国語のものが用意されている。
観光案内所のパンフレット。外国語のものが用意されている。

公示価格の上昇が報道されていますが、標準宅地に関しては実は全地点が上昇という話でもありません。むしろ、下落している地点もありますので、そのあたりの土地に関しては税収減となります。

しかも令和5年の標準宅地の価格との比較で「もっとも上昇した地点」でも+5.4%(当該地点の前回評価替え時の令和3年との比較で+3.8%)で、地価公示価格ほどは固定資産税評価額は上がっていないことがデータからうかがえました。

公示地「野沢温泉-1」付近
公示地「野沢温泉-1」付近

公示地「野沢温泉-2」付近
公示地「野沢温泉-2」付近

■筆者が思ったこと

「外国人の不動産取得による価格上昇」がよいことなのかは別の機会に検討するとして、野沢温泉村の場合はスキーヤーを始めとする観光客で潤っている部分があり、税収にも多少なりとも貢献しているのも事実。

なので、筆者は提唱します。

「日本人こそ、海外旅行に行くよりも国内を旅行して欲しい」と。

5月なので運休しているスキー場のリフト。筆者は公示地や役所も含め野沢温泉バスターミナルから徒歩で移動したが、言い換えれば村の中心部は徒歩移動で賄える程の利便性があるといえる。
5月なので運休しているスキー場のリフト。筆者は公示地や役所も含め野沢温泉バスターミナルから徒歩で移動したが、言い換えれば村の中心部は徒歩移動で賄える程の利便性があるといえる。

冬はゲレンデになるであろう山肌。
冬はゲレンデになるであろう山肌。

難しいことではなく、例えば新婚旅行や卒業旅行、修学旅行を海外ではなく、北海道でも沖縄でも関東や関西の奥座敷でもよいですが、国内にする。

たったそれだけでも、地域の一助になるのです。

それは、間接的に地域の税収上昇にもつながるので、それで地方が活性化し、国力の強化にもつながりますから、間接的に自身にも返ってくるのではないでしょうか。

野沢温泉村役場役場
野沢温泉村役場役場

個人的には、「日本人こそ海外ではなく国内に旅行しよう」キャンペーンがあってもよいくらいとすら思っています。

外国人のインバウンドに頼る前に、日本人自身が国内に目を向けるべき。

その意義を野沢温泉村の状況を見て感じたのですが、皆様はどのようにお感じでしょうか。

現場からは以上です。

帰りの「野沢温泉ライナー」の車窓から。地価上昇で村の中心部は賑わっているが、少し離れると地価上昇とは言い難い鄙びた風景が広がっている。
帰りの「野沢温泉ライナー」の車窓から。地価上昇で村の中心部は賑わっているが、少し離れると地価上昇とは言い難い鄙びた風景が広がっている。

この記事は、Yahoo!ニュース エキスパート オーサーが企画・執筆し、編集部のサポートを受けて公開されたものです。文責はオーサーにあります

不動産鑑定士・公認会計士・税理士

慶應義塾中等部・高校・大学卒業。大学在学中に当時の不動産鑑定士2次試験合格、卒業後に当時の公認会計士2次試験合格。大手監査法人・ 不動産鑑定業者を経て、独立。全国43都道府県で不動産鑑定業務を経験する傍ら、相続税関連や固定資産税還付請求等の不動産関連の税務業務、ネット記事等の寄稿や講演等を行う。特技は12 年学んだエレクトーンで、平成29年の公認会計士東京会音楽祭では優勝を収めた。 令和3年8月には自身二冊目の著書「不動産評価のしくみがわかる本」(同文舘出版)を上梓。 令和5年春、不動産の売却や相続等の税金について解説した「図解でわかる 土地・建物の税金と評価」(日本実業出版社)を上梓。

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